論考

Thesis

あびこ、道内の”ねっとわーく”について考えるの巻

4月の月例報告にも書いたように、7年ぶりに帰ってきたあびこを待ち受けていた北海道には、様々な”ねっとわーく”が存在している。それ自体はごく当たり前なのだが、あびことの関係がどこでどんな風につながっているのだろうかということを考えると、なんだか不思議な感じがした。5月は、「積極的に道内の人々に出会い、刺激を受けたり、自分に足りないものを吸収したい」というテーマで活動したつもりだ。そんな活動の1部を報告することにする。

研修先の、HOKTACクラスター事業部での仕事の一環で、5月21日に、「いいものねっとわーく北海道」の関係者の方から話をうかがう機会があった。「十勝正直村」というブランドならご存知の方もいるかもしれないが、簡単に言ってしまうと、「正直村」のコンセプトを全道に広げていこうというものである。

*「十勝正直村」とは:今から15年程前にスタートしたもので、「経済規模は小さくてもいいから、精神的なささえとなるような事業はできないものか」というコンセプトのもと、有機農業や土づくりを意識した「我が生きがいと思えるような農業」を始めることにした。食べものというものでつながる農家、流通、消費者をまとめ、「大きな資本でまとまるのではなく、一つの考え方でまとまっていこう」という基本的な概念のもと、「正直村」というものにまとまっていった。
当初は、宅配という形で少しずつ販路を広げていった。そうすることで消費者の動向というものが見えるようになってきた。対照的に、農協という形態では、まず「営農計画ありき」で、そのための農薬や科学飼料の使用が決まっているようなものであった。正直村のシステムではこの流通チャンネルには合わなかった。「食べもの=生きもの」という正直村の考え方は、作り手の人格、気持ちがその食品に表れるということだ。

*「一村一品運動」との違い:「十勝正直村」の構想を北海道全体に向けた拡大版である。各地を結ぶネットワークを造るというものだ。一村一品運動は、道内各地に生産施設は作ったものの、原材料の供給に問題があった(外部から買っていた)。そのため、地元の人が参加せず、誇りを持てなかった。再考すべきである。道内各地域がバラバラに取り組んでも、流通にはならない。一村一品運動の生産システムの稼働率はかなり低い。
今、道内各地で(一村一品運動当時に作られたが)「眠っている」設備を活かして、流通を工夫すれば、「北海道の食料品=いい環境で作られる」ために競争力を持ち得る。北海道が総合的に取り組めば本州でも競争できる。「一つの箱に、A町の一品、B村の一品、C町からの…」というように様々な地域からの「いいもの」が納まるようなイメージである。

*事業展開のコンセプト:正直村は、購買層のターゲットを絞り込んでいる。と同時にその日に売り切ってしまいたいために、無理な売り方をしたくないのである。川下からの要求も合理的なものだが、農家が一生懸命作ったものだということを忘れないようにそういう要求には屈しなかった。客層も絞り込んでいて、消費者全体を対象にしていない。

*輸送コストについて:首都圏での事業展開を考えた場合、生産についてはある程度計画的にすることが可能できるが、一番問題となるのは、やはり(1tあたりの)運賃コストである。コストは安いが、JR貨物輸送では翌日には店頭に置けないというので鮮度維持の面で劣る。消費者が求めている野菜や日配品は、輸送コストが高いために東京に流れていかない現状がある。実際に航空輸送は、まだまだ「空いている」実状である。お歳暮シーズンになるとシャケ等の贈答品は大量に送るために「満席」になり、それらのコストは安くなるが、「正直村」が日常的に少しずつ送っても(年間で見たらはるかに輸送量は大きいのに)送料は高いままである。

「鮮度が良いうちに消費者へ届けたい」という生産者および川下の双方の要求について正面から答えようとすれば、”農業対策云々”という公共事業よりも航空コストの是正に取り組むほうがいい。実際に帯広発の飛行機が飛ばない日は年に1回くらいしかない。むしろ、羽田空港が閉鎖されることのほうが多い。

*首都圏での事業展開:東京では、北海道産品は輸入品を同レベルの競争にさらされている。「北海道は日本にとっての食糧基地」だという割には、ブランドイメージはあまり大事にされていない。
「十勝正直村」も、東京ではone of themになってしまう。逆に、道産の原材料を本州で加工したものにさえ「北海道」ブランドがついている状態だ。そこで、真の「北海道ブランド」の商品としてPRするために、「北海道で加工したもの」ということをアピールして他との差別化ができるのではないか。このことを理解してくれる客層が多い。

