論考

Thesis

細胞都市序説8「細胞都市へのアプローチ~3つのレベル~」

98年3月期は、地方分権や広域行政について考える機会が多かった。先月の月例レポートでも報告したが、東村山市のJCで講演をさせていただく機会に恵まれ、塾報5月号掲載用の地方分権と地域マネージャーの必要性についての記事を執筆し、海老根靖典塾員の後援会主催の「いつまでも住みつづけられるまち湘南」というイベントにも参加できた。また、岩手県で第三セクターの再活性化の仕事に携わっている伊達氏や地域プロデュースから出版・CD-ROM作成までを手がけるイベントプロデューサーの二瓶氏親子にもお会いすることができた。
「細胞都市(cell city)構想」へのアプローチの中で、こういった活動は重要な一角を占める。地方分権を考え広域行政を考えることは、国家システムを考えることであり、これは以前(アソシエイトのときの)審査会でお話したように、細胞都市の3つのレベルのうちのひとつにあたる。
 私も4年生になり、当時の審査会を聞いていた人も少ないであろうから、その内容を再掲しておく。以前の曖昧模糊とした段階から、少しは思考の整理ができているとは思うのだが。

 細胞都市構想へのアプローチは、3つのレベルとそれに関連するいくつかの分野から行われる。
 3つのレベルとは、
 1. 国家システム論
 2. 地域システム論
 3. コミュニティ論
である。
 国家システム論とは、国家と地域の関係を考えること。分権や道州制を検討し、如何にして地域がその自主制と独自性とを発揮できる国家体制を(近代国家の利点を損なうことなく)構築するかがテーマである。細胞都市の視点からは、地域国家論や都市国家復活論に踏み込むことにもなるだろう。
 地域システム論とは、地域のあり方を考えること。人口爆発に代表される環境危機・食糧危機の時代にどういう地域防衛体制を作っていくか。循環型都市や地域の自立律、新農本主義などからのアプローチである。もう少し具体的にいえば、国連大学のゼロエミッションプロジェクトへの参加、二宮尊徳研究、宮古島エコロジーパークやバウビオロギーの調査、東大先端科学研究所岩崎氏による都市工学的「セル・シティ」などの活動がこれにあたる。
 コミュニティ論とは、地域と人との関係を考えること。地域からコミュニティへの、住民への分権という考え方である。ここでは住民参加や、地方行財政改革、また、実際の地域運営にあたっての地域マネジメント、行政組織論などを扱うことになる。(塾報98年5月号参照)
 これらのレベルは当然相互間に密接な関わり合いを持つことになる。「国家」の中に、例えば静岡市のように中山間地域と都市の双方を持つ行政体としての「地域」が存在し、その中が歴史、風土、地勢学的にいくつかの「コミュニティ」に別れる。「コミュニティ」では住民による自主決定権が尊重され、地域づくりが行われる。「地域」は、物質循環(水系・上下インフラ等)の監督、広域行政を行う、という関わり合いである。

 さて、3月期の活動の中から「いつまでも住みつづけられるまち湘南」について、内容紹介とコメントをしよう。
 海老根靖典後援会主催によるこのイベントは、藤沢市・茅ヶ崎市・寒川町の2市1町の合併により湘南市を作ろうというテーマで、パネルディスカッション方式で行われた。パネラーは、中田宏・武正公一・海老根靖典各塾員と日本総合研究所の研究員、亀山典子氏であった。
 塾員諸氏は町村合併はすべきだ、だから湘南市も作るべきだという論調であり、唯一亀山氏のみが、一般論では語れないから藤沢の話にフォーカスしようという立場であった。
 私も、町村合併がブームになっているからといってほいほいと乗るのには反対である。藤沢市が合併を進めたがるのにはいくつか理由があると思うが、最も大きなのは、合併しなければ中核市になれないからである。
 政令指定都市に次ぐ権限を持つ中核市、その指定を受けるためには3つの条件がある。
1.人口30万人以上
2.面積100・以上
3.昼間人口が夜間人口より多いこと
 藤沢市の面積は、100・にほんのわずか足りないために、合併をして面積を増やさない限り永久に中核市になれないのだ。
 この話をおじちゃんおばあちゃんに話してもなかなか理解されないから、というのは分かるが、先輩諸氏の主張はあまりにも乱暴だったようだ。特に、「合併して住民サービスの質は本当に良くなるのか。」「合併した後の行政組織はどうするのか、効率化は本当に図れるのか」という住民の立場に立った議論が欠落していたように思える。
 町村合併というのは、自治体が生き残るための一つの手段である。地方によっては有効な手段かもしれない。しかし、湘南市で有効かどうかは未知数である。合併=行政効率化する、という構図は成立しない。行政効率化の施策をまず考え、その中で合併という選択肢が出てくるのが本来の議論の流れではないだろうか。
 上から下をみるから議論が混乱する。基礎単位としてのセル(この場合「コミュニティ」)を組み合わせて地域が、地域を組み合わせて国家が成り立っているという認識をまず持たなければならない。ややくどくなるが付け加えていえば、合併をもししたとしても、新しくできた「地域」の中での「コミュニティ」への行政のダウンサイジングが行われなければ、行政サービスの向上にはつながらない。地域行政センター(藤沢でいえば各市民センター)の強化と地域コーディネーターの存在が必要なのである。
 シューマッハではないが、「スモールイズビューティフル」はセルシティにあった言葉かもしれない。そのうち、このことについても触れたいと思う。

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栗田拓の論考

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Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

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