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1998年9月

丹邱日記(4) 「くらべてみれば~前編」
大串正樹/卒塾生

 
§1.はじめに

 今回と次回の二回に渡り、佐賀県下にある七市の経営状況についてお話ししてみたいと思います。市役所で身近に手に入るデータをもとに、各市の財政状況を「経営」の視点から簡単にまとめて見ました。もちろん、これらのデータを理解するには、その背景となる地理的・歴史的要因を考慮しなければならないことは言うまでもありませんが、「まち」を見るという点では、一つの方法として何らかの役には立つのではないでしょうか。

§2.財政分析の五つの指標

 財政分析を行うための指標は様々ありますが、ここでは、その主だった五つの指標をもとに考えてみることにしましょう。これらの指標を選んだ理由は、あくまで、その市を経営するという立場に立って考える上で、端的にその経営状況を知るのに有効と考えたからであります。ですから、もっと違った目的で分析をするのなら、別のデータを考える必要があると言うことはご理解下さい。

(1)実質収支比率
 標準財政規模に対する実質収支額の割合。これは、その市を運営していくのに必要なお金に対して、収支がどの程度の割合になっているかと言うことです。この数値が小さいと、収入を行政サービスにたくさん使うということで、逆に大きいと、サービスを抑えてこつこつ貯金しているという感覚でしょうか。ですから、大きすぎても、小さすぎても良くなくて、概ね、3~5%が良いとされています。7市では唐津市の0.4%から、伊万里市の4.4%(いずれも平成8年度の数値)までばらつきがあります。この数値に経営の思想が良く現れています。

(2)経常収支比率
 経常一般財源に対する経常経費充当一般財源の割合。いわば義務的経費(人件費、扶助費、公債費等)に経常的一般財源(地方税、地方交付税、地方譲与税等)が、どの程度充当されているかの割合を示します。つまり、小さいほど自由に(政策的に)使えるお金が多いということで、80%を越えると、弾力性がない、すなわち、お金の使い道がほとんど、初めから決まってしまっているということです。この数値は概ね70~80%の間に分布するのが通常です。7市では一番低いのが鳥栖市で、73.8%となっています。これが地方財政の現実です。

(3)債権・積立金比率
 積立金現在高に対する地方債現在高と債務負担行為額の和の割合。簡単にいうと、借金と貯金の割合です。自治体は、大きな事業に備えて、積立金(基金)という形で蓄えをしているのですが、地方債を発行して、借金も抱えています。もちろん、小さい方が安心ですが、世代間の公平という財政の基本的な考え方にたてば、一概に借金が悪いとは言えません。何事も、程々にということです。

(4)財政力指数
 基準財政需要額に対する基準財政収入額の過去3年間の平均。簡単には需要に対して、地方税などの収入がどれぐらいあるかを示す指数です。この数値が1以上で普通交付税が不交付の団体となります。佐賀市で0.74、多久市で0.35となっています。財政基盤の強さが示されています。

(5)公債費比率
 一般財源に占める公債費の割合。公債費とは毎年度、元金の償還および利子の支払いに要する経費で、この数値は、10%以下が望ましく、15%を越えると危険とされています。武雄市の10%から、唐津市の17.8%まで、この数値もばらつきがあります。

§3.七市の財政状況比較

 それでは、これらの指標で、各市の財政状況を見てみましょう。ここでは、比較のため各指標にそれぞれ適当な係数を乗じて示していますので、相対的に見ていただきたいと思います。また、この指数は小さいほど、良いと言うことですから、五角形が小さく、バランスが良いかどうかを見て下さい。但し、先にも述べましたように、実質収支比率は必ずしも小さい方がよいと言うものではないこと、また、他の指標と比べるために、財政力指数は逆数をとっています(つまり、小さい方が良い)。さらに、比較のため、5年前(平成4年度)のデータも、示していますので、この5年間でどのように変わってきたかも併せてご覧下さい。

(1)佐賀市


 佐賀県の県都である佐賀市は、さすがに7市の中でも最も財政基盤がしっかりしている市です。これは税収を中心とした財政力指数に裏付けられるものです。しかし、ここでは示しませんでしたが、一人当たりの目的別歳出を見てみますと、土木費が未だに高く推移しています。「未だに」と申しましたのは、バブル以降、どの市も土木費は下降傾向にあるにも関わらずという意味で、たいていの市は、その分、民生費(社会福祉費等)の伸びが目立っています。今後も、この傾向は変わらないと考えられます。また、土木費の伸びに裏付けられるように、債権・積立金比率もこの5年で大きく伸びています。

