論考

Thesis

民主党が政権をとるために必要なこと

小雨の降りしきる中、奥田敬和氏の亡骸を乗せた霊柩車は国会議事堂の周りをゆっくりと二周して、整列する衛視の最敬礼を受けた。このセレモニーは永年勤続議員として表彰を受けた政治家のみが死に際して認められる一種の栄典でもある。
 7月15日の未明、その噂が囁かれていた胃がんが原因で71歳の生涯を閉じた。享年60歳。自民党旧竹下派以来の盟友、羽田孜幹事長(元総理)は傘もささず、党本部職員、所属国会議員、秘書たちとともにこの車を送った。

 奥田は、93年の自民党分裂劇に際し、小沢一郎や羽田と行動をともにし、いらい新生党、新進党、太陽党、民主党と離合集散を繰り返す非自民勢力にたってきた。
この日は皮肉にも、梶山静六元官房長官が、同じく七奉行といわれた橋本総理辞任後の総裁をめぐって出馬表明をおこない、これまた同志であった小渕恵三外相と争う格好になったのである。奥田の死去で、石川1区は補欠選挙を行うことが決定した。
 現在のところ後継は奥田の長男・健氏が出馬する予定である。二世議員はどうかという議論も党内にあるのは事実であるが、大都市圏とことなり地方の選挙区で民主党が勝つためにはより自民党的名候補者をそろえなければ日本の風土では政権を争うことができない。
 政策を欧州でいうところの中道リベラル路線に収束させつつも、地方では中核都市を中心に保守政党型候補者の擁立をはかることになるであろう。
 実際、今回の参院選でもわかるとおり青森の1人区を制した田名部元農相や、岐阜の2人区を独占したうちの一人、松田岩夫など自民顔負けの保守候補である。誤解を恐れず言わせてもらえば、今の民主党にもっとも必要なのは、スマートだけども比例区でしか復活当選できない風便りの議員ではなく、地方の激戦区でも這い上がってくる、頭つぶしても死なないような強靭な生命力をもった議員である。

 今回1人区を民主党が制した徳島を調査のため訪れた。
 仙谷の地盤である徳島1区は、かつて後藤田、三木がつばぜり合いを演じた名うての保守王国で、当然ながら民主党候補が小選挙区選挙でかちあがってくるのは、「針の穴からラクダを通す」より難しい(仙谷後援会幹部の言葉)ところである。しかし今回は、この保守王国でも地殻変動がおきた。 徳島1区にあたる県都・徳島市では民主党票が6万票弱と自民票を実に3万近く引き離す歴史的な圧倒ぶりで、引退した後藤田が全面指揮をとってのこの敗退ぶりに、未だ自民党徳島県連は衝撃から立ち直れていない。
 勝因についてはさまざまな分析がなされているが、ひとついえることは仙谷の選挙方式の完全な自民党化の成功である。93年に2000票差で一転落選の憂き目をみた仙谷は、それまでの労組・市民団体にのった都市型選挙を全面的に改めた。

 まず着手したのは市内を全町内会単位に細かく分け、さらに10戸~20戸を最小単位して「班」にわけ、ひとつの班に責任者をおいて選挙時の動員目標数や得票数を割り当てて徹底的に地域単位の掘り起こしを行える体制をつくりあげた。また中小企業を業態ごとにグループ化したり、女性グループや、高齢者のグループを各フォーラムとして数年がかりで拡大してきたのである。秘書も元自民党代議士の事務所からひきぬいたりして、政党に左右されない基盤を作り上げてきた。結果、先の参院選挙ではその仙谷後援会、旧三木派(候補者の高橋紀世子は三木元総理の長女)、労組・市民団体がそれぞれフル回転することで、定数1名の激戦区を見事ものにすることができたのである。今、民主党の候補者に欠けているのは、選挙における足腰の強さであろう。

 今回の選挙で、自民党を全滅に追い込んだ5大選挙区(東京、神奈川、埼玉、愛知、大阪)ですらも、一種風だのみなところがあり、かならすしもイギリス政治で言うところのセイフティシートとは言えないのが現状である。今回の参院選挙で得た教訓は大きい。
 ひとつは自民党打倒のためには、投票率の上昇が必要十分条件である。
 ふたつめは都市部に厚い政策をより全面に打ち出す必要がある。
 みっつめに今回風が吹いてもそれでも自民党が強かった、中国・四国・九州地区でいかに勝つか、この「西部問題」の攻略こそが政権奪取の決め手である。

 今後、民主党も政権戦略会議を設置し、同時に総選挙にむけた作業に入ることになるが、同党にとってこれからが正念場である。

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平島廣志の論考

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Koji Hirashima

松下政経塾 本館

第15期

平島 廣志

ひらしま・こうじ

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