論考

Thesis

愛国心について

 ここカリフォルニアに来てから、はや一月と半分が過ぎようとしている。

 異邦人としてアメリカに来ている留学生達と暮らす、疑似国際生活(?)を過ごしているが、今まで見えなかった他の国の人の姿がよく見えてくる様になってきた。併せてと言おうか、各国人の暮らしぶり、行動と比較して改めて自分自身が日本人であると実感させられる。

 例えば授業などでふと講師から発言を求められたときについ「はい」と答えてしまう。生徒が積極的に授業で発言していくスタイルのアメリカでは、生徒がいちいち返事をすることは余りない。

 また私は寮で各国からの留学生達と共同生活をしている。食事は提供されないのでだいたい自分たちで料理するが、その際それぞれのお国料理が毎日見物できる。始終接していると各国人の癖が見えて面白い。

 台湾からの留学生は朝食はやはりお粥だし(中華圏の一般的な朝食)、韓国人の食卓の上には毎度キムチが見える。ドイツ人は余り料理に凝らず、いつもジャガイモを食べている。我が日本からの留学生はと言えば、ひとたび料理の仕込みを始めると全てを忘れたかの様に料理に没頭している。

 ブラジルからの留学生は明るく気がいい人々だが、料理の後かたづけ、パーティーの後始末はほとんどやらない。だいたい次の日に日本人留学生組がぶつぶつ文句を言いながら片づけるが、腹に据えかねて注意をすると「Oh ! , Sorry , My friend」で済まされてしまう。体全身を使って謝るのでいつも毒気を抜かれるのだが、次に行動を改めるかといえばついぞ見ずじまいだった。

 もちろん以上の例は私が自分の寮でみた限りの事実だとお断りしたい。

 ところで、アジアに近いカリフォルニアの地では韓国・台湾からの男子学生と交流する機会に恵まれる。彼らにこれまでの人生で最もつらかった経験は何かと尋ねると口を揃えたように「軍隊生活」との答えが返ってくる。

 衆知の様に韓国や台湾では成年男子には徴兵義務が課せられる。韓国の場合20ヶ月だという。学生の場合、大学での学習を一時ストップするか、又は大学を終えてから任務に就くケースが一般的だ。

 生まれて初めて親元を離れ、いきなり規律正しい生活に一変するだけに慣れるまでが非常にきついという。韓国ではマイナス20度の中でテント暮らしをしたり、油にまみれて迫撃砲の組立、運搬を行う。私の友人は、迫撃砲を運ぶときは分解しなければならないが一番重い発射台の部分は新米の兵隊が運ぶしきたりになっていて初めに担がされたときは泣きそうになったと語る。

ある日深く話す時間が持てた韓国からの留学生に少しつっこんだ質問をしてみた。徴兵から逃れたいかと聞くと、少し考えた後「No」の返事が返る。理由を聞いて非常に驚いたのだが「国家に対する責任感」のためだと言う。

 そして彼は自分自身の国に対する愛国心をほとばしるように話続けたが、いったい現在の日本国内でどれだけの人が胸を張って「愛国心」について語れるだろうか。

 彼に日本の一部の高校では国歌や国旗を無視していると伝えたが、笑って取り合ってもらえなかった。

 「愛国心」等と言うものは、個人が自由になっていく課程で次第に消えていくものだと一笑に付すこともできるだろう。実際彼自身も韓国の中でも「愛国心」という言葉は消えつつあると話していた。

 しかし、自分の存在以上の存在、例えば国家に対して真摯に尽くそうとする純粋な心をアジアの隣人の多くが持っている事に対して、私は頭を垂れざるを得ない。

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豊島成彦の論考

Thesis

Naruhiko Toyoshima

豊島成彦

第16期

豊島 成彦

とよしま・なるひこ

公認会計士・税理士

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