論考

Thesis

政治家はマーケットの怖さを知るべきだ

先日、久しぶりに伝記作家の小島直記先生の勉強会に出席した。その勉強会での冒頭、先生はJR東日本の松田昌士社長からご送付された資料についてコメントされた。それによると、国鉄清算事業団の債務処理にからんで、与党および政府が、JRに強制的に負担をさせようとする動きが具体化しつつあることに、強い憤りを感じられているとのこと。配布された資料を読むと、特に海外の新聞論調の非難が強烈であった。

 そもそも、JR東日本株は、現在東京証券取引所第1部に上場されており、投資家は87年の債務処理スキームに基づき投資をしているはずである。それを、政治家が無神経な発言や行動を繰り返し、マーケットに横やりを入れている。昨年12月18日には、政府委員会での話がきっかけとなって、同社の株価は4.5%も一気に下落した。いったい、この損失を政治家はどう考えているのだろうか?

 このように、日本の政治家がマーケットに鈍感な発言を繰り返していると、機関投資家のファンドマネジャは、日本のマーケットには外部要因リスクが高いと判断し、日本への投資全体を手控えるようにする。ビッグバン以降、日本国内に滞留している資金の流動性が高まるであろうから、さらにマーケットへの気配りが必要とされる。

 以前にも、橋本首相が渡米した際、通商交渉が難航していた腹いせに、「米国債を政府が売却することも検討」などとほのめかしたため、米国債券市場が下落したことがあった。国内紙の一部は、橋竜の米国への毅然とした態度を称賛するような報道をしていたが、私は一国の首相がマーケットに無知な発言を得意げにしていることに腹が立って仕様がなかった。こんなことでは日本の金融マーケットはいつまでたってもグローバルな市場として世界の投資家に相手にしてもらえないであろう。当然、日本の金融機関の経営にもしわよせが来る。

 新井将敬氏の問題で、政治家の株取引は悪だとする風潮が強いが、インサイダーのおそれを排除するルールを確立した上で、むしろマーケット感覚を磨いてもらいたい。そうすれば、バブルの絶頂期に国鉄汐留跡地をマスコミの反対を押しきって(この点でマスコミは国鉄債務処理問題をいう前に反省すべきである)売却を進め、少しでも債務圧縮に貢献した政治家が出ていたかもしれない。マーケットおそるべしである。

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黒田達也の論考

Thesis

Tatsuya Kuroda

黒田達也

第14期

黒田 達也

くろだ・たつや

事業創造大学院大学副学長・教授

Mission

人工知能(AI)、地方創生、リベラルナショナリズム

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