論考

Thesis

シンガポールに学ぶ両立する財政改革と景気浮揚

4月19日より渡米しあわただしくなるので、少し早いが月例報告を行う。
一昨年11月の総選挙で自民党が勝利した後、橋本内閣は抜本的な財政改革を断行すると宣言した。その後、省庁再編案・歳出削減案・特殊法人改革案等、その中身は骨抜きにされた部分も多いが、方向としては財政構造改革は進んでいた。昨年11月には、財政構造改革法も成立したのである。
しかし、最近、橋本首相及び自民党は早くもこの財政構造改革法を改正しようとしている。景気回復をさせるためには、政府支出を増大し財政赤字を拡大させても、公共投資による景気刺激が必要との判断である。
だが、それで本当に景気が回復するのだろうか。あるいは、回復する兆しが見えてくるのだろうか。おそらく、今回の公共投資が景気回復に結び付くと考えている人は誰もいないであろう。
そもそも、今日の極端な財政赤字を招いた原因は、バブル崩壊以後の税収の減少とともに、景気刺激のために使われた、毎年何十兆円規模の公共投資にある。
それだけの財政支出をしながら、一向に景気は回復しなかった、どころかさらに悪化の一途を辿ったのである。今回の公共投資の拡大も同じ結果(景気浮揚には結びつかず、さらに財政赤字を拡大させる)になることは、火を見るより明らかである。

一昨日のG7では各国から、日本政府は更に景気刺激策をとるべきだと指摘されたが、気をつけなければいけないのは、各国は日本経済を長期的視野にたって心配している訳ではないということである。円安の進行に伴い、日本の国際収支の黒字が更に拡大することを怖れているのである。つまり、何が日本のとるべき道であるか、自ら判断しなければならない。
では、どのように日本経済を立て直すべきか。シンガポールの経済政策を例に考えてみたい。
シンガポールは、相反する二つのイメージを常に持っている。一つは自由な経済活動、もう一つは規制の最も厳しい国というものである。そして、この二つとも間違ってはいない。①国土が狭い、②人口が少ない、③資源がない、という三重苦を背負ったシンガポールは、地場産業の育成よりも、低い関税率や法人税率の適用により外資を誘致することで、産業を発展させてきた。この外資導入政策・低い税率などが自由貿易政策とともに自由なイメージを作っている。また、国内市場が極端に小さいため、シンガポールの産業は常に世界で競争力のあるものでなければならない。このため、行政指導を徹底により、高い生産性を維持している。つまり、特定部門の産業を育成し、他は衰退しても良いと判断しているのである。この過去にとらわれない極端な産業政策が、行政指導の厳しい国というイメージを作っている。
過去にとらわれない産業政策とは、一切の既得権益を保護しないことである。
上記の三重苦のため、常に国際市場で競争することを強いられた結果であるが、それが返ってシンガポールの強みとなっているのである。既得権益という”しがらみ”にとらわれないので、冷静に、どうすれば経済が活性化するか判断出来、着実にそれを実行できる。また、国民も既得権益の上に安住することなく、常に市場で評価されるよう努力している。
今日の日本経済を活性するためには、公共投資による景気刺激ではなく、抜本的な構造改革が必要である。それを阻害しているのは、既得権益を保護しようとする人たちである。公的部門や許認可業種への市場原理の導入と、自由な競争の確保のために行政指導を行うようにすれば、経済は活性化する。今すべきことは、これ以上財政赤字を拡大することではない。ムーディーズ社による、日本国債の格付け見直し検討も財政赤字が一因なのだから。
以上

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籠山裕二の論考

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Yuji Kagoyama

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第18期

籠山 裕二

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