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派遣労働者と共に働いて

 頬を伝って流れる汗を前の腕で拭えば、同時に灰白色のジンキーがまるで迷彩のように横顔を彩る。汗でぐっしょりと重くなったシャツ。帽子すらも投げ捨てたい衝動をなんとか抑えつつ、製造ラインの流れに合わせ機械的に動くことを強いられながら、頭ばかり何かを得ようと、新しい方向へ巡らせていた。7月中旬の耐え難い暑さの中、何度も流れる汗を拭きながら「労働」の過酷さを身をもって味わった。

 しかしながら、私の製造実習における最大のテーマであった「肌感覚と生の声」、それを少しでも感じ、そして集めようとするならば、あの暑く耐え難い工場に、少しでも足を留めておく以外に方法はなかった。

 今回の製造実習において「産業」と「労働」の大きくふたつのテーマがするならば、私の興味はもっぱら「労働」であった。

 私達がお世話になったパナホーム本社工場内には、大別して2種類の労働者が存在していた。ひとつは「正社員」、もうひとつは「派遣労働者」である。

 「正社員」とはつまりパナホームで採用され、パナホームと命運を共にする文字通りの社員である。一方「派遣労働者」とは、人材派遣会社に登録された人員の中から、パナホーム工場のニーズにマッチする者が派遣会社によって選ばれ、労働業務に赴くのである。しかしながら工場内労働者の約40%を占める派遣労働者が、工場にはなかなか定着してくれないというのがひとつ頭を抱える問題とのことであった。

 我が国における人材派遣業の歴史は、江戸時代にまで遡る。都市文化が花開き始めた当時、農村から都市へ職を求めて集まった人達に対し、様々な職業を斡旋したのが「手配師」と呼ばれた人達である。その後も、人材派遣業は1947年の職業安定法による間接雇用の全面禁止に至るまで、劣悪な労働環境が問題視されながらも続けられていた。企業としては、安い人件費・福利厚生費により労働者を確保できるというメリットがあるため、その後も違法と知りながら、ひそかに人材派遣は行われる。そして、1986年に労働者派遣法が制定され、表向きの復活に至るのである。ただし、1986年の同法では、派遣業種は13業種に限られており、その後、同法改正を重ねる度に派遣可能業種は拡大することとなる。

 労働者派遣事業の最大の問題点は何か。それは派遣元・派遣先・派遣労働者の三面的契約関係が生まれ、それぞれが求め、また提供する賃金・労働意識・スキルの間にギャップが生じることであろう。たとえば、労働者の視点からみれば、派遣会社からは安い賃金しか払われないため、しばしばアルバイト感覚で職に臨むのに対し、派遣先からは高いスキルや労働意識を求められることがある。実際に私が工場内で聞いた話でも、工場側は派遣労働者に対し、長く滞在しスキルを磨いていくことを望んでいるにも関わらず、当の本人達は、今の生活を支えていくための一時的な職場として考えている程度に過ぎないと感じられた。それでも技術を求めながらも賃金は抑えたい企業のニーズもあり、社会全体としてこのような派遣労働者は今後も増加する一方であると思われる。今後も、派遣労働者ありきで企業側は経営を考えることに変わりはないであろう。彼らをどのように処遇するかが、企業として、また社会として課せられたひとつの課題であることは明白である。

 最後に、今回私は政経塾生としてひとつ塾生の本質のようなものを知ったように思う。松下幸之助塾主がこだわり、第1期生から始められた製造実習。現地で現場の人になりきって学ぶことの意義を、塾主は強調されていた。政治を志すならば、一瞬にして「現場」を理解することが必要とされる。それは、現場のシステムやルールのみではない。そこで働かれる人々の心までである。現場の人情までも知った時に、初めてその場を最も適切に処遇できるというものである。持前の体力にモノを言わせ、毎日のように残業を行ったが、それはこの人情を味わいたいという思いからだ。塾生である期間にどのようなスタンスで研修に臨むのか、それが結局は、政治家としての将来の自分を決めてしまうような気がしてならない。人は一日にして変わるものではない。塾生である今こそが、最も大切な時なのだと感じた長く短い4週間であった。

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冨岡慎一の活動報告

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Shinichi Tomioka

冨岡慎一

第29期

冨岡 慎一

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WHOコンサルタント/広島大学客員准教授/ことのはコラボレーションクリニック代表

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