*いいものねっとわーくの目標:しかし、輸送コストが高くついても、「いいもので作る」ということに、逆の価値を見出す消費者は多い。「北海道産だから…」ということが競争力を持たせていく。これは時間がかかるが着実に支持者を増やしている。しかし、「北海道」というだけで付加価値はあるが、それに頼ってばかりではすぐにだめになる。環境や健康についての評価は、時代と共に変化している。こういう点にまじめに取り組むところが最後に残るのである。「消費のための経済」という価値観から「保全、循環のための経済」へという考え方のシフトが付加価値の源になるのではないか。これが正直村、また、「いいものねっとわーく」の考えである。
「いいものねっとわーく」は、商品の質の良さやコンセプトをパッケージに表現し、じっくりと慌てずに無理せず取り組んでいきたい。最も大事なことは、現地の生産者に理解してもらって作るということである。たしかに価格は高いが、今は「良いものは高い」…こうではなく、環境・資源を守るためにこんなコストになるという発想、意識に消費者に付き合ってもらう。「消費を通じて生きる」ということで、自己実現をしてもらいたい。
さまざまなコストがかかる。しかしその価値を認めて買ってくれる人がいる。やがてそういう人が増えると、そのコストも下がるというサイクルを目指している。時間はかかるが取り組んでいきたい。「食べもの商売」は持続させることが大事だ。それほど儲けが出るものではない。このポイントを間違えると無理が生じる。じっくりと積み上げていかなければならない。こういう動きは大事にしたいので、少しずつ展開させたい。
(清水社長談、筆者要約)

まず、基本コンセプトを大事にするという姿勢に共感した。事業としてただ単に拡大方向を突き進むのではなく、しっかりと共通認識を持った上で、確実に展開していくというのは、北海道が今までたどってきた道筋を見直すという面でも、ひとつの手がかりになるのではないだろうか。たしかに、時間はかかるが、持続可能な歩みを続けるには、ネットワーク形成によってお互いの良いものを出し合うことも原動力になり得るのではないだろうか、と感じた。

話は前後するが、5月9日(土曜日)、「オホーツク地方自治土曜講座」の初回講義に参加した。会場は網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパスで、今後は、圏内の市町村を巡回して実施するとのことだった。それまでは、札幌で「地方自治土曜講座」という北海道町村会主催の講座が開催され、熱心な自治体職員などが道内から札幌に集まって学んでいたのだが、その動きが各地域に広がり、網走管内での開催となった。今年度は全5回開催なのだが、塾員の河内山さん(柳井市長)や、道内最年少首長の逢坂さん(ニセコ町長)も講師陣に加わっていたりして、興味深い顔ぶれとなっている。

第1回の講座自体は自治体職員向けの、公共政策論、地方自治論のような内容だったが、講師の森先生(前北大教授、現在北海学園大学教授)の熱のこもった講義は予定をオーバーしたが、熱心な話しぶりに会場では居眠りする者の姿がほとんど見られなかった。
この講座の参加者のなかにも、産業クラスター研究会オホーツクのメンバーがいた。地域のことを考える人は、様々な分野で積極的に活動しているというか、そうでない人はどこにも顔を出さないものなのだろう。また、今年2月に一度お会いした方々にも会うことができて、様々な面であびこの活動が人目に触れているのだと実感した。

また、5月19日には、デンマークから講演のために来道した、ビヨルン先生の同行の仕事で江別市の酪農学園大学を訪ねた。デンマークでは、農業者が互いに連携し、何が必要なのかを考えて協同組合を結成して現在に至っているのだが、はたして日本、さらには道内の農協組織の実状はどのようになっているのだろうか。目的意識を持った構成員のネットワークが強い農協を築いた歴史を持つデンマークと、多額の負債を抱え、経営に行き詰まっている農協を抱える日本。それまでの農協というしくみから離れて農業に取り組む「十勝正直村」、「いいものねっとわーく」や、デンマークのしくみを通して、農業を取り巻くネットワーク、連携のありかたについて考えさせられた5月でもあった。

ネットワークについてもう一題。出身大学の北海道同窓会の場で、自分の所属していたサークルの先輩の父親(彼も同窓生なのだが)が札幌の私立大学で学長をしていて、彼もかなり前から政経塾に対して関心を寄せているとのことだった。自己紹介をしたら、今度話を聞かせてほしいとのことだった。どこでどんな風にネットワークがつながっていくのか不思議な感じがした。

ふと、「政治家はスーパーマンではないはずだ」と思いながらも、様々な問題にどう優先順位をつけて解決策を実施するのか、また、現状に対処するだけでなく、将来のビジョンを示すことのほうが大事に思えるのだが、それが現実の諸問題に追われてしまっているようにも思える。政治家という仕事は、いかに難しいものなのか。人脈作りも大事だといわれるが、ただやみくもに顔を売るだけでは、中身が薄くなってしまうのではないだろうか。実際に自分が仕事をする上で必要なネットワークと、ただ何となくつながっている付き合い、仕事を離れてもつながっていく人たち、そんな中にあびこも知らず知らずのうちに身を置いているんだと感じた。

様々なネットワークを目の当たりにして、「悪いことはできないものだなぁ。どこで、どんな風にあびこのことが知られているかわからない」というのが実感だ。また、各地で地域活動をしている人たちのネットワークに、あびこがどのように関わっていけるのだろうかという課題も浮かび上がってきた。北海道も短い夏を迎えるが、浮かれることなく、気を抜かずに、頑張っていこうと思う。

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我孫子洋昌の論考

Thesis

Hiromasa Abiko

我孫子洋昌

第18期

我孫子 洋昌

あびこ・ひろまさ

北海道下川町議/無所属

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地域振興

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