(2)唐津市


 次に唐津市を見てみましょう。焼き物、唐津焼で有名な市ですが、実際は、競艇でもとても有名です。多久市内でも、唐津ボートの宣伝車をよく見かけます。ファンも多いだけあって、唐津市の貴重な収入源になっています。そのせいかどうかはわかりませんが、唐津市の経営もかなり、ギャンブル的といえます。また、実質収支が極端に低いことが分かるかと思いますが、これは、収入もあるが、それをどんどん使い切ってしまうという経営です。債権・積立金の比率も、公債費比率も高いです。見ているだけで、不安になってきます。それでも、ここ数年は、土木費を抑えるようにしているようです。

(3)鳥栖市


 次は鳥栖市です。鳥栖市は佐賀県下でも有数の、商業都市です。多くの企業があって、法人税収も高い市です。しかし、債権・積立金比率が高いことが目に付きます。特に、ここ5年間で大きく増えているのが特徴的です。これは、この間にサッカーチームを誘致するために、サッカー場を建設したためです。予算規模が230億円程度の鳥栖市では、サッカー場の建設一つで大きく財政負担が増えることがよくわかります。もちろん、維持運営費も高くつきますし、それ以外にも、鳥栖市は下水道事業への一般会計からの繰出が年々増加していることも見逃せません。

(4)多久市


 続いて多久市です。ご覧のように際だって、積立金が高いことがおわかりいただけたけるかと思います。逆に財政力指数は極端に悪く、収入がないせいか非常に臆病な経営であることがわかります。公債費比率も低めです。これは、5町村合併により市制が施行された直後に、財政再建団体の指定を受ける(昭和31年)ほど、貧しかった経験から来るものです。以前の報告でも述べましたように、大胆な施策が必要なのではないかと思われます。

(5)伊万里市


 伊万里市です。唐津同様、伊万里焼で有名な焼き物の町です。そのせいか、財政力指数は多久市よりも良いように見えます。しかし、実際は伊万里も産炭の町で、その影響は多久よりも大きかったようです。石炭公害事業団からの諸収入が大きいです。また、注目すべきは7市の中で最も、財政的に変化のあった町であるということです。これは、この5年の間で市長が代わったということにあるようです。実質収支比率が極端に高くなっています。これは、行政サービスを抑えて、収支を改善しようということでしょうか。実際、この5年で、総務費は大きく削られ、また、学校建設があったようです。抑えるところは抑え、使うべき所では積極的に使うということかも知れません。

(6)武雄市


 武雄市は温泉で有名ですが、この5年間で大きな政策の変化は無かったようです。実際、歳出割合を見ても変化がありません。経常収支比率が高いため、義務的経費を毎年例年並にこなしていくということでしょうか。

(7)鹿島市


 最後は鹿島市です。武雄市同様、5年間での変化は少ない市です。ただ、武雄市と比べて大きな違いは、実質収支比率が低いことです。この武雄と鹿島の違いが、実は重要なのです。(後編参照)


§4.経営状況比較

 これまでに、財政指標による比較を行ってきましたが、もう少し、経営的な指標を見てみましょう。但し、企業と異なり、具体的な経営指標がないため単純には行きません。なにより、行政の仕事は投資が必ずしも利益に結びつくとは限りません。そこで、ここでは、二つの指標を見てみることにしました。一つは、インタレスト・カバレッジと呼ばれる指標で、債務に対する金融費用の割合です。ここでは、公債費に対する自主財源の割合で示しました。従って、高いほど債務履行能力が高いということです。もう一つは、ROI(投下資本比率)です。企業では、投下資本に対する利益の割合で示しますが、ここでは、便宜上、歳出総額に対する実質収支の割合で示しました。この数値が高いほど、効率的な投資が行われているということです。但し、前述のように、行政の仕事は直接利益に結びつかないことが多いという指摘もできます。しかし、長い目で見れば、暮らし易さや働き易さは、その市の税収増につながるはずです。発展途上の市には申し訳ありませんが、ここでは、細かいことに目をつむって、相対的に、近視眼的ではありますが平成8年度の数値で見てみることにしましょう。すると、唐津市の経営状態が非常に悪いことがはっきりします。また、先ほど、武雄と鹿島で実質収支比率に違いがあると申しましたが、経営状態にも大きな差がでています。いずれも、実質収支比率との関係が大きいように受け取れます。実質収支比率が低い、すなわち、行政サービスに資金を使っている市では、経営指標も低いと言うことになります。

§5.経営的分析手法の限界

 さて、以上のように、財政状況と経営状況を概観してきて、気が付かれている方もいるかと思いますが、これらは、全てフローの分析なのです。ですから、これまでの投資、すなわち、ストックについてきちんと分析をしなければ、全く意味がありません。また、7市を比較してきましたが、これも無理があります。それぞれの市にはそれぞれの事情があって、同列に比較することは余りにも単純すぎます。次回は、これらを踏まえて、ストックの分析と、同じような環境におかれている市、すなわち、類似団体との比較を試みて見たいと思います。

つづく

1998年9月 執筆
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