論考

Thesis

海の向こうのちょっと贅沢な話

今年、アメリカでは4年に一度の大統領選挙が行われている。情勢は共和党候補、G,W,ブッシュテキサス州知事が当初、資金力にものを言わせ優勢であったが、8月中旬に行われた民主党の党大会の後は民主党候補のA、ゴア副大統領が始めて世論調査でブッシュ候補を追い越し、その後、現在までブッシュにリードを許していない。9月8日付のワシントンポストでは両者の支持率が並び、依然、予断を許さない状態にある。その中で両者で熱い論争が行われ、選挙の行方を左右するものとして注目を浴びているのが「減税」の問題である。

最近のアメリカ財政

 減税が大きくクローズアップされる基となったのは98年度からの財政黒字である。この年、30年ぶりにアメリカ政府の財政は690億ドル(GDP比0.4%)の財政黒字を記録した。これは92年度にはGDP比5.9%の赤字だったものがその後の景気回復、財政改革によってもたらされたものだ。しかし、この年は一般予算は300億ドルの赤字があり、黒字分はベビーブーマーによる社会保障費の990億ドルの黒字によるところが大きい。その後、99年度は1240億ドルの黒字を記録し、ここで一般予算もほぼ均衡することになる。今後、この黒字は伸び続け、ある調査によると2005年度には2150億ドルの黒字に達すると見積もられ、クリントンによると2013年までにアメリカの財政赤字はなくなるだろうということだ。

これまでの財政再建

 1980年代初頭のレーガン政権は経済不況に直面し、減税を行った。しかし、それに伴って行われるはずだった経費節減は議会と合意に達せず、赤字を大幅に膨らます基となった。その後、1990年までにブッシュ政権はその先5年で5000億ドルになると言われた財政赤字を避けるために、増税と経費節減を行った。同じ頃、議会は予算作成に際し、これ以上赤字が増加するのを防ぐため、Budget Enforcement Act (BEA)という法案を通し、その後の裁量的経費の増加を防ぐとともにpay-as-you-goと呼ばれるルールの基で経常的経費の増額や新しい減税案に対してスクラップ財源を必ず提示するよう義務付けるなど経費の増大を防ぐ措置を行った。このような措置にもかかわらず、1990年代の不況は財政赤字を増やし、1992年には最高を記録した。それを受けて、その後のクリントン政権は93年に裁量的経費の上限やpay-as-you-goルールを厳しくし、97年には財政均衡法を成立させる。これは当初、2002年までの均衡財政を目指したものだが早くも98年にその目的を達することとなった。

共和党の減税案

 ブッシュ側の調査によると、今後10年で2.9兆ドル(約300兆円)が財政黒字として余ると予想している。これに対し、ブッシュは黒字分は政府のものではなく、そもそも国民に返すべきものだと訴え、すべての階層に及ぶ減税を主張している。また、これによって国民の所得を増やし、より一層の経済成長を促す狙いもある。この減税案は理念として「人々を信じよう」と題し、「国民のニーズは多様であり、政府がそれぞれのニーズに応えることはできない。一番良い方法は自分の所得はより多く手許に持たせて、それぞれに適当と思われるものに使ってもらうことだ。」と主張している。計画では最初の5年で4600億ドルの減税を行うが、それは黒字分の約25%にあたる。そして一般予算ではない社会保障費の黒字分はそのまま社会保障費に残し、将来の社会保障を一般予算に転用しないと約束することで確保し、残りは債務の返済、防衛、教育など重要な分野に優先的に使うとされている。
 減税の主な計画は以下の通りである。

1 税率の削減
 これまで、15,28,31,36,39.6%の5段階の累進課税制度だったのを10,15,25,33%の4段階に改める。とくに、所得が少ない家庭が勤勉に働いて中間層に仲間入りできるように、非課税の幅を拡大したり、15%の最低税率を10%に減らしたのを始め、中間層が28%、31%と二つに分かれていたのを公平にするために25%に統一したと訴えるなど、これまで共和党が弱かった階層にも配慮を加えたことを見せることによって、民主党の批判を防いでいる。減税によって働く意欲をより刺激するのが狙いである。

2 貯蓄や投資の奨励
キャピタルゲインの最高税率を20%から15%に減らす。

3 既婚者の減税
 アメリカでは既婚者が平均で1年に1400ドル余分に未婚者よりも多く支払っているとして、これを結婚税と名付け、廃止を訴えている。尚、これは今年度の議会で共和党よりMarriage penalty tax Relief Reconciliation actとして共和党より提案された。これは5年で840億ドル、10年で2920億ドルの減税案で議会では一部の民主党の支持も得て両院を通過したが、大統領が8月に減税額が大きすぎることを理由に拒否権を発動し下院に戻され、現在、審議中である。

4 相続税の廃止
 重すぎる相続税が中小企業などには重い負担になっているとしてこれを死亡税と名付け廃止を訴えている。これもDeath Tax Elimination Actとして共和党より、今年度の議会に提案された。これは今後10年間で段階的に相続税を廃止するという法案であったが大統領はこれが富裕層のための減税であり、また、今後10年で1000億ドル、20年で750億ドルの総額が政府予算として失われることから、これもまた8月31日に拒否された。その後、下院で拒否権を覆す採決が行われたが、一部の民主党の賛成を得たものの2/3の賛成を得られず、9月7日に廃案となった。

 アメリカでは21世紀の始まりにあたって、財政黒字をどうするかで、時に相手の減税案を無責任だと罵り合いながら、熱い戦いが行われている。そして、減税によってこの好況を維持しようと考えが巡らされている。民主党はこれに対し、黒字分は主に将来のために蓄えることを主張しているが、どちらの主張も財政赤字にあえぐ、我々日本人には希望に満ちたものに見える。しかし、アメリカもどん底の時代はあった。80年代は台頭してきた新しい経済にアメリカは太刀打ちできなくなるであろうと言われた時代であった。
 現在のアメリカの繁栄はそれから20年間かけて行われた政府の財政再建の結果によるものとも言える。それに加えて、注目すべきなのはこのような好況の時代にも政策論争は具体的な数字を出しながら行われ、また、それは5年先、10年先の国を想定した数字で行われ、それは国民に今後国の進むべき方向を指し示していると言える。この現状は早くて今から10数年で政府債務を無くすことなどを考えるとアメリカは今後、世界の人がうらやむ国になるのではないかと今の日本を省みると危機感を持たざるを得ないが、なすべきことを確実にやっていけば我々の日本にもアメリカのような成功はやってくるのだと肝に銘じ、わが国の再建に努めなくてはなるまい。

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平山喜基の論考

Thesis

Yoshiki Hirayama

平山喜基

第20期

平山 喜基

ひらやま・よしき

衆議院議員鬼木誠 秘書

Mission

選挙と地方分権から民主政治を考える 食料問題 首相公選制

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