論考

Thesis

日欧関係深化へ向けて

1)ヨーロッパ委員会

 今週、月曜日よりヨーロッパ委員会での研修がはじまった。欧州連合は、主としてヨーロッパ理事会、ヨーロッパ委員会、そしてヨーロッパ議会の3組織の連携(InstitutionalTriangle)によって運営されている。例えば、欧州連合の政策は、ヨーロッパ委員会により発議され、ヨーロッパ議会による諮問を経て、ヨーロッパ理事会によって決定される。このうち、今回研修を行うヨーロッパ委員会は、任期5年(再任可)で構成国政府の合意で選ばれた20名の委員(うち委員長1名,副委員長2名)によって構成されている。ドイツ,フランス,イタリア,スペイン,イギリスが各2名,他の10ヵ国がそれぞれ1名を送っている。この委員達を支えるのが、ユーロクラットといわれる官僚群である。従来、二五の総局と、事務局、そして八つの部局とが配置されていたが、新ブロディー委員長のもと、現在、組織改革が進行中である。

2)スタジエ制度

 ヨーロッパ委員会では、毎年2回、各600名の研修生(スタジエ)を募集している。スタジエは、5ヶ月間にわたり、欧州委員会にて研修を行い、欧州統合の現場を体験すると同時に、欧州統合の働きに参加する。スタジエ希望者はまず、欧州委員会に応募書類を送る。ここで、書類選考の上、1200名の候補者が選ばれる。その後、候補者は自らの配属を希望する部署に直接コンタクトをとり、インタビューのうえ、採否が決まる。600名のスタジエ達は、文字通り、全ヨーロッパから、そして全世界から集まる。ドイツ、フランス、イギリス等のEU構成国からはもちろんのこと、ルーマニア、ハンガリーなどの旧東欧、次期EU加盟候補諸国。北米のアメリカ、カナダや、コロンビアなどの南米諸国。ナミビア等のアフリカ。そして、わずかながらもアジアからもスタジエは採用されている。日本からも毎年、1、2人が採用されており、今回の1999年ウィンター・セッションでは、私も含め二人が採用されている。

3)WTO交渉における日欧関係

 スタジエはそれぞれ採用された部局において研修を行う。私が今回研修を行うのは、対外総局(外務省)のWTO課である。WTO(世界貿易機構)では、現在2000年に開催が決定されている次期交渉(ミレーニアム・ラウンド)へ向け、交渉分野の確定へ向けた作業がなされている。本年11月にアメリカのシアトルでもたれる閣僚会議において、交渉分野および採択方式が決定される。金融、通信などの得意分野での交渉を更に進めたい欧米、更なる自由化に警戒感を強める途上国など、すでに戦いの幕はあがっている。日本とEUは、ミレーニアム・ラウンドに向け、比較的近い立場を取っていると思われる。たとえば、アメリカは、前回のウルグアイ・ラウンドにおいてすでに交渉課題とすることが合意されている農業やサービスなどの分野(合意済課題)を他の分野に先行して合意することをめざしている。つまり分野別受諾である。これにたいして、日本とEUは、アメリカが自国に有利な分野のみを先に受諾させてしまい、他の分野に関して交渉を行わなくなることを懸念し、交渉分野を幅広いものとし、かつそれを一括で受諾するという方式(一括受諾方式)を目指している。また、日欧は交渉期間を3年に区切ることでも同調している。

4)おわりに

 インターネットの普及などに伴い、グローバル化が加速度的に進行している中で、WTOにおいてどのような自由貿易のルールが策定されるかは、文字通り各国の今後の命運を決するといっても過言ではない。WTOにおいて如何にして自国に有利なレールを引くかは、他の加盟諸国と如何なる連携を組みうるかにかかっている。今後とも、日欧双方にとって最重要な貿易相手国がアメリカであることは変わらないであろう。けれども、昨今の米国偏重のバイラテラルな関係の弊害は、日米の鉄鋼問題、欧米のバナナ問題などに端的に現れつつある。WTOの「交渉期間を通して、EUと日本が緊密な協力を続けることが非常に重要」(ラミー欧州委員)であることは間違いない。ミレーニアム・ラウンドにおいて、日欧が連携を深め、よりマルチラテラルな交渉枠組みを築いてゆく過程に、一研修生ながらどこまで貢献できるか楽しみである。

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小林献一の論考

Thesis

Kenichi Kobayashi

小林献一

第19期

小林 献一

こばやし・けんいち

Philip Morris Japan 副社長

Mission

産業政策(日本産業界の再生) 通商政策(WTO/EPA/TPP)

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