論考

Thesis

出てくるコース料理をまずいという勇気

■ オムレツと多国籍料理レストラン

 政経塾での研究実践生活も残り4ヶ月となった。私は塾生活最後の研究対象に選挙を控えた公認候補者を選んだ。政策で勝負できる政治家を一つの最終形に見据えながら手探りを続ける中で、二つのことがどうして頭を離れなかったからだ。

 見つけた良いアイデアをどのようにして腹をくくって世の中で形にしていくのか
 そして、どうやってそれを人々に伝え、それを共有していくのか

 この実現と共有の橋渡し役を政治家こそが果たすべきであると常々考えてきた。だからこそ、その橋渡し役を果たせるよう精進を続けてもいるし、そのような人が政治の仕事を頑張れるようにサポートをしてきた。
 ただ、私が学んできたのは、一品料理の作り方だった。いわばオムレツの作り方を一生懸命に何度も何度も繰り返し練習したようなものだ。うまくなるスピードは人には劣るけれど、素人料理よりは見映えも味も多少良くなってきた。このオムレツが全ての洋食料理の基本だということも肌身で感じることも増えてきた。
 しかし、私が一生涯取り組もうとする実際の政治はコース料理のようなものだ。それも多国籍料理の店のそれである。

 私は悩んだ。私のオムレツはその中の一ジャンルである洋食の一料理に過ぎない。しかもまだ中途半端な完成度だ。このオムレツで店は出せない。塾を創設した松下幸之助氏は、塾を出たらすぐにでも文部大臣をできるという気持ちで学べといったが、私に関して言えば、まだまだ遠い道のりだ。どうするか。
 私は、実際に店の厨房に立たせてもらって、実地でコース料理の作り方・出し方を学ぶことにした。政策で勝負しようとする国政選挙の新人の候補者をつきっきりで研究することにしたのである。私は新規出店のレストランの見習い、ものを売るお店で言えば丁稚になったわけである。
 私のオムレツはまだまだ店で出せるものではない。もちろんこのオムレツの作り方をまずは極めるという方法もあった。例えば、学問の視点から政策の知識を十分につけるといったことだ。多くの人々は私にこれを勧めた。
 しかし、世の中にこれだけまずい料理が連なったコース料理を出すお店がはびこる中で、私は、手ごたえのあるコース料理を探し当てること、そして人々においしいコース料理を口にできる可能性を感じてもらうことが自分のやりたいことに最も近いと感じていた。

 私はひとりの人間に出会った。松井孝治(まついこうじ)。2000年10月まで通産省(今の経済産業省)に務めていた、世間に言う元エリート官僚だ。大手ホテルの一流和食レストランで修行していたシェフようなものだ。その道では知られたシェフである松井は、日米半導体交渉や省庁再編など、この国を形作る料理に18年間真正面から取り組んできた人間である。その彼が言った。

 「自分が人々に食べて欲しいコース料理を、このレストランにいては作れない。」

 自分たちのまずいことに気がつかなくなっていくレストランの他のシェフにまったく異なるコンセプトの料理を見せたい、食べさせたい。
 彼はレストランを辞め、国政選挙への出馬というかたちで自分の店、しかも多国籍料理の店を持つことに挑戦し始めた。私はこの店を一緒に切り盛りさせてもらうことにした。彼の店で出す料理で何人の人に振り向いてもらえるか。最近の料理はおいしくなったといってもらえるか。彼は私の分身、自分のことのように人の事をするという、ある意味でのチャレンジだ。

■ 出てくるコース料理をまずいという勇気

 その店にはいまだにシェフである松井と私の二人しかいない。名前ばかり大げさな小さな店だ。その店の名前を知る人はまだほとんどいない。現在開店準備でてんてこ舞いだ。そんな中、助っ人が現れた。政党というチェーンレストランの団体だ。松井は、この政党が出しているコース料理のイメージに共感する部分を持っている。早速手を貸してもらうこととなった。
 政党は開店準備にあたってさまざまなノウハウを提供してくれている。レストランの開店、そしてコース料理を一から考えることが初めてである松井と私は、このノウハウに飛びついた。
 このノウハウは非常に効率的にできている。何度も他のレストランの開店作業に関わっているからだろう。レストランの内装や宣伝、中には、コース料理のメニューまである。

 私は思った。
 新規開店を目指す料理人は慣れぬ世界に身を置くのでみんな不安なものだ。松井とて例外ではない。そんな不安を抱える料理人にこれらのノウハウやメニューを受け付けないことができるだろうか。もちろん役に立つものも多々ある。しかし、中には口に合わないものもある。
 そんな中で、開店作業に忙殺され、肝心の味に鈍感になってはいまいか。公約となる政策を考える際にも誰の口にも合う料理にしようとしてはいまいか。私が政治を目指した理由は、口にやさしいものばかり食べるのではなく、まずくとも身体のためになる料理を自信を持って人々に食べてもらってみんなで健康になることだったはずだ。今こそそのことを実践するタイミングであるはずだ。

 出そうとするコース料理がおいしくない時にはまずいという勇気をもつこと。なんとなく出しつづけない、食べつづけないこと。これこそが開店準備を進めることや店のオープンよりも優先して私が気をつけるべき部分だということを今一度ここで肝に銘じたい。自分の舌の感性を信じて。お客様の笑顔のために。

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城井崇の論考

Thesis

Takashi Kii

城井崇

第19期

城井 崇

きい・たかし

衆議院議員/福岡10区/立憲民主党

Mission

政治、とりわけ外交・安全保障及び教育 在塾中

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