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1998年2月

第1部 財政再建序論としての行政改革 ~ 第12報「総括:本来の行革とは(2)」
大串正樹/卒塾生
 

§1.はじめに

 前報では,一年間に渡って検討してきた「財政再建序論としての行政改 革」の総括を行った。本報ではこれを受けて,それでは一体,何を行えば本来の 行政改革が進むのかについて論じたい。これは次報より論ずる「新しい行政シス テム」のイントロダクションでもあり,これまでの研究テーマと今後の研究テー マをつなぐ上での論点整理と位置付けたい。

§2.社会システムとしての行政

 行政改革を論じる場合,はじめに行政とは何かを考える必要がある。そし て,その際に政治との差異も明白にしておかなければならない。現実的な定義 は,シニカルな意味も込めて,行政とは「法の下に公共の目的の実現を目指して 行われる政務」,政治とは「社会の対立や利害を調整して社会全体を統合すると 共に,社会の意志決定を行いこれを実現する作用」といえる。一言で言えば行政 は政策実行であり,政治は利害調整であるということである。これは何を意味す るかというと,政策形成を担うシステムが不在ということである。もちろん,現 状の行政と政治の境界,あるいは役割分担が明確に線引きされているかと言えば それは怪しいと言うことも付け加えておかなければならない。
 それでは,政策形成はいかにしてなされるか。本来,政策は住民の「思い」が 形になって現れるものでなければならない。その思いが,一部の集団のものであ るにせよ,大多数の人々のものであるにせよである。すなわち,行政とはひとつ の社会システムとして存在するべきなのである。詳細は報を改めて論じるが,こ こで重要な点は,個人が会社に勤めて経済システムの一員として存在するのと同 じく,行政というシステムにも何らかの形で参加していくことが必要なのであ る。

§3.システムの自浄作用

 話を元に戻して,本当の意味での行政改革を行う場合,今求められる議論 は概ね,行政における腐敗や汚職の解消,肥大化の抑止,そして,硬直的な組織 運営から柔軟な組織運営への転換などがあげられるであろう。これら三つのポイ ントのうち一つ目の,行政における腐敗と汚職の解消に関しては,適宜チェック 機能を働かせて,住民が監視し,そのために情報公開を進めていくことが考えら れる。確かに,それである程度は成果がでるであろう。徹底して情報公開をし て,それを監視していけば,労力に見合っただけの成果が得られるはずである。 しかし,一体誰がそのような監視をするのだろうか。会計検査院か,オンブズマ ンか,それとも,全く新しい監視機構を設立するのか。その場合,それらの監視 機構は腐敗しないのであろうか。これから論じていく新しい行政システムにおい ては,そのような手法を取らない。なぜなら,そういった手法が根本的な問題解 決にはならないうえ,社会的コストも高いからである。むしろ,システムそのも のにはじめから自浄作用が働くようにプログラムしておくほうが,コストもかか らないばかりか,自律的に腐敗や汚職を防げるはずである。つまり,理想を言う と何もしないで自然に浄化されていくシステムをはじめから生成すればいい。果 たしてそんなことは可能か,あるいは現実的ではないと言う議論がすぐに起こり そうであるが,実際,生物は免疫システムという自浄作用をもち,立派に機能し ている。これを一つのメタファーとして,新しい行政システムを構築してみた い。

§4.システムの全体性

 次に二つ目の組織の肥大化の抑止についてであるが,これはその次の問題 でもある,組織の柔軟性とも関わりがある。すなわち,何かの政策,あるいは規 制に対応して組織は存在するのであるが,住民の「思い」に柔軟に対応して,組 織が生成されればそれだけ肥大化も進むはずである。これを抑止するには,力技 では難しい。むしろ,先の自浄作用と同様に,システムの中に予め組織の有限性 をプログラムしておくべきである。すなわち,柔軟に対応することによって生成 された新たな組織は,一定期間これを定めて存在機能し,行政の仕事として必要 性が薄れた場合は廃止,あるいは民間委託していく。逆に,組織ははじめから無 くなることを前提に機能し始めるわけである。従って,業務を遂行するにあた り,無くなってもいいように,あるいは,民間に委託できるようにその準備をし ながら運営していくべきである。これも,また,同様に生物のアポトーシス(細 胞が自ら死のプログラムを発動して死んでいくこと)という機能がシステムとし て実現の可能性を示唆している。この機能が失われたとき,細胞は無限に増殖し ていく,すなわち,ガンに他ならない。今の既得権益にしがみつく行政はまさに このガン化が進行している組織と言えよう。

§5.システムの進化

 最後に硬直的な組織運営から柔軟な組織運営への転換について触れると, 繰り返しになるが,住民の「思い」から政策を形成する場合,それぞれの思い は,その社会環境によって生み出されることが多い。つまり,環境によって影響 を受けて生み出される思いに対して,柔軟に応える行政システムを生成するに は,行政もまた環境に対して開かれたものでなければならない。言い換えると, 行政システムそのものが開かれたシステムであり,環境の要因に敏感に対応しな がら進化していくことが必要なのである。ここに始めてシステムの効率化という 概念が生まれる。進化と淘汰が機能して始めて効率化が進むのである。そこに至 って初めて今の日本が抱える財政の問題も根本から解決されるはずであろう。

§6.新しい行政システムへ

 本来の行革とは,もはや小手先の制度改革を意味するのではなく,システ ムそのものの転換,すなわち新しいパラダイムが求められる。ネガティブ・フィ ードバックで制御できる限界は既に越えている。これから求められるのはポジテ ィブ・フィードバックによる自律的制御である。そしてシステムの根幹部分を変 革することによって,その自浄作用が末端まで行き渡るようにパラダイムチェン ジが進行する。その先には真に国民が幸せを享受可能になり,財政の諸問題をは じめとする様々な社会問題が解決された,新しい国家観が形成していく事を信じ てやまない。このような思想に基づいて,これから,「新しい行政システム」に ついて分かり易く論じていきたい。


本報を以て「第1部 財政再建序論としての行政改革」を終了する。
次回から「第2部 新しい行政システム」に関して論じていきたい。

1998年2月 執筆
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