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製造実習レポート ~改善と意欲~

 滋賀県旧湖東町、水に恵まれ遠くに山々をのぞむのどかな水田地帯である。民謡ふるさとに歌われる「うさぎ追いしかの山 小鮒釣りしかの川」とはこのようなところかと思うような、静かで風情のある景色が広がっていた。私はそのような中を、JR能登川駅からバスに揺られていた。揺られること30分、そこに突然と大きな工場が現れる。滋賀パナホーム湖東工場、巨大な敷地を有する大工場であり、壁や屋根など住宅の組み立て部材を生産している。ここが、7月いっぱいかけて行う製造実習の現場であった。

 私は流通倉庫などでの力仕事はしたことがあるが、工場という生産現場で働くのは初めてであった。私が実習を行う前に抱いていた工場のイメージは、いわゆる3K(きつい、きたない、危険)、単調な仕事による精神的な辛さ、チャップリンのモダンタイムズが表すような機械に振り回される人間、といったものであった。昨年、先輩が軽いけがをしたということを聞いていたこともあり、特に「危険」ということが頭にこびりついて離れなかった。

 工場での実習期間は10日間(約70時間)であり、1~3日目は屋根ラインで溶接部分にジンキー(サビ止め)を塗布し、4~6日目は壁ラインで溶接部分にジンキーを塗布する作業を行った。工場内は30度を超える暑さの中、ラインで次々と流れてくる屋根、壁に素早くジンキーを塗っていく。汗を流して働くことに、爽快感というかデスクワークとは違った喜びを感じ、体を動かして働くことは楽しいというのが実感として湧いてきた。また、ラインには人が乗れば反応するマットセンサーや、人が近付けば反応するセンサーが設置されており、手足を切断するような「危険」をイメージしていた私のイメージとは異なり、安全に十分配慮したつくりとなっていた。海外の事業者がこの工場を見学した時などには、なぜそこまで安全面に気を配るのかと驚くほどであるという。さらに、工員の方々は非常に意欲的であり、作業の手早さはもちろんのこと、「屋根ラインと壁ラインのジンキー塗布ではどこが違うと思うか、変えるべきことはないか。」と私に聞いてくるなど、仕事を良くしていこうという前向きな姿勢には触発されるものがあった。もちろん、慣れない立ち仕事で足が棒になったこともあったが、総じて働くことが楽しかった。

 しかし、7日目~10日目に行った壁ラインでの断熱工程では、状況は一変する。断熱工程を実習していた同期がげっそりとしていることには気付いていたが、なんとかなるだろうという気持ちであった。この作業では、ラインに流れてくる壁にロックウールという断熱材を埋め込んでいくものであり、作業台の上がり下がりやロックウールを運ぶ時に、活発に動く必要がある。加えて、差し込む西日で気温は35度まで上がる。スポットクーラーという空調に助けられたが、何度か暑さで意識がもうろうとなった。そして、汗だくになりながら、ロックウールを埋め込んでいくのだが、これに長時間触れていると、段々と手がちくちくし、かぶれてくる。断熱工程の初日は金曜日であり、実習が無い週末になっても、発疹とかゆみは止まらなかった。まさに、きつい、きたない、かゆいの三拍子そろった3K仕事といったところだ。

 これだけの厳しい環境の中でどうして働くことができるのか、やりがいや働きがいとは何かという素朴な疑問が沸いてきた。休み時間の合間に工員の方々に聞いてみると、人に褒められた時、ラインがスムーズに流れた時というのもあったが、改善することという予期せぬ答えが返ってきた。自分の心を問うてみれば、ロックウールの置き方やジンキーの塗り方といった小さいことながらも、やり方を改善し、自らが進歩することに喜び、やりがいを感じていることに気付いた。改善し、より良いものをつくっていくことに何故喜びを感じるのか、それは自分を楽にする、まわりを楽にする、まわりに評価されるなど様々な要素があるだろうが、私は人間とは、改善し、より良いものをつくっていくこと自体に喜びを感じる本性があるからだと思う。であるからこそ、改善→やりがい→改善という好循環が生まれ、社員のやりがいや士気高揚につながっているのであろう。そして、改善こそ、安くて良い製品をつくる源泉でもある。屋根のラインでは、ボタンの位置を変えるなどの小さな改善の積み重ねによって、約15%の生産増になったという。1ヶ月に1度、改善提案を提出する制度があるなど、工場における改善や無駄取りへのあくなき追求は大変な驚きであった。

 行政に身を置いていたものとして、人口減少時代の中で、歳出の削減と社会福祉などのサービスの充実は、地方自治体が抱える喫緊の課題と考えている。これを打開するには改善の文化が定着し、改善をし続けている日本の生産工場現場が参考となるのではないか。現在、地方自治体では経営という言葉がひとつの流行りであり、PFI、地方独立行政法人、公設民営などの民間手法の導入が行われてきたところである。しかし、運営主体が変わるだけでは何も変わらない。自治体経営を良い方向に導くには特効薬は無く、工場現場のように改善の文化を創造し、あくなき改善をし続けていくことが参考となるであろう。

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津曲俊明の活動報告

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Toshiaki Tsumagari

津曲俊明

第29期

津曲 俊明

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千葉県船橋市議/立憲民主党

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