論考

Thesis

日本の対台湾政策を考える(4)~日米安保ガイドラインの見直しと台湾海峡~

この頃、日米安保ガイドラインの見直し問題で、「台湾海峡を日米安保の範囲に入れるかどうか、」頻りに日本の関係者を悩ませている。中国を牽制したいけれども、刺激したくない。アメリカの目も厳しい。大国に挟まれながら、自国の利益を天秤にかけ、日本政府の政策は立ち往生をしているように見える。
 「周辺事態とは、地理的な範囲ではない」という言語明瞭、意味不明な日本語で誤魔化し、取りあえず乗り切っているが、どうもこの問題はこれからも長引きそうである。

 私はここで、思い切って視点を転換し、極東地域軍事緊張緩和のため、台湾海峡を日米安保から外すことを提案したい。
 そもそも、台湾海峡を日米安全保障の範囲に入れることは、中国の対台湾攻撃を未然に防ごうという考えからきたと思う。極めて冷戦時代的な発想である。
 台湾海峡の今日の緊張状態を分析すると、3つの不透明の危険が潜んでいると指摘できる。

中国の政治の不透明。台湾を武力侵攻する可能性はあるのか。今の所はほとんどの研究者はないと見ている。だた、一つだけはっきりしていることがある。1995年に出された「江沢民中国国家主席の台湾政策八項目提案」の第四項目によると「台湾が独立した場合、と外国軍事勢力が中国の統一に干渉した場合、中国は武力を行使する。」
台湾の民意の不透明。つまり、台湾人は本当に独立したいのか。ここ数年、台湾行政院が毎年三回行なっているアンケートの結果を見て、統一、独立に対する態度は大変曖昧である。半数くらいの台湾人は現状維持を選び態度を留保している。国際情勢に何か動きがあると、統一志向と独立志向の支持者の数が激しく揺れ動く。
アメリカの対台湾政策の不透明。台湾に傾いたり、中国に傾いたり、一向定まらない。アメリカの国内法「台湾関係法」を読んでも、台湾海峡が戦争状態になったとき、アメリカ軍は出動するのかどうかは、実は書いていない。

 この三つの不透明がうまくリンクしあって、今、取りあえず台湾海峡の平和が保たれているが、いつか、どこか一つが崩れると一気に緊張感が高まる。
 日本は今まで、ずっと1番目の中国政治の不透明に注目し、警戒してきた。しかし、実は、ここ数年、2番目の台湾民意の不透明さという危険性が高まってきた。台湾独立を党の綱領として掲げる民進党の大躍進、建国党の成立。など。

 「私達がもし独立すれば、アメリカと世界は必ず支持してくれる。」という政治家の訴えを選挙の時台湾をにいけば、耳にすることができる。アメリカが曖昧という戦略を取っているのに、台湾の人はそうと思っていないようだ。
 昨年私が台湾の外交部北米局長沈呂巡氏をインタービューした時、この資料を言われたことがある。
「日米安保条約6条は米軍が極東の平和と安全のため在日米軍基地を使用できるとしている。「極東の範囲」について政府は1960年2月の統一見解で「フィリピン以北並び日本及びその周辺の地域で韓国及び中華民国の支配下にある地域」とした。
 また、沖縄返還に関する69年11月の佐藤・ニクソン共同声明第4項に韓国条項とともに盛り込まれたもので、「台湾地域における平和と安全の維持が日本の安全にとって極めて重要な要素」としている。」 いずれも、中国と国交のない冷静時代に日米間で交わされた条項であるが。しかし、日本は新たに「台湾海峡を日米安保に入れない」という声明を出さなければ、さきの条項はいつまでも生き続けることになる。台湾独立勢力を勇気づけていることは言うまでもない。
 日本の曖昧政策によって、アメリカの曖昧政策(三つ目の不透明)も機能しなくなっている。大変危険なことである。
 実は、アメリカでは、この危険を感じた人がいる。元国防次官補ジョセフ・ナイ氏である、彼は今年の3月にワシントン・ポスト紙で論文を発表した。米国政府の従来の中国と台湾に対する「戦略的あいまいさ」は危険だとして、台湾に公式の独立宣言は決してしないという誓約を求めることを提案した。ナイ氏はかつて、「戦略的あいまいさ」を主唱した人物であるだけに反響は大きかった。

 以上のことを踏まえて、私はこのように結論を出したい。台湾海峡の平和維持するには、中国との軍備競争による抑制よりも、日本政府は台湾海峡に干渉しないことを宣言して、台湾の独立勢力を応援しない方がずっと効果的である。後者の方が真の平和への貢献である。
 さらに、この宣言をすることによって、中国の日米安保に対する不信感を少なくし、東アジアの軍事緊張を和らぐことができる。何よりも日本にとって国益となることは、今、行き詰まりつつある日中関係を切り開くことができる。
 勿論、このことは日本が台湾を見捨てることを意味しない、むしろ中国の不信感を拭いた上で、もっと積極的に台湾との関係を深め、台湾問題の平和解決に貢献することが出来る。

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矢板明夫の論考

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Akio Yaita

矢板明夫

第18期

矢板 明夫

やいた・あきお

産経新聞 台北支局長

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