論考

Thesis

県庁での研修と企業訪問

「沖縄の自立」をテーマに活動を開始して1ヶ月が過ぎた。これまで見えるようで見えていなかった沖縄の姿をやっと、把握し始めているところである。沖縄振興のためにさまざまな施策が行われているが、それと地元企業の活動はどのように連携しているのか、何がうまくいっていて、課題は何か、を考えるために、毎日が模索しながらの活動である。

沖縄の企業の課題

 今でこそ目にしなくなったものの、沖縄では数年前まで東大に合格すると本人の写真付きで地元紙に紹介されることがあった。それだけ県民が本土で「勝負」できることを気にしているのだと思うのだが、最近県内のある建設会社が、特許を取った技術によって県外で事業展開するという記事が載った。県内の建設業界で県外への進出は異例、とのことで大きく紹介されていたのだが「どの分野でも、本土で一旗あげることにこだわっている地域だな」と改めて感じた。このことからもわかるように、現在の沖縄では「経済の自立」、とりわけ県内企業が本土市場で事業展開できるだけの力をつけることは最重要課題の一つに位置づけられている。

県の産業政策と企業活動の連携

 企業は単に経済的機能を果たすための役割だけを担っているのではなく、地域社会の形成にも大きな関わりを持っている。そのため地域企業の発展を支援することは単に企業のみの成長を目的とするものではなく、その地域の姿をもつくりだすものである。
 沖縄県は主に財政依存型経済からの脱却をはかるためにさまざまな振興策を行っているが、それは実際の企業活動にどのような影響を与えているのだろうか。それを考えるために現在は県庁企画開発部企画調整室に籍を置くかたちで研修を行い、県の施策を学びつつ、地元の企業に聞き取り調査を行っている。

数の多い、かつ複雑な構想や施策たち

 施策を把握することについては、予想以上にその姿を掴むことが難しい。まず構想やプログラムの数の多さである。沖縄の振興策は、1972年の本土復帰後30年間行われ沖縄振興の柱となってきた第1~3次沖縄振興開発計画をはじめ、沖縄経済振興21世紀プラン、産業創造アクションプログラム、農業水産業振興ビジョン・アクションプログラム、観光振興基本計画、マルチメディアアイランド構想などがある。さらに現在は北部振興策などが加わり、沖縄県全体としてこれらの政策がどう体系立てられているのか、概観が掴みづらいのだ。関連する資料を集めていると、県庁内にある資料を理解するためにおそろしく時間をとられる。だが1ヶ月が経過し、ようやくそれぞれの政策の関連が見え始めてきた。
 その中のひとつで、平成9年度より始まった「産業創造アクションプログラム」について、触れてみたい。沖縄県の場合、島嶼地域であるゆえに、主に①市場が限定されている、②本土の大市場から遠い、③技術力や経営基盤が脆弱、④輸送コストや時間の問題、で企業誘致に限界があるといった問題を抱え、公的部門に依存した経済になっている。これらを克服するため、このアクションプログラムは地域の特性を生かした産業をつくっていくことが目的とされている。

 プログラムには(1)「ウェルネスアイランド沖縄」情報発信、(2)健康産業振興(3)観光関連産業高度化、(4)企業化支援、(5)新産業創出、(6)物流・流通分野改革、の6つの分野にわたるプロジェクトがある。まだ始まって3年目であるから評価を下せる段階ではないと思うが、現在のところ目立った成果を見せているのは健康産業振興プログラムと企業化支援プログラムであるといってよいだろう。
 このアクションプログラムの課題として、それぞれのプロジェクトの担当部局が異なるために、全体が有機的に連関していないことがあげられる。例えば、物流・流通分野改革に含まれているFTZ(自由貿易地域)は土木関係の部局が、観光関連に含まれる複合マリーナは港湾関係の部局が担当し、企業化支援は外部委託で行っていて、これらに関しては「産業創造アクションプログラム」を担当している部署の主な仕事は予算執行のチェックにとどまっているという。
 しかもこれらの事業の中には、アクションプログラムが始まる以前から既に実施されているものもあるために、各部局がそれぞれの事業をアクションプログラムの一部として捉えているかというのも疑問である。各部局がそれぞれの担当している分野を振興させることに力を注いでも、他のプロジェクトとどう結びつくのか、ひいては沖縄の産業や社会全体にどう関連するかということまで考えるには至っていないのではないだろうか。ひとつの方向性を示したプログラムであるにも関わらず、各事業が他の部署担当ということで、全体として一つの動きを見せていないのである。これと同じ状況がおそらく他のプログラムでも起こっているのではないだろうか。
 現在は新しい施策について案が出ると、まず企画部門でチームを組んで企画を立て、それができると関係部局に下ろす形になっている。企画をつくる部門と、実施する部門が異なっていることが、プロジェクト推進を阻む原因の一つになっているのではないだろうか。現在のように多くの部局が関わっている施策の場合、互いに調整を行うことも難しいであろう。それよりはプロジェクトの中身を、現存する部局ごとに分割して進めるのではなく、関係部局から人をひっぱってくる形で一つのチームをつくり、企画から運営・実施までを同じメンバーあるいは同じ部局で行うことで、施策が有効に生きてくるのではと思う。

