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1997年5月

第1部 財政再建序論としての行政改革 ~ 第2報 「システムの完全性と不完全性」
大串正樹/卒塾生
 

1997年5月 月例報告

松下政経塾 第17期生 大串 正樹

第1部 財政再建序論としての行政改革 ~ 第2報 「システムの完全性と不完全性」


§1.諸問題の特徴

 昨今の政治にまつわる諸問題,およびその議論には,共通して直接的原因が不明瞭であるという特徴が見受けられる。つまり,問題の原因を突き止めたとき,それが,既に原因ではなく他の要素に起因する問題となっている場合が間々ある。例として,前報で述べた公共事業をめぐる問題を再度取り上げると,構造の問題としての「予算配分」,運用上の問題としての「政官財の癒着」,背景に潜む「族議員」の問題がある。これらが一連の因果関係でつながる事は容易に想像されよう。それでは,諸問題の原因を突き詰めていった場合,たどり着く根本的な原因は何か。再度,先の例を引用すると,「族議員」を生み出す背景は,選挙制度そのものであり,見方を変えると,投票率の低さ,すなわち,大多数の国民の政治的無関心にある。国民がNOと言えば,変えられるはずのシステムなのである。全ては,国民一人一人の意識や心の問題に帰着する。しかし,国民の心を入れ替えるのは,極めて難しい。そこで,我々は現実的な手法を考えなければならない。

§2.非線形問題への帰着

 根本的な原因が解決しがたい場合,その顕著な例として,先の国民の意識の問題が挙げられるが,これは,数学的な意味合いを込めて述べると,線形的な解決が困難であることを示す。言葉を換えると,国民の意識さえ変われば,諸問題は機械的に解決していくのである。ではどのように取り扱うべきか。これは,明らかに非線形問題として取り扱うべきなのである。繰り返し,繰り返し値を代入しつつ,正解へ近づいていくのである。最もわかりやすい例が,「地方分権」と「地域の自立」の問題である。分権を進めて地域に権限を委譲し自主運営を促進するのが先か,地域が十分に自立し,安全に経営が可能であることを見届けてから権限を委譲していくか。線形的な発想では解けない。思いきって,初期値なる政策を投入して,繰り返し改善政策を投入する事によって解を得る方法が,一番速い。もちろん,それによって様々な問題が発生することは度外視しての話であるが,これが非線形問題への帰着である。従って,時間を費やすべきは,分権が先か地方の自立が先かの議論ではなく,どのような初期値,すなわち,初期政策を投入するかの議論である。

§3.システムの完全性と不完全性

 さて,様々な政策を取り込んで,行政というシステムは一見完全なシステムに近づいているかのように見える。少なくとも,システムを完全なものに近づける努力をするべきだとする意見があっても不思議ではない。但し,よくよく考えてみれば,完全なるシステムは存在し得ない。あるものへの利益は,必ず,他のものへの不利益である事を考えれば,政治そのものの不完全性が明白なのである。この不完全なシステムを改善しながら,よりよいシステムに近づけるためには,何をすべきか,また,どのようなシステムであるべきか。具体的な結論は,もう少し待たねばならないが,以下に鍵となる概念を少し述べて,前報から引き継いできた本報(イントロダクション)の結びとしたい。

§4.システムの再帰性

 国家が目指す理想,あるいはその文化は,思想として国民に広く受け入れられなければならない。逆に,国民が求める理想が国家の行く末を照らし出すと言った方が,正しいのかも知れない。いずれにせよ,この思想は,行政というシステムそのものの中に刷り込まれていなければならない。前報で述べたように,行政システムは財政システムのメタシステムである。これは同時に,財政以外にも経済,金融,地方自治,教育など数多くのサブシステムを内包しているものである。さらに,このサブシステムである財政一つを取り上げても,租税システム,社会保障システムなど,さらに多くのサブシステムを内包している。システムは際限なく分化と内包を繰り返す。ここで重要なのは,冒頭で述べた思想の刷り込みが,再帰的にサブシステムに及ぶことである。再帰的,すなわち,どのシステムにも,まったく同じ思想が宿っていること,さらに,この再帰性が,システムの最小単位の国民一人一人に及ぶことことが,第一の鍵である。そうすることによって,国民一人一人はシステムの「部分」でありながら,「全体」である国家の思想や振る舞いを十分に反映しうるのである。逆に再帰的であればこそ,国家はシステムの「全体」でありながら,「部分」である個人を再現しうるのである。ここで言う再帰的思想とは,具体的には「大きな政府」か「小さな政府」か,といった合意形成が必要な,いわば国家の方向性を示すものを言う。(各論に及ぶ思想の再帰性を求めるのは,先に述べたシステムの不完全性に矛盾する。あくまで,大まかな方向性から始めるのがステップとしては正しい。)

§5.免疫系の移植

 第二の鍵となるのは,システムに健全な状態を維持する機能を持たせることである。ヒトの免疫系がその手本となると考えられる。身体に入ってきた異物,ここでは,システムの思想に矛盾する考え方や行為,を発見し速やかに抗体を作って対処(排除)することが要求される。これまでは,資金の流れや行政の実施といった,いわば循環器系の改革ばかりに目をやられてきたが,ここで示すのは,免疫系(リンパ系)の移植である。どんなに素晴らしいシステムでも,外敵からの抵抗力を持たさなければ維持できないはずである。システムにとって,その全体性を守ることは最も重要なことである。従って,政治腐敗防止法の概念をさらにシステム全般に及ぶもの,普遍的なものへと,捉え直す必要がある。ただし,そのためには,前項で示した,再帰的な思想,すなわち,合意形成がはっきりと出来ていることが前提となるのは言うまでもない。
 またこの免疫系には昨今注目を集めている,アポトーシスの考え方を持つことがひときわ重要である。アポトーシスとは,DNA中にある,死の遺伝子プログラムで,これを発動させることにより細胞が自ら死んでいくことを言う。システム内部での機能単位での死と再生が重要なのである。つまり,国家予算編成におけるスクラップ・アンド・ビルドの考え方は極めて自然に行われなければならない。このように,システムは,全体性を維持しつつ,その有限性をも自覚しなければならない。今の行政に最も欠落しているのが,この有限性の自覚であろう。官僚に政治を明け渡したことによって,際限なく増殖・存命を続ける特殊法人や政府系企業。規制に群がる企業。それを養護する族議員。その振る舞いは,ガン細胞そのものであり,免疫が働かない様は,エイズそのものである。

§6.システムを超えて

 最後に,もう一つの鍵に触れて,本報を結びたい。それは,システムは進化しなければならないということである。生物ならば個体数を増やして交配,世代交代,自然淘汰を繰り返すことによって,より環境に適したものを残すことが出来るが,行政のシステムではそれは出来ない。従って,自分自身で環境に対応して自己組織化し,自ら変革していくシステムこそ真に望まれるのである。そして,その暴走を防ぐ意味でも,先の免疫系の移植が,併せて重要なのである。
 我々は,このような進化型の行政システムを,現実のものとして具体的に考える時期に来ていると考える。単一民族,単一言語の日本だからこそ,世界に先駆けて実践することが可能なのではないか。また,この時代の日本を生きた我々には,経済力に見合った行政システムを構築することによって,政治後進国の汚名を返上する責務があると考える。真に次世代に残すべきは,システムにまつわる英知であって,財政赤字や不必要に立派な公共施設ではないはずである。

続きは第3部「財政再建結論としての行政システム」へ。
次回,第3報より第1部の行政改革に関する各論を記す。

1997年5月 執筆
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