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己の限界と戦う100km行軍 ~そこから見えたもの~

 「わが人生、苦楽の道を選ぶとき、苦難の道を選ぶべし」

これは、私が100km行軍を迎えるにあたって詠んだ辞世の句である。人生において、常に選択を迫られる場面があるが、人が困難と思う道をあえて進んでいくことこそ私の生き方、ということを表現した句である。この意気込みで迎えた2009年10月6日。我々30期生は、100km行軍の朝を迎えた。天気予報で予想されたように、朝から雨。苦難の道を選ぶ私に取って、今回の100km行軍は、望むところだと思う天気。もしかしたらこの天気は、塾主が我々30期生に与えた試練なのではと感じた。千葉塾生をリーダとする我々ロ組は、序盤から一定のペースを保って時間内に完歩する作戦だ。事前準備の段階でも、歩調をなるべく合わせられるよう同じメーカの杖を買ったり、アミノ酸を買ったりと道具もなるべく同じようにそろえた。条件を揃えることが何よりも歩調を合わせ、気持ちを合わせられると考えたからだ。また、傘をさして100km歩くことに一抹の不安を感じたものの、雨対策として靴に防水スプレーを念入りに掛けた上で、ビニール傘を持っていくことにした。

 スタート前、100km行軍の発案者であられる平野仁先生による「100km行軍の中で美しいものを見て欲しい。完歩した時には、必ず大きな達成感に包まれるだろう。」とのエールの言葉。非常に心強かった。「何が美しいのだろうか。海や森の景色か。明け方の太陽か。」などの思いを巡らせながらスタートした。

 歩き始めて40km辺りから海岸沿いを歩く。前回練習で歩いた時は、潮風が気持ち良い海岸沿いの道が、今は荒波と暴風で我々の行く手を阻む棘の道のようだった。一度歩いた同じ道とは思えない。練習では不気味だった夜のトンネルが、雨の日は逆に天国に思える。ここだけは雨が当たらない。雨の中の歩行は思った以上に体力を奪っていく。65kmあたりだろうか、好調と思われていた私の右足にも疲労が走り、ものすごい痛みが走った。休憩所での先輩のエールと温かいマッサージにより、体の疲労とともに心の疲労も和らいだ。しかし、ここまでくると人間は極限状態に近くなる。さらに極限状態では、どうしてもわがままになってしまう己との戦いとなる。自分を殺して仲間のことを考えねば。自分の疲労と仲間思いやる気持ちとの葛藤が生じた。休憩時間や歩くペース、3人がすべて満足のいく状態はない。疲労感や疲労箇所は個々によって違う。下りが楽である私と、下りはきついが、登りは楽と感じる仲間というように人によって状況がだんだん異なってきた。

 ようやく90kmの辻堂海岸に差し掛かったところ、冨岡先輩率いる外部者で構成されたハ組に出会う。フラフラでも前を進むハ組。彼らの疲労もピーク。我々と一緒なんだ。ここまで歩んできた仲間として、勇気づけられた。仲間の足取りも次第に重くなってきたが、それでも前へ前へと進むしかない。95km辺りで、ようやくリーダの添田塾生率いるイ組に出会う。我々ロ組もそして彼らイ組も感極まってしまった。「一緒に30期全員でゴールをしよう。」そう決めた直後、今までの緊張感が解けた安心感からか、長い時間足を引きずりながらも頑張ってきた添田塾生が「胸が痛い」と突然言葉を発した。「それでも一緒にゴールをしたい。」だが、添田塾生の心臓も気になる。ぎりぎりのところだ。命を削るように歩む彼の心を突き動かすものは何だったのだろうか。

 添田塾生の心臓を見守りながらの歩行が続き、ようやく政経塾のアーチ門に差し掛かる。見慣れた門と、暖かく迎えくれた塾生・職員の皆さんの顔を見るなり極限に達した我々は、ゴールのテープを切ると同時に、言葉で表すことができない達成感とともに脱力感で大きな手を広げた塾長の元に全員で飛び込んだ。その直後、添田塾生の表情は一変しあまりの苦しさに言葉もでない様子だった。「早く勝を病院に!」と私は叫んだ。その後彼は病院に運ばれ、安全が伝えられるとともに、我々の30期生の100km行軍は終わった。

 平野仁先生が言っていた美しいもの。それは、「仲間の友情」であったのではないか。今振り返ってみても、豪雨の中の100kmを24時間で歩くには、私自身の力だけでは到底達成できなかった。一緒に助け合い、励ましあった仲間がいて、先輩方の温かいサポートがあったから達成できたと思う。

 最後になりましたが、苦難の道の連続であったこの100km行軍を陰で支えて頂いた皆様方にお礼を申し上げて、本レポートを終えたいと思います。本当にありがとうございました。

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