論考

Thesis

地方分権と人間観

5月末から、藤沢市役所の市民提案課で研修をさせて頂く予定である。
 市民提案課というのはこの4月に新設された部署で、市民のまちづくりへの参加意欲を高め、自助意識を持たせ、地方分権の受け皿づくりをすることを目的としている。

 行政が積極的に市民会議のような場を設定し、より直接民主主義的だと考えられる方法でまちづくりを行う手法は、昭和40年代から50年代の前半にかけて全国に輩出した革新系首長によって多く行われた。
 三鷹市や習志野市、中野区の事例などが有名だが、そのどれもが大成功しているとはいいがたい。況やその他の許多の事例をや、である。
 今回の藤沢市における市民提案課の創設は、「市民自治」にとっての永遠の課題に、「自治体による市民自治の誘導」ブームが下火の現在、あえて挑戦するものであり、ひじょうに難しい仕事だが、それだけにやりがいもあるものだと信じている。
 この研修を通じて体得したことや失敗の分析については、おいおいレポートで報告することにして、今回は一部今までの繰り返しになるが、「地方分権と人間観」について記したい。

 地方分権は一部では、明治維新、第二次世界大戦敗戦に続く第三の革命・改革と呼ばれている。
 それだけ国体に及ぼす影響が大きいものだといえよう。
 その地方分権、昨今は「はやり」の観もあり、様々な意見が述べられている。
そして多くの意見が出されるほど、ますます混迷が深まっていくようにみえる。

 何故地方分権を推進すべきなのか。
 この根元的問い一つをとってみても、意見は分かれる。
 財政的理由(地方分権は規制緩和とともに行財政改革の両輪といわれている)や経済的理由、行政上の理由、危機管理上の理由、国土政策上の理由、様々な理由が挙げられ、地方分権の必要性が説かれている。
 これだけ多くの視点から論議されている地方分権だが、私には一つ重要な視点からの論議が抜け落ちているように思える。それが、「人間観」である。

 現在地方分権の必要性がこれだけ説かれている背景には、「地方分権が必要だ」という考えよりも、「いまの中央集権のシステムではこれからの時代に対応できない」という考え方が強くある。
 いわば、今度の改革は必要に迫られての改革である。
 自然と論点も、経済・行政のシステムをいかに改善していくべきか、というところにしぼられがちで、人間とは何者で、この地球の持つ自然システムと人間社会のシステムとが同じぐらいの規模になろうとしている現代において、求められる人間らしい生活とはなにか、といった議論は少なくとも地方分権を巡る論議の中では聞かれない。
 維新後作り上げてきた中央集権のシステムが、システム疲労を、時代と不適合を起こしつつあり、その結果として財政から教育・福祉にまで渉る多くの分野で、問題が噴出している今こそ、我々が求める、人間の理想の「暮らし」を追求しつつ、現実問題に立ち向かっていくという、よきバランス感覚が要求されているのではないだろうか。

 地方分権(合併からまちづくりまでを含めて)を論じるには、二つの要件を満たす必要がある。
 人間を理解し理想を追求することと、現実的問題に対処すること、この両方の能力をバランスよく兼ね備えることに加えて、もう一つ必要なのが、今年の3月のレポートにも記した「風船人間」の能力である。
 個のレベルで意識を集約させ、強い自意識(自我、エゴ)を持って問題に対応できる人間、行動力のある競争型人間と、世界のレベルまで意識を拡散させ、協調性(シンパシー、エヴァ)を持って問題に対応できる人間、共生型人間。
 その両方の性質を持ち、ときに応じてバランスよく使い分けることができる人間が求められていると思う。

 自助を求める地方分権は、弱肉強食の自治体間大競争時代の始まりでもあることは、たびたび書いた。今度の改革は、外科手術のようなもので、弱り切った中央集権国家がこの手術に耐えて健全な体を取り戻せるかどうかは、誰にも断言できない。
 システムの改善策として地方分権が根治療法であるかも、これによって、どんな結果が待っているのかも正確な予測はできない。
 しかし、健康な国家であった時代に、日常のケアを怠ったがために衰えた肉体を回復させるためには、副作用が多少あろうと、100パーセントの成功が約束されなくても、手術はしなければならないのではないだろうか。
 システムを正常に動かすのは行政の手腕であり、システムを改革するのは政治の手腕である。
 今回の地方分権の動きが本当に戦後期に続く第三の改革であるならば、現在は戦後初めて、どうどうと理想を唱えられる政治家が登壇するのが待たれている時代なのかもしれない。

Back

栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

くりた・たく

Mission

まちづくり 経営 人材育成

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門