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1998年10月

丹邱日記(5) 「くらべてみれば~後編」
大串正樹/卒塾生

 

§1.はじめに

 前回は、佐賀県下にある七市の経営状況について、主にフローの分析に関してお話ししてみました。その中でも申しましたように、これまで各市が行ってきた投資内容を分析しなくては、正しい理解はできません。そこで、今回は運営状況とストックの分析について見てみたいと思います。

§2.類似団体

 前回は7市の比較を行いましたが、それぞれがおかれている状況が異なるので、一概にどの市が良いとか、悪いとかはいえません。そこで似たような市を集めて、それぞれ分類した団体を、類似団体(略して類団)といい、これが一応の目安とされています。市町村の場合は、人口と産業構造の2要素の組み合わせとして分類されています。そこで、各市をそれぞれの類団(類団の平均値)と比較してその運営状態を見てみることにしましょう。


 この図で、まず経常収支比率の類団比を見てみましょう。前回の報告で、佐賀市と鳥栖市の経営状況が良いとお話ししましたが、類団と比較しても経常収支比率が低いことがわかります。また、多久市は、徴税コスト率と併せて、類団比で悪い数値が出ています。もう一点、これは類団比ではないのですが公営事業繰出金増加率を見てみると鳥栖市の悪さが際だっています。前回も、触れましたが、下水道事業への支出が増えているということです。伊万里市は公営事業全般に増加傾向が見られます。ここで言う公営事業とは、下水道や市立病院、国民健康保険など様々な事業があります。また、鳥栖市に関しては扶助費(生活扶助、教育扶助、医療扶助など)、物件費(賃金、旅費、交際費など)の増加率も高いことが目立ちます。扶助費に関しては、その市単独の施策もあるので政策的に高くなる場合もありますが、義務的経費であることには変わりありません。いずれにせよ、前回のお話のように、手放しで鳥栖市の経営が良いとは言えないということです。運営方針をきちんと見直す必要があると言えましょう。

§3.人口ひとり当たりで見ると

 次に、人口ひとり当たりの歳入額、職員給、物件費を類団比で見てみましょう。歳入に関しては、佐賀市はそれほど良くないことがわかります。特にひどいのは、鹿島市で、この表では入りきらないぐらい悪い状態です。逆に、多久市が非常に良いように見えますが、これは、単に市の規模に対して、人口が少ないということです(人口3万5千人以下の都市は同じ分類)。また、前回触れましたが、産炭の町として、伊万里市のように石炭公害事業団からの特別な収入があることも忘れてはいけません。鳥栖市は、企業が多くて、法人税による収入が大きいわけですが、これは逆に昨今の不景気の影響も受けやすいということで注意が必要です。また、唐津市は、競艇収入があるにもかかわらず歳入がそれほど高くないことがわかります。収入のリスクヘッジが必要な都市はほかにもたくさんあるはずです。人間の食事と同じくバランスのとれた収入が健全な運営を生むのではないでしょうか。


§4.ストックを比べて

 次にストックを見てみましょう。これは、過去にどれだけの設備投資をしてきたかを見るわけですが、その内容は、道路改良率、道路舗装率、以上「産業基盤」、一人当たりの都市公園等面積、し尿衛生処理率、ゴミ収集率、上水道普及率、公共下水道普及率、公私立幼稚園保育所施設充足率、以上「生活基盤」、そして、非木造校舎面積比率、危険校舎面積比率、一人当たりの校舎面積、屋内運動場設置比率、プール設置学校比率、これらを小学校と中学校のそれぞれで見た数値、以上「教育施設」の各項目を、全国の類団の平均値を算出して、その数値に対する過不足をポイント化して調べました。従って、表は少し見にくいかも知れませんが、3のラインが平均点(5段階評価)です。このように見ると、佐賀県下で最も財政状態がいいはずの佐賀市ですが、ストックの整備は取り立てて良いわけではないことがわかります。鳥栖市にしてみても産業基盤の整備が著しく遅れていることがわかるかと思います。


 さて、前回のお話で、武雄市と鹿島市の違いが実質収支比率にあると申しましたが、ここに、その差が現れていると言えます。鹿島市の産業基盤整備は極めて進んでいることがよくわかりますし、逆に実質収支比率の高い、すなわち、行政サービスを抑えている武雄市は、生活基盤や教育施設の分野で遅れていることがわかります。但し、ここに挙げた項目以外にも行政の仕事は多岐に渡るため、一概には言えません。良い悪いは別にして、一例を挙げると、児童福祉施設である児童館の設置数は唐津市に佐賀県の半数近くが集中しています。

§5.結果としての就業人口移動

 さて、前回と今回の二回に渡って、財政状況・経営状況・運営状況そしてストックの状況を概観してきました。そこで最後に、就業人口の移動を見てみることにしましょう。この図は、各市の市内全就業者に対する市外人口流入率と市内就業人口に対する人口流出率を比較したものです。つまり、流入率が高いということは、それだけ、職場が多いということで、また、流出率が高いということはそれだけ市内に職場がないだけでなく、その住民たちは市外に移り住む可能性もあるということです。ですから、その差だけでなく、それぞれの値にも意味があります。鳥栖市は確かに、市内に企業が多いため他市からも多く流入していますが、逆に流出も多いことに注目して下さい。また、多久市は、圧倒的に流出が多い市で、産業が不足していることがよくわかります。同じ差が大きい伊万里市でも、それぞれの絶対値が低いことから、市内に住む人が市内の職場で働いている率が高いということです。残念ながら、流入超過は佐賀市だけでした。


§6.経営の均質化と独自性

 さて、以上のように、財政状況と経営状況、そして、今回運営状況やストックの状況を概観してきましたが、これで全てが言い尽くされたわけではありません。それぞれの市が抱える過去の経緯や首長の独自性・政策を吟味していく必要があることは言うまでもありません。しかし、資源の再分配である地方交付税の趣旨を考えると、やはり、最低限のサービスの均質化は必要なのではないでしょうか。ゴミ処理や下水道の整備を放置して、立派な道路ばかりを建設するようではいけないと言うことです。つまり、今後、地方分権の議論が進む中で市町村の広域合併や広域事務処理が進むことが必至の状況の中、余りにも格差のある自治体同士が一緒にやって行くには、それなりの事前努力が必要なのではないでしょうか。いきなり合併論議を進めるのではなく、EUの通貨統合におけるマーストリヒト条約のように、地域間の基盤整備の格差を徐々に縮小してから進めていくことが望ましいと考えます。東西ドイツ合併のその後を見れば、このことの重要性が分かると思います。企業と違って、安易な救済合併は、その後のしこりを避ける上でも慎むべきです。そのことを認識していれば、無駄な施設が次々と建設されるような事態は起こり得ないはずですが...

つづく

1998年10月 執筆
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