論考

Thesis

ごみ問題を考える

1.はじめに

 京都大学の高月教授は、15年前からゴミの分析を続けている。
家庭から出る一般廃棄物を、200項目ほどに細かく分類し、何がどのくらい排出されているか、詳細な記録を残しているのである。
 それによれば、一般廃棄物の中の紙ごみは、容積比で6割が容器包装であり、プラスチックに至っては9割にも達している。
 重量比で見てみると、その内訳は紙40%、プラスチック35%、残りは厨芥となっている。

 平均的には、この様な一般廃棄物を処理するために、1トンあたり5万5千円がかかっており、日本全国のごみ処理経費は年間1兆8千億円となっている。ただ単に、ごみを処理するためだけに、巨額のお金が使われていることが分かる。
 その内訳を見てみると、65%がごみの収集にかかる費用である。となると、いかにごみのカサを減らすか、と言う事が重要になってくる。
 カサでごみを見てみると、その6割以上は容器包装であり、これをいかに減量させるかが今後の課題であると言えよう。

 10年前、日本国民一人あたりの缶の消費量は100億個であったが、それが今では300億個にまで増えている。
 1人あたり年間実に250個も消費している計算になり、フランスの13個、ドイツの60個等と比べても段違いに多いことが分かる。
 またスーパーなどで買物をすると、必ず使われているトレイは、年間400~600億枚が消費されていると言われている。
 諸外国のスーパーと比較しても、日本のように大量に容器包装を使い捨てている国は、見あたらない。

 ドイツでは、1991年の「包装廃棄物の回避に関する政令」と、DSDシステムによって、企業が責任を持って全ての容器包装をリサイクルするシステムを徹底させている。産業界が共同で出資した、DSD社(有限会社デュアル.システム.ドイッチュランド)は、包装の素材及び量に応じて、企業から料金を徴収し、包装容器の回収.資源化を責任をもって行うのである。
 わが国においては、ごみは消費者と市町村の責任において処理されてきた。これにより、企業は回収などが必要なリターナブルびんから、作って売るだけで良いワンウエィの使い捨て容器への切りかえを、どんどん行ってきたと言って良い。
 今年の4月からようやくわが国においても、「容器包装リサイクル法」が施行される事になった。
 しかしながら、最もコストのかかる「分別収集」の段階は、まだ市町村の責任となっている。そこがドイツとは、決定的に異なっているのである。

2.無駄に捨てられる食べ物

 さらに一般廃棄物の中でかなりの重量を占めている、厨芥ごみについて見てみたい。
 厨芥の中には、野菜のシンや果物の皮などの料理クズと、食べ残しがあるが、本来はおなかに入るはずである食べ残しが4割を占めると言う。
 さらに厨芥ごみの14%は、賞味期限を過ぎたなどの理由から、手つかずのまま捨てられている。
 日本に供給される食糧を見てみると、国民一人当たり2600キロカロリー(年間)であるが、実際に摂取されているのは2000キロカロリーでしかなく、600キロカロリーは無駄に捨てられていることが分かる。

 一方、わが国の食糧自給率はカロリーベースで、42%にまで落ちている。このように見てくると日本人は外国に
 又興味深いのは、容器包装などのパッケージにも、多大なエネルギーが消費されていることである。
 先ほどあげたように、日本人一人あたり2600キロカロリーの供給があるが、食品用のパッケージに使用されるエネルギーを計算すると、一人あたり実に2500キロカロリーにもなると言う。

 このように日本人の食生活は、大量の資源.エネルギー消費の上になりたっている。
 日本で消費される資源のうち、紙の42%、プラスチックの60%、ガラスの70%、鉄の1.6%、アルミの16%は、容器包装に使われている。しかしながら、容器包装と言うものは、買物をして家に帰った後、すぐにゴミ箱に直行するものである。
 貴重な資源がこのように、無駄な使われ方をしているという事実に、私達日本人はもっと目を向ける必要があるだろう。
 また資源の無駄使いと同時に、ゴミ処理コストも無視できない問題である。
 例えば年間20億個消費されているペットボトルであるが、一個当たり30~40円の処理コストがかかっている。
 確かにペットボトルは、軽い、酸素に対するバリアー性が強いなどの優れた特性を持つ。しかしながら、小型ペットボトルまで出回り始めた状況では、ごみ処理コストがどこまでも上昇するばかりである。
 便利で快適な生活の裏側にあるものに、私達は一刻も早く気づく必要がある。

3.ライフスタイルをどうかえるか

 日本人の資源.エネルギーの消費量、ゴミの排出量などは、ここ2~30年の間に急カーブを描いて増えている。
 それは端的に言えば、身の回りにあるモノ増えていくことである。
 私達が一年に購入する洋服やストッキングなどの数は、ここ20年の間に数倍になっている。

 京都大学の高月教授は、最近600人ほどを対象とする興味深いアンケート調査を実施した。その内容は、身の回りにある品物に対し、それが本当に必要か、それともなくとも特にかまわないものであるかを、判断してもらうものである。
 それによると、冷蔵庫や洗濯機は90%の人が必要としているが、テレビや自動販売機は、特に必要ではないと答える人が多かったと言う。
 そこで、本当に必要なものだけで生活した場合のエネルギーを計算すると、1990年レベルから15%消費量を削減することができる。例えば自動車に乗らず、クーラーを使わないなどの工夫をすると、30%ほどエネルギーの消費を削減出来ると言う。
 さらに、2~30年前のライフスタイルであれば、必要な資源.エネルギー量は半分になる事が分かっている。

 オランダの環境NGO「地球の友」は、北側先進国の消費削減というテーマに早くから取り組み、「永続可能なオランダアクションプラン」の中で、「世界中の人の需要を公平に考えた場合、その消費レベルはどのくらいなのか」を専門家とともに検討する作業を行った。
 これによると、2010年の段階で想定される人口を70億人とすると、オランダの場合、アルミニウムは一人当たり使用量を40%削減、農業資源は40%削減など、現在の消費生活を大幅に変える必要がある。
 高月教授は、これを日本にあてはめた試算を行っている。
 それによれば、エネルギーは53%、淡水は78%、アルミニウムは89%、木材は55%、肉の消費は48%、現在の消費れレベルから削減することが必要になると言う。

 現在のままの生活を続けていれば、食糧.エネルギーは2010年頃までに、破局をむかえることになると、多くの専門家達が警鐘を鳴らしている。
 しかし、本当に必要なものだけで、資源.エネルギーの消費を半分にした生活をすれば、破局を回避する希望があると言うことである。
 反対にこの方向性で、私達の経済活動やライフスタイルを変えていかなければ、21世紀は人類の最後の世紀になるかもしれないのである。
 出来るだけ長く使えるように設計した、本当に必要なものだけで、シンプルに生活する。自分自身、出来るところから始めてみたい。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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