論考

Thesis

「日本になくてデンマークにはあるもの」前編

■意外と知られていないデンマーク
昨年の11月から12月にかけて、社会福祉を学ぶためデンマークを訪れた。実際に滞在したのは、首都コペンハーゲンがあるシェットランド島と隣り合せの島、ヒュン島北端の港町ボーゲンセ市。人口6000人の小さな町だ。
肌に伝わる陽気は日本の1月下旬から2月上旬位の寒さといったところだろうか。想像していたよりも寒くなく、ほっとする。日はとても短く、3時を過 ぎた頃から辺りが暗くなり出す。4時になると、外はすっぽりと暗闇に包まれてしまう。週に2日晴れれば上的な程、晴れ間が少なく、北欧独特の鉛色の雲が日中町全体を覆う。聞くところによれば、ここでも近年は温暖化の影響のため、雪が降るのがぐっと減り、積もることは滅多にないとのこと。反対に夏は、日は長く白夜が続く。日本の気候がしっかりと染み込んでいる私の体に、この気候は慣れるのにかなりの日数を要した。
デンマークは、人口約520万人の立憲君主国家だ。面積は九州地方、人口は兵庫県とほぼ同規模。最高峰は174メートルしかなく、印象としては山がなく、ちょっと町を離れると北海道の富良野を連想させる平原が目の前に広がるかんじだ。
政治行政組織は、日本と同じ国会、県(アムト)議会、市(コミューン)議会に分かれる。国全体に関わる事項の責務は、国会および内閣が担い、公共市民サービスは、14のアムトと275のコミューン(2つの特別市も含む)が担当する。
福祉など地域の身近なサービスは、コミューンが担当し、ゴミ問題や医療や障害福祉といった、広域にまたがるようなサービスは、アムトの役割になっている。
お隣のスウエーデンの情報は、弊塾の山井和則塾員を筆頭に我が国に紹介する人は数多い。またこのところ、高齢化問題などでテレビや雑誌などに何度もマスコミ報道されており、知名度は抜群だ。その差は月とスッポンと言っていいほど、離れている印象を受ける。事実ここに来るまでは、この国をあまり知らなかった。極端に言えば、日本で福祉以外で知られているのは、アンデルセンやロイヤルコペーンハーゲンがある国くらいではないだろうか。
とにかく同じ北欧にありながらスウエーデンよりも遠い国に思えた。

■Holkehojskole
ボーゲンセ市の外れに、デンマークに住んで、かれこれ30年を超える日本人がいる。千葉忠夫(56才)さんがその人だ。岩手県一関市の出身で、ここに来る前は、宮城県内の陸上自衛隊に勤務していたそうだ。
千葉さんは、「日本に役立つ人間になりたい。北欧の福祉を直に学んで日本に伝え、豊かにしたい」と志、30年前、何の知識もないまま、背中に大きなバックを背負い、所持金たった500ドルだけを握りしめ、この地に飛び込んだ。
その後、各地を転々としながら苦学して、オーデンセ大学でソーシャル・インストラクチャーの資格を取得した異色の人だ。
現在、町から3キロほど行った四方に平原が広がる所に、日本人とデンマーク人のための学校、「日欧文化交流学院」を経営している。この学校の形態は、フォルクホイスコーレ(Holkehojskole:国民高等学校の略)と呼ばれ、150年前から始まったデンマーク特有の教育制度で運営されている。後にスウエーデンが、このシステムを導入している。
制度の概略を説明すると、17.5才以上の人であれば誰でも自由に入校することができる。教師と生徒が、一緒の屋根の下で共に対等な立場に立って共同生活を通しながら、それぞれのイデオロギーに基づき、自由な教育を行っているのが大きな特色だ。
期間は学校によって様々で、1週間から4週間といった短いコースもあれば、10ケ月間の長期コースもある。試験はなく、資格は得られない。全国に107校あり、設立するためには文部省の認可が必要となる。千葉さんは日本人として初めて開校を認められた人だ。
今回、厚生省のシンクタンクに勤める知人からこの学校を紹介され、生徒としてではなく、1ケ月間の短期の研修生として、この学校にお世話になった。
ここを拠点としながら、デンマークの医療、教育、福祉を中心とした社会システムを、直に現場に足を運んで視察しながら学んだ。

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草間吉夫の論考

Thesis

Yoshio Kusama

草間吉夫

第16期

草間 吉夫

くさま・よしお

東北福祉大学 特任教授

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福祉。専門は児童福祉。

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