論考

Thesis

ゆりかごから墓場までの夢は醒めたが…

はじめに
 目前に迫った超高齢社会、日本はいかなる道を進む必要があるのか。5月の1ヶ月間、私は自分なりの答えを導きだすため、世界で最初の福祉国家英国、そして現在世界で1番住み良い国としてランク付けられているデンマークを訪れた。今月と来月はこの目で見た「ゆりかごから墓場までの夢醒めた国」と「ゆりかご前から墓場後までを謳歌する国」で感じたことを報告する。

英国福祉の変遷
 英国が福祉国家として有名になったのは、1940年以来、政府、特に労働党政府が積極的に国の福祉政策を進めてきたためである。それは、その場限りの、「困っている人、貧しい人」の救済措置ではなく、国の基本方針として、福祉主義とでもいうべき、国全体の「福祉化」を目的としたものであった。その「福祉主義」は1960年代末までにほぼ完成し、世界に誇る「ゆりかごから墓場まで」の福祉国家といわれるようになった。
 しかし、その反面、第2次大戦後の各国の経済再建の波の中で、他の資本主義国に比べて、英国は大きな遅れをとり、国の財政悪化は深刻なものとなっていった。そのため福祉主義、福祉国家の理想を実現するだけの財源がみつからず、福祉関係の赤字も膨大していった。ここで登場したのがサッチャー首相で、あらゆる分野において自由競争、利潤原理を導入し財政赤字削減を狙い、福祉分野も例外ではなかった。
 サッチャー首相の後を受け継いだメジャー首相のもとでも福祉改革は進められ、1993年に施行されたコミュニティケア法は特に老人福祉サービスの姿を一変させた。これまで以上に自治体直営サービスを縮小し、民間企業や非営利組織の活用が目指されるようになった。ちなみに現在、各自治体は政府から福祉サービスの85%以上は民間のサービスにするよう要請されている。

夢は醒めたが…
現在の状況をみると英国型福祉国家は失敗したかに思える。しかしながら私が考えるに英国で失敗したのは「国による福祉サービスの提供」であって、本当の意味での福祉国家の理念は今も生き続けているように思う。本当の意味で福祉国家が目指すべき姿はどのような国家か。それはすべての国民が、たとえ老いても、病んでも、障害を持っても、死が間近に迫っても、自分らしく生きがいを持ち続け、幸せを実感できる国家ではなかろうか。そして英国では多くの人が自分の生きがいをみつけ、生き生きと生活しているように思えた。英国人にとっての生きがい、幸せとはなにか。それは他人や地域社会へ貢献するということである。それを特にボランティア活動という形でおこなっている。そして福祉サービスに関しても、行政直営サービスから民間サービスに移行されたが、多くのボランティアに支えられながら、そのレベルは維持されている。

英国から学ぶこと
その点日本はどうであろうか。戦後、飢えた胃の腑を満たし、寒さをしのぎ、雨を防ぐことを目的に、一貫して経済的に繁栄することを目的にがむしゃらに働き、また何事に対しても他人との競争に勝つことに、生きがい、幸せを求め続けてきた。そして50年間にしてその目的を完全に達し、今では飢える人も凍える人もいなくなった。それどころか、誰もがたくさんのお金をポケットに持ち、不必要な物をたくさん作り、たくさん売り、たくさん捨てることで経済繁栄を成し遂げた。ところが、日本は世界中の人々から羨まれる金持国となったにもかかわらず、現在の国民一人一人を見てみると本当に幸せを実感し、生き生きと生活しているであろうかと疑いを持たざるを得ない。若者達の無気力、無関心が問題にされ、仕事ばかりにがむしゃらに生きてきた大人達は定年後に生きがいを見出せないでいる。
もちろんこれまで日本が歩んできた道を完全に否定するつもりはない。しかしこれから迎える21世紀の超高齢社会、日本人は新たな幸せの価値基準を見つける必要がある。これまでのように競争、競争と頑張って報われるのは、社会が発展途上にある段階での話しである。ある程度成熟段階に入った今、これまでのやり方では無駄な競争ばかりで一生懸命努力してもそれが報われるかどうかわからない。これからの時代こそ競争により幸せを勝ち取るという考えを変え、英国人のように社会に貢献すること、共に助け合うことに、幸せを見出す必要があろう。

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森本真治の論考

Thesis

Shinji Morimoto

森本真治

第18期

森本 真治

もりもと・しんじ

参議院議員/広島選挙区/立憲民主党

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