論考

Thesis

原点回帰

政経塾2年目を迎え、始めて月例報告を執筆することになった。
 今回は第一回目ということで、まず自分が抱いている日本の現状の認識、そして自分の理想とする国家観を概観した後に、今後の塾生活動において成し遂げたいことを述べることとする。
 抽象的な内容になってしまうことはお詫び申し上げるが、このような政治的・人間的な哲学がないことにはそれぞれの政策なり提言が非常に陳腐なものになる恐れがあると考える。

 現在の日本は未曾有の国難に瀕している。「失われた10年」という言葉に象徴される経済不況、破綻同然の財政赤字、続発する凶悪犯罪、など「ジャパン・アズ・No.1」と称された80年代の日本と同じ国であることさえ疑うくらいの凋落ぶりである。明治維新・終戦後につぐ改革期だと言われるが、国家体制は変化しないとしてもスケールとしてはそれらに匹敵するものはある。

 また、日本を取り巻く国際情勢も非常に複雑さを増している。朝鮮半島は依然として緊張関係が続くものとして見ておかねばならないし、中台関係も一朝一夕にはいかない。小泉内閣の発足によって集団的自衛権の行使についての議論が具体的な政治課題に上りつつある中で、アジア諸国の対応も注視しなければならない。日米関係は言わずもがな、である。

 このように非常に重要で難しい課題が山積みの状態であるが、一般国民の間でこのような危機感が共有されているか、というとはなはだ疑問である。経済的に非常に豊かになったこの国に於いて、餓死するような事態はほぼ起こらないし、軍事的脅威にさらされ自分の生命の危険を覚えるような事態も想像しにくい。実際失業率も大陸ヨーロッパ各国と比較してみても非常に低い水準であるし、諸外国で目にする大規模なデモも日本ではめったに見られない。

 つまり、なんだかんだ言っても現状の生活にある程度の満足を覚え、将来をはっきり見渡すことの出来ない急激な環境の変化は望まない、国民総保守化の動向が見て取れる。これはかつて隆盛を極めたローマ帝国が国防の一切を異民族であるゲルマン人にゆだね、権力闘争や大衆娯楽におぼれ、衰退していったプロセスに符合するものだ。

 ただ、ここ1,2年における潮流を分析すると、確実に新しい流れが生まれているのは事実である。無党派の候補が相次いで当選した知事選挙、着実に活動の幅を広げているNPO、など、既存の勢力には期待・依存しない新しい勢力が台頭しつつある。行政・政治・民間ではない何か、が今後の社会を動かしうる可能性を大いに秘めていることは間違いないだろう。

 私の理想とする国家像は、国民すべてが適材適所に自分の居場所を確保するために努力し、その天分を全うすることに誇りとやりがいを感じ、各自の持ち場に於いて究極的な「道」を探求するために人生を過ごす、そんな社会である。そこにおいての政府の役割は、国民が努力をするためのインセンティブを与えること、国民に最小限度の生活を保障すること(教育・社会保障・福祉)、全国的な見地から行う必要のあるもの(国防・財政・治安維持・司法)に限られる。

 日本には古来から「八百万の神」という思想がある。古代アニミズムの流れから自然崇拝の習慣を持つ我々は自然におけるあらゆるものに神が宿っていると信じてきた。川・山・海、果てはお風呂・トイレに至るまで私たちはお正月にお餅を供えた。この精神の延長に他人に対する思いやり・尊敬・礼儀、公共のスペースに対する配慮などが道徳的な観念として存在し、またすべての職業に対する道(大工道・教師道など)が尊敬を集めるような慣習が存在している。

 こうした考えは現在「古い!!」として、もしくは「右翼!!」として意味不明な批判を浴びがちであるが、ここに日本人の精神の根本があるように思うし、現在の社会にも生きている。(タバコを道に捨てる輩がいたら、気分を悪くするだろう?!)

 これらを包含する観念が日本固有の文化であり、私はアイデンティティーも同じものとして定義する。これらの認識・回復が今後の日本社会のルネサンス・発展のキーになる。同時にグローバル化の進む国際社会で日本が生き残り確固たる地位を築いていく上で、日本文化の世界への発信・魅了というテーマも重要になってくる。この二つの命題に塾生としてチャレンジしていく所存である。

 具体的には、前者においては日本文化の中心である京都での国際芸術祭典の開催、もしくはそのムーブメントを作ることである。日本の伝統文化的象徴としての京都という観点において、最近の低迷・凋落ぶりは目を覆うものがある。この祭典を作り上げていく段階において、各界(政治・行政・民間・市民・寺社仏閣)のネットワーキング、また今後の京都の進むべき道(ビジョン)を提示していくつもりだ。

 後者においては、日本の文化戦略への提言である。国家の重要な政策の一つとして文化を捉えている欧米諸国に比べて日本の文化政策には戦略性が著しく欠けていると言わざるを得ない。主要先進国の文化戦略を踏まえた上で、今後の日本の文化戦略に対する提言を行っていく。その過程において、シンポジウムの開催、この分野における研究者とのネットワークを構築し、また京都の祭典との提携、という視点も加えて活動を展開していくつもりである。

 両方ともに前例の絶対量が少ないために思うように進まない点もあるだろうが、これは絶対に必要なテーマである。フロンティアを開拓していくつもりで頑張っていく。


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二之湯武史の論考

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Takeshi Ninoyu

松下政経塾 本館

第21期

二之湯 武史

にのゆ・たけし

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