企業訪問

 先に述べたように、「産業創造アクションプログラム」において成長著しいのが、健康産業振興である。特に健康食品産業は「長寿県・沖縄」のイメージが定着してきたこともあり、右肩あがりの成長を見せている。
 健康食品については明確な定義がないのでその市場範囲を特定するのは難しいが、ビタミンなど栄養補助食品も含んだ市場規模は、全国で6千億~8千億円で、今年中には1兆円産業に成長すると見られている。沖縄県にある「県健康食品産業協議会」の加盟企業は40社。協議会会員企業の年間売上高は平成9年度で約70億円とされている。県特産品である泡盛の売上高は約100億円といわれているが、泡盛の市場が県内中心である一方で、健康食品のほとんどが県外出荷であることを考えると、その将来性について非常に強い期待を寄せられている。
 何社か関連会社を訪問したが、独自の技術開発によって急成長を見せている、ある健康食品メーカーについて触れてみたい。この会社は昭和63年に設立され、最近独自に開発した技術に国内大手メーカーが飛びついて業務提携、新市場を開拓したとして注目されている。お話を伺った担当者の方にこの会社の強みは何かと聞いたところ、県内の大手スーパーの系列であるというバックグラウンドもさることながら、「規模のあるきちんとした設備の工場をもっていること」と「自社で研究施設をもっていること」だと答えた。県内でも自社で独自に研究施設を持っているところはほとんどなく、この会社が持っている研究所は今年で4年目になるという。43人の正社員のうち、研究担当が16名おり、大学の研究室への派遣なども行っている。

研究開発とマーケティング

 だが、研究開発には強い自信を見せる一方で、「社として独自にマーケティングは行っていない」ということには、私のほうが驚いた。普通、モノをつくって販売するときには、どういった層がターゲットになるのかを考える。しかし県内での販売は系列のスーパーにまかせており、
 県外での販売は自ら出向いて卸屋を探しているそうだが、それでも本土での売上は3割程度だという。「しっかりした技術と、研究開発力を持っていれば、製品は買う人が買ってくれる」という。確かにそれは否定できないのだが、せっかくいい製品を生産しているのに・・もったいないな、という気がしてならない。

 沖縄の産業において売れるものがない、という生産面での力不足は否めない。これは研究開発力を高めたり人材育成を進めるなど、時間をかけて解決するしかないだろう。しかしそれよりも問題なのは、売れるものがあるにも関わらず、ニーズをきちんと把握したりするなどのマーケティングが不足しているがゆえの「ものが売れない」症候群である。ただし、先ほど紹介した会社では「沖縄の健康食品メーカーには、研究機関の充実と一定の品質を保つための生産管理力が最も必要である」との認識がかなり強い。確かに研究開発によって軌道に乗りかけている現在、マーケティングなどを含めたすべてのことに「あれもこれも」を求めるのは時期尚早ともいえる。今は会社の強さを支えている研究開発力にさらなる信用を得ることに最大限の努力を払う時期なのかもしれない。

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喜友名智子の論考

Thesis

Tomoko Kiyuna

喜友名智子

第20期

喜友名 智子

きゆな・ともこ

沖縄県議会議員(那覇市・南部離島)/立憲民主党

Mission

沖縄の自立・自治に関する研究

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