論考

Thesis

なにがなんでもやらねばならぬ

12月1日、湘南は藤沢にベンチャービジネスが産声を上げた。財団法人社会経済生産性本部・起業家育成塾の参加者が実際に設立したベンチャー第一号だ。
 ベンチャーのすそのを広げる思いを込めて、全国でベンチャー育成講座が展開されている。

 通産省外郭団体・VEC「全国縦断アントレプレナーセミナー」、東京商工会議所「独立開業セミナー」、山形県「やまがた起業家養成塾」、慶應義塾大学大学院「アントルプレナー・スクール」、大前研一氏主催「アタッカーズ・スクール」、グロービス「ベンチャー戦略コース」等々。

 講座の方法は2つに大別される。一つが経営戦略、マーケティング、資金調達、人材交流などの広い意味での経営手法を学ぶコース。公共団体・大学に多い。
 もう一つが参加者に事業計画書を提出させて、議論を通じて具体的・明確に精査していく。そして仮に成功確率が高い計画書に昇華した場合には投資もする。大体、民間で開催されている参加費が無料もしくは格安なケースがそうだ。

 我々は前者の手法でアプローチしている。なぜか。経営戦略、マーケティング等の経営理論を修得し、その上でビジネスの「コンセプト」について議論を積み重ねて、参加者の心の中で深く「コンセプト」を熟成させなければ、時代を革新するほどの新しい価値となるビッグ・ビジネスは誕生しないと考えたからだ。

 単なる経営理論の「スクール」に終らせないための仕組みを考えて、起業家育成塾のプログラムは編成された。
 コーディネーターと参加者の距離を縮めて、濃密な議論を展開させるための参加者少数主義。一日も早く互いの問題意識の交換・交流をするために開講直後の合宿実施。そして「起業シミュレーション」だ。

 「起業シミュレーション」とは何か。起業家育成塾のコンセプトは「Learningby doing」、つまり「自分で動き、痛みを感じることで学ぶ」「真の教師は市場」である。政経塾の言葉で言えば「自修自得」「現地現場」。そのために事業を単に事業計画書の段階で終わらせるのではなく、自分達で投資し、現実に市場で試みるのだ。

 だが、簡単に実験とはいかない。例えばお客様に「私達は自分達のビジネス計画が正しいかどうか試しています。うまくいかなければやめます。しかし、私達の商品は買って下さい」とは申し上げられない。また、始めから先のスタンスでは自ずとビジネスの底が知れてしまう。

 そこで我々のビジネスをシミュレーション期間後、自分のビジネスとして引継、成功させる覚悟の参加者が中心となって、他のメンバーがサポートする体制となった。
 つまり、「起業シミュレーション」ではなく「起業」させる思いで現在、私を含めて参加者、コーディネーター、事務局は携わっている。そして12月1日、店はオープンした。

 まだ日本には、一から起業まで育成している講座は他に存在しない。それどころか実際に起業しているケースすら希である。なぜなら現実に起業するリスクに対する不安感が非常に根強いからだ。また、自分達の回りに余り成功者が見あたらないことがそれに一層拍車を駆けている。

 誰かが成功するのを待っている。誰かが成功者となり後に続く者達の勇気とならなければならないのだ。
 また彼がベンチャー育成事業から飛翔する事は、多くの人の心の奥底に潜む「ベンチャーは育成できるか」の疑念を払拭するだろう。
 また「ベンチャーは育てられる」と証明できれば、自分でビジネスを起こして自己実現を果たしたい、社会に貢献したいと願いつつも、その為の方法論に悩む者達にとっての希望の光となるだろうと私は信じる。

 彼等の「創造性」が生かせる仕組みをたとえ小さくても作り出せば、いずれ仕組みは広がり、やがて日本社会のサイズとなる時がやって来よう。
 私はその実現のための障害を、一つ一つできるところから解決していく。

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豊島成彦の論考

Thesis

Naruhiko Toyoshima

豊島成彦

第16期

豊島 成彦

とよしま・なるひこ

公認会計士・税理士

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リーダーのための公会計

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