活動報告

Activity Archives

塾主を知る関西研修レポート

「知る」ためには

 松下幸之助塾主を何となく知っている方、それなりに詳しい方、自慢できるほど詳しい方、そして全く知らない方がいる。私は関西研修に行くまでは、残念ながらほとんど知らなかったと痛感している。幾万の人間の感性を通すと松下幸之助塾主は様々な姿になり、様々に言われている情報からつかんだぼんやりとした塾主の姿が浮かび上がり、私は何気なくそれを捉えていたように感じる。真の塾主を「知る」ために、塾主が残したものを加工せず、そのまま自分の心で感じる作業をしてこそ、本物の「知る」という作業が行なえると考える。そうでなければ、「経営の神様」と言われた塾主が、なぜ生涯をかけて松下政経塾やPHP総合研究所を行なわなければいけなかったか?という根本的疑問の答えすら、心の中に響かないものになってしまうからだ。ぼんやりではなく、芯の通ったものをありのままの体験を通し築いていく作業、それが少しでも生み出せるかどうか、それがこの研修の意義であると私は考えていた。

新しい人間観とは

 関西へ到着し最初に訪れたのは、PHP総合研究所であった。ここで、一つの疑問と新たな感性に出会うことになった。

 『人間を考える』という松下幸之助塾主が昭和47年に発刊された本がある。その中に「新しい人間観の提唱」が述べられている。「宇宙とは何か?」「人間とはなにか?」「自分とはなにか?」という身近に感じる疑問、塾主はこの本の中で、それを何度も語りかけてくる。人それぞれによって答えが変わり、読めば読むほど不思議になる本。PHP総合研究所の江口社長の講話の中で「根源」という存在を知り、塾主が考える新しい人間観の深さを教えていただいた。非常に感動的だった。しかし、それ以上にこの新しい人間観の提唱には、伝えたいメッセージが隠されているように感じた。

 松下政経塾の塾是の中に「真に国家と国民を愛し 新しい人間観に基づく 政治・経営の理念を探求し・・・・」という部分がある。この中に登場する新しい人間観とは、すなわち、「新しい人間観の提唱」のことである。そして、塾主が「人間を知ること」と日々言っている。そう考えたとき、この人間観に隠されたメッセージを解く鍵は、今後年月を重ねて人間を知ることによって、はじめて解き明かせるものではないかと考えるに至った。

真々庵の本質とは

 そういったことを考えながら次なる場所、真々庵に移る。私がここで体験したすべての出来事は、非常に不思議でまた様々なことを考えさせられることばかりであった。

 まず真々庵の紹介をしておく。
 元は実業家染谷寛治の別邸で、1500坪の敷地に、池泉廻遊式庭園に書院、茶室が点在していた。それを松下幸之助塾主が入手してすぐ、大改造に着手した。そういった中で、昭和36年に第一期工事が完成して、ここを自ら「真々庵」と命名した。また昭和37年には敷地内に「根源社」を建立し、さらに翌昭和38年には「真々茶室」を建てた。この真々庵を塾主はPHP活動の拠点とし、さらに真々庵にて『人間を考える』などの著書などの多くを手がけた。これが真々庵の紹介である。

 そして、実際にこの真々庵に入った瞬間の感覚は今も忘れることはできない。静かな南禅寺界隈を通って、真々庵の入り口を入り中の庭園を見たとき、そこはまさに別世界が存在する。とても本当の光景を見ているようには思えない。絵とも映像とも思えないそんな不思議な印象を覚えていた。もし、一言で表現するならば私は「宇宙」と呼ぶ。芸術という言葉では納まりきらない自然の美がそこにあった。それは「宇宙」以外の言葉では表せないほど素晴らしい庭園であった。

 ここで少し考えたことがある。『人間を考える』を真々庵で考えていたとすれば、真々庵の中にある本質的なエッセンスは『人間を考える』に必ず含まれているはずだと考えた。その一つは、「宇宙」さらに言えば「宇宙の根源」であると考えられる。しかし、それだけではまだ腑に落ちなかった。もう一つ、重大なことがあるのではないだろうか?そんな時、塾主が生前、この真々庵の根源社の前でワラの円座を敷き、「素直になれますように」と瞑想にふけったという話を聞き、その時、直感で感じた。もう一つは「素直」というエッセンスだということ。この「宇宙」「素直」という2つの要素が、実に深く真々庵の中でテーマとされているのではないかと私は考える。そして、そのうちの「素直」は塾主が生涯をかけたテーマであり、もっと深いつながりがあることを、この後の研修で気づかされた。

茶道への塾主の思い

 PHP総合研究所の中にお茶室がある。真々庵には真々茶室というお茶室がある。塾主生誕の県、和歌山にある和歌山城にも塾主が寄贈された「紅松庵」というお茶室がある。また伊勢神宮にも神宮茶室という塾主が携わった茶室がある。今回、私たちが行く先々に塾主が携わったお茶室があり、そして、そのたびごとに塾主のお茶を大切にし、お茶の世界に熱心になっていた様子を考えることができた。よく調べるとこれ以外にも多数のお茶室に携わっていることがわかった。なぜこれほどまでに塾主は茶道の世界に熱心に入り込んでいったのか?実は、これがこの研修で体感した中では、一番大きな疑問であった。

 その疑問はさまざま考えられるかもしれない。一つは、お茶の精神は日本の伝統精神であり、日本独自の文化を体現したものであるから。または、にじり口の精神は、上下の不平等がなく、みんなが平等で、お茶の間は平和であるから。ほかには、心を静め、自分の心の汚れを落とし、すみきった状態にするためだから。など、さまざまに考えさせられた。

 しかし、その気分がなかなか晴れず、その本質は見つからず関西研修から松下政経塾に戻ってきた。そしてあることに気づいた。松下政経塾内にも一つ「松心庵」という茶室があった。その松心庵の掛け軸には塾主が直筆で「素直」と書いている。塾主が茶道で得ようとした境地、そして求めていた本質は「素直」であると私はその時はじめて考えがまとまった思いであった。茶道だけを学ぶということでもなく、茶道に向かう姿勢、茶道の心得にこそ、「素直」のヒントがあると塾主はおっしゃりたかったのだと考える。素直な心を改めて考えさせられ、その深さを知った。

 リーダーが持つべき「素直な心」、そして、塾主の思い、「新しい人間観」や新たな思い、疑問などがますます多くなったが、一日も早く、日本のため、将来の若い世代のために頑張ろうと思う気持ちは変わらない。むしろ、この研修で、塾主からさらに使命をいただいた心地がする。だからこそこれからも日に新たに自分の道を進んでいこう。

Back

菊池勲の活動報告

Activity Archives

Isao Kikuchi

松下政経塾 本館

第27期

菊池 勲

きくち・いさお

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門