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『国家という家に住む』

■“住まいは人間形成の道場”

 居は気をうつす、と孟子の言葉にある。つまり住居そのものが人間の生活空間をつくり、そこに人間社会としての気が宿る。つまり家庭という気は、居が創り出すというものだ―。今年度の研修において、一次産業として営林実習を経験。樹木の果たす役割、水との関連性、林業の将来性を検討してきた。次いで製造実習では住宅産業メーカーにて工業用住宅の製造ラインにて住宅の部材を製造。一連の研修と住宅産業の今後を踏まえ、以下に経営理念を検討していくものである。

■住宅産業を取り巻く環境

 日本の住宅の方向性は、今大きく変化しようとしている。その大きな要因、それは地震である。何も今に始まったことではない列島の宿命であるが、特に阪神大震災以降近年の新潟中越沖地震に至るまでの被害は相当なものである。結果、住居自体地震が頻発する土地にあった免震力を有していない現状が明らかになってきたのである。日本の住宅のうち、現行の新耐震基準施行(1981年)以前の、いわば基準に満たない住宅が全体の実に37%をも占める。また我が国の住宅は新築から壊されるまでの期間が実に短い。日本の31年に対し、アメリカ44年、イギリス75年と差は歴然である。それに加えて近年問題となった耐震偽装等の問題と、いわば信頼性の低い住宅が蔓延しているという認識が広がっているといっても過言ではない。それにより住宅の中古市場が未発達であり、住居の資産価値は薄く人生において最も高額な商品を消費するに留まっているのである。

 そこで登場するのが、“200年住宅ビジョン”である。つまり、より長く大事に使用する。現在強い住宅作りは国交省の重点項目に掲げられている。「立て替える」を、「住み替える」にシフトする取組なのである。地方との格差が叫ばれる中、代々ある田舎の家に帰るもよし、また中古市場の拡大により、都市近郊の住居にリフォームすることで新築同然で格安で入居できることにつながる。ちょうど今は金利の底から上昇局面でもあり、団塊世代が退職する時代の大きな流れ。購入者としてもメリットある買いの時期と見る向きも多い。そしてメーカーの側にとっても、元来技術力があり当該物件の建設は十分可能、長期使用物件が増すことで、縮小傾向にあった住宅市場に中古市場、メンテナンス市場という新たな市場を開拓できるチャンスでもある。加えて国内林業についても、輸入材に頼ってきた近年の傾向であったが、海外森林伐採への非難、途上国の繁栄により、国産材の価値が見直され、品質面での安心感と相俟って、絶好のチャンスとなってきているのである。

■経営の本質とは

 そうした国内の住宅市場の現状を頭に想定しながら、工場のラインにて工業用住宅の部材加工に勤しむ。製造ラインには世界のトヨタの管理手法を取り入れた生産性をより上げるための工夫が随所で見られる。企業の言う生産性とは何か。それは最速・最安で高品質のモノづくりを実現することである。工程を標準化し、ムダを省き、在庫を縮小し、工程を最小にする取組である。しかし少子化により経営の舵取りが難しい局面である。筆者は当業界メーカーの根本的な経営状況を探るため、従業員、派遣社員、請負社員、工場幹部、地方の代理店と切実な話を重ね重ね聞いて回った。経営管理者側に偏った一面的な観点から企業を捉えることは、歪んだ把握になる懸念がある為である。共通していることは、自ら作り、売る商品について、誇りを持って臨んでいることである。2次産業の特徴でもある、多くの人の手によって生産する業界で、とても重要な点が確保されていることに気づいた。ついで顧客とその反応、従業員の声、社員の声、そして代理店の声の、経営への反映度合いである。まず工場の従業員数の半数を占め、実際の各作業の実務を担う派遣社員の声では、改善策が社員の中で練られ徹底されるという。また派遣会社を通じての労働環境改善策についても、“下から上へ”提案される状況にあるという。次に、代理店の声である。正確には代理店制度を廃止後の、地方の直営店としての位置づけである。それは現場の声を聞く本社の意思の重要性を強く主張する。つまり、会社全体の業績が好調であった際は、受注棟数の増減に関わりなく、本社サイドからの叱咤激励、指示が多くあったという。本社がどういった経営方針を持ち臨むか、それに対し、現場の状況はどうか、そういった末端の状況を把握する動きが極めてきめ細やかであったと、直営店の担当者はいうのである。両者の言葉と、話の本質は、まさに“生き物”であるが故の企業の最も重視しなければならない姿であろうと、ビス締めをしながら痛感したのである。

■経営の要諦

 経営の神様といわれる、松下幸之助は著者『わが経営を語る』の中でこういう言葉を残している。不満は希望につながる、と。不満とはまさに自分自身に何かなすべきことを与えている、という風に考えるというのだ。欠点や改善点は常にある。不満の中にこそ、希望を見出していく姿勢こそ、求められるのではないかということなのだ。同時に、モノづくりであっても、今拡大するIT業界であっても、自然を相手にする一次産業であっても、常に念頭に置くべきは人を中心とした経営を実践しなければ成り立たないということである。組織は人を活かすために存在するものであって、縦社会を実現するためにあるものではないものである。そして、真の改善点のヒントは実際の現場に生きる人間こそが感じられるものであり、同時にお客様にとって良いもの、ニーズが高いものは、お客様の心の内の素直な反応にしか見られないのである。規模の大小を問わず、そのような生の声を拾い出す日々のこまめな経営実践を経てこそ、ようやく真の経営が成り立つのではないかと感じた。ひいては我々が生きる国の政治についても、同様である。まさに政治の経営とは、受益者=国民・世界の人類の声が生かされてこそ、ようやく価値が出るものである。経営者とは名誉職ではない。経営者の人間的な影響は、その構成員に様々な形で及ぶものである。そして、経営者の指標は、資格のように一定水準の経営力を確保した人間がなるとは限らない。だからこそ我々は、真の経営者を待望しているのである。“居は気をうつす”の言葉通り、国民の人間力・気という文化を生み出す、国家という家に住み継ぐ。経営の観点から真の政治のあり方を探求すると共に、その国家とは何かという、次の自らの課題に対して、今後取り組んでいく所存である。

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Yusuke Nakanishi

中西祐介

第28期

中西 祐介

なかにし・ゆうすけ

参議院議員/徳島・高知選挙区/自民党

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