論考

Thesis

公開討論会を終えて

公開討論会を開くために結成された市民運動組織「リーンカーン・フォーラム福岡」に携わり、5月21日から6月7日にかけて、福岡の11選挙区中、9つの選挙区で「聞かんと選べん!見らんと選べん!討論会」と銘打った公開討論会を開いた。今回、衆議院総選挙でこのようなことを試みるのは初めてということで、TVや新聞等で幾度も取り上げられ、とりわけ福岡第2区の公開討論会の模様は自民党の大物代議士が出るということで注目度も高く、全国放送のニュースで取り上げられた。
 このように福岡ではスタッフの熱心な交渉の成果と幅広い関係者の理解のもと、開催する9つの選挙区のうち、7選挙区で現職を含む全候補予定者参加のもと開催することができた。現職が出るか出ないかが討論会が成功するか否かの大きな要因の1つと見られる中で、このような候補者側の反応は政治家の側の意識の高さも見られた。

 今回の討論会ではディベート形式ではなく、候補者が順番に1問1答していく形式で行なわれ、まず、国民に訴えたいこと、自分が実現したいことを述べる冒頭演説、そして事前に用意された質問に答える個別質問。そこではそれぞれの会場で憲法、経済、環境、高齢者問題、教育などのテーマの中から3、4問づつ選ばれて論じられ、最後に補足演説を行なうという形式で行われた。そして、公平中立な会にするという趣旨で1回の発言につき、候補者は3分から5分ほど時間を与えられ、その中で他候補者に対する投げかけ、誹謗、中傷は禁止するというルールのもと行なわれた。以下、それぞれの項目についてどのような内容が語られたのかを簡単に要約してみたい。

冒頭演説
 森首相の「神の国発言」もあり、野党側の多くからそれに対する批判がなされる中で、低迷する日本をどう改革するのかということが多く論じられ、「活力ある国家へ」、「安心と生きがいのある社会の創出」、「市場経済重視ではなく、生活の視点からの変革」、「安心して働ける社会の創出」などが語られ、生活者の視点に立った施策の実施を多くの候補者が所属する政党の違いに関わらず述べたことは、将来の国家像についてはあまり違いが見えなかったといえよう。その他には国民の政治参加を訴える意見なども言われた。

憲法
 「改憲」の立場に立つ自民党候補者、「論憲」という言葉を使い実質的には改憲だが自民党の「改憲」とは距離を置く民主党候補者、「護憲」を貫くと訴える共産党候補者と違いがはっきり現れたといえる。自民党側は国民の権利と義務のバランスがとれていないことが今日、権利ばかりを訴え、他の人権を無視した少年犯罪を増加させるなど社会の荒廃につながる要因になったと捉え、権利と義務の規定の見直しや、これからの国際社会では一国平和主義では駄目で9条の見直しを考えるべきだと訴えた。民主党側は9条は据え置きと自民党との違いを強調しながらも国民の権利に関する規定の不備を指摘し、環境権や情報公開の憲法による規定を訴えた。共産党側は改憲は日本を戦争する危険な国に導くと捉え、憲法を守り通すことを訴えた。

経済
 自民党候補者は、現在、これまでの経済政策の効果で日本経済は回復基調にあるという認識を示した上で、今後、日本経済が2~3%の経済成長をしていくためにも技術革新は必要であり、その為、IT関連産業への投資を進めると訴える一方で、野党側は現政権の財政、経済政策批判に集中した。民主党は多額の借金の存在を指摘し、それを地方分権を推進することで解決すると示し、共産党は公共事業予算を福祉に充てること、また、労働者の権利を守るために解雇規制法案の必要性と時短をすすめ雇用を増やす施策を訴えた。

環境、福祉、教育
 これらの分野では大きな違いは見られず、政策の提案が多くを占めた。環境についてはデポジット制やゼロエミッション政策の実施、福祉ではこの分野での雇用の創出、教育では小人数クラスの実施など

討論会を終えての総括
 我々は今回、討論会の意義を「1、有権者が政策や人柄あるいは政党の根本方針を見極める機会になる。2、政治の抱える問題点や課題が鮮明になる。3、選択の基準が明確になる。4、候補者が、政策や理念を有権者に訴え共感を得る機会となる。」と候補者や有権者に示し、行なってきた。聴衆の反応としては、やはり複数の候補者を同時に見比べる機会はこれまでなかったことであり、聞き比べることで違いが分かり選ぶ基準になったという反応が多かった。その結果は参加者の6割が「良かった」、または「大変良かった」と答えたことの現れている。
 しかし、今回の討論会では候補者のこのような機会に対する不慣れの結果、原稿を読む人が新人候補者に多く見られる中で「期待外れ」または「やや期待外れ」と答える人が15%いた。この中にはこの会の試みは良いとしながらも、討論会がルール上1問1答形式で候補者同士のやり取りが見られなかったことに対する不満も含まれるが、このような事は候補者側の国民に訴える力の欠如を示す結果となったのではないか。このような討論会はともすれば現職が新人に追求され不利ではないかと想像される中で現職は原稿も見ずに(中には国政報告会かと非難される人もいたが)聴衆を見ながら話し、現職の優位さが際立つ結果となった。野党の力の無さが見られたが、そのことは争点が今回の選挙ではっきりしないことに原因があるのではなかろうか。ある野党の幹部はTVで「今回の選挙の争点は自民党政権を選ぶか、そうでないかだ」と言っていた。果たしてそれが争点なのだろうかと感じていたが、大きな争点も見出せず、現政権を追求する力の不足がこの討論会では見られたように感じ、そこが今一つ政権交代につながらない要因ではないかと感じた。

 私は今回、2つの思いを持ってこの討論会に関わった。1つは討論会を政治家と国民を結ぶ新しい架け橋にし、ここで様々な立場の人が集い、日本の問題について何が正しいのか、何が必要なのかを国民と政治家が考える機会にしたいということであり、2つめはその中から優れた人を国政に送り出すという候補者選びに生産性をもたらそうと思いである。
 今回の総選挙にあたり、マスコミなどでは討論会に加え、落選運動という2つの新しい運動が同列に扱われ、今回の総選挙から政治風土を変えつつあるという報道がなされた。しかし、私は今回のこの討論会の活動を落選運動とは対局に位置付けて活動した。なぜなら確かに良くない政治家を落とすのはいいことだろう。しかし、そこから新しいものが生み出されるのとは別問題である。低迷する日本にあって、今、必要なのは何が必要で何が正しいのかを論じることである。その意味からすれば我々有権者の成すべき事は悪い政治家を落とすのではなく、良い政治家をいかに選ぶかということでなかろうか。そういう姿勢が政治家の良い意味での競争を促し、良い政治を生み出す下地へとつながるのであろう。先ほど示したようにほとんどの聴衆がこの会を好意的に捉え、また参加した候補者も同様であった。そういった意味ではそういう下地は整いつつある。今回は1選挙区1会場しか開けなかったが、次は今回の聴衆がいたるところでこのような会を定着させて、良い候補選びをして欲しい、そうして将来の日本いついて生産的な議論のできる政治風土をつくりたいものである。

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平山喜基の論考

Thesis

Yoshiki Hirayama

平山喜基

第20期

平山 喜基

ひらやま・よしき

衆議院議員鬼木誠 秘書

Mission

選挙と地方分権から民主政治を考える 食料問題 首相公選制

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