－はじめに－

　2004年11月14日から16日の3日間、京都・裏千家にて研修をさせて頂いた。まずは、研修にあたりご高話いただきました家元、ご指導頂きました中島宗基業躰・中村宗石業躰・奈良宗久業躰、お世話になりました財団法人今日庵山田行圓秘書次長・下川理様に感謝申し上げます。また、4月の入塾以来、松下政経塾内の松心庵にて、茶道を1から熱心にご指導してくださいました紺谷先生・加藤先生にお礼申し上げます。ありがとうございました。皆さまの広い心とお心づかいによって、まだ歩み始めたばかりの私たちにこのような研修をさせて頂く機会を与えてくださったことに感謝しております。

　以下、研修をさせて頂き、感じましたこと2点を述べたいと思います。

－心を表す今日庵の時と空間－

　和敬清寂を「和敬」とは、人間・自然など万物全てに対する思いやりや敬いによる調和や平和、「清寂」とは、清らかで澄んだ心を保ち、何物にも動じないこころのゆとりをもつことである。茶室に集い時間を共にする亭主と客人、一椀の茶、自らのこころ、全てが融合する。自然を感じ、空気を読み、いまここにある時を楽しむ。同じ時に生きて互いに尊敬しあいお茶を頂けることに感謝する。茶室もまた、最高の「時」を作り、共有するために集うためのものであり、自らを省みるための場所でもあると感じた。

　今日庵には、最高の時（人と人との関係）を作り出しここに集った人々の歴史と、最高の時を作り出すための数々の配慮が詰まっている。ちょうど平伏して謙虚な気持ちでにじり口から茶室へ入った瞬間、二畳ないし四畳半という狭い空間さえも、低い視点から見上げることによってその空間は非常に広く感じる。長い歴史の中で小さな自分の存在を感じ、狭い空間の中で、無限に広がる宇宙を感じる。今日庵には、何か人間の真理、美を宇宙的な無意識の世界で感じることができる空間があり、ここに集った人々の思いがあるように感じた。

―人間を学ぶ～（1）お家元（2）業躰先生から～－

（1）お家元がお時間を下さり、私たち政経塾生ひとりひとりにお言葉をかけて頂きましたこと大変ありがたく存じます。

　ご高話頂いた中で2点、特に印象に残ったことを記したい。

　第一に、お家元のお仕事は、マンションの管理人のようなものであり、裏千家に集まる門下の方たちがいかに住みやすく楽しく過ごしていけるか制度や住まいを整えるようなものである。

　第二に、家元に（たまたま）生まれたという天命・使命を全うする、ということである。16代続いている裏千家のいわゆる「リーダー」のあり方である。

　いままでのリーダー像は、人々に自らの考えを提示し、強いカリスマ性を持ち、組織を牽引していく役割が求められたのかもしれない。しかしながら、現代においては、価値が多様化し、人々が求める幸福のかたちはひとつではなくなっている。お家元のあり方や役割もこのような時代の流れの中で、変わってきているのではないか、そして現在のお家元も歴史を継承しながら、新しい「家元のあり方」を確立していらっしゃるのではないかと思う。

　政経塾生も人類の繁栄と世界の平和を目指して、各分野各地域でのリーダーを目指している。家元のお言葉や、何事も受容してしまうような深く静かなたたずまいから学ぶところは大きい。

（2）今回の研修で、私達は3人の業躰先生にお目にかかり、ご指導頂いた。

　大変驚いたことは、先生方が年齢、経歴、茶道経験年数が異なるのは勿論のこと、おひとりおひとりが非常に個性的であることである。ある業躰先生は、非常に親しみやすい雰囲気で茶の歴史を巧みなお話でご指導くださった。ある業躰先生は、その美しいたたずまいが同じ茶室に集う人々を澄んで清々しい気持ちにさせることを、身をもって教えてくださった。またある業躰先生は、人間の本質やあり方を深い人間観から茶道と共にご指導くださった。同じ裏千家の業躰というお立場ながら、それぞれ多彩な才能をお持ちで人間力のある個を確立していらっしゃる。お稽古は、茶の道を学ぶだけではなく、人間の道やあり方を学ぶものであると感じた。先生方のように魅力ある人間になるよう、少しでも近づきたい。

－おわりに－

　茶のこころは、「常に謙虚であり、自らを省みて、他の方々に思いやりと配慮をもって礼をつくす」ことではないか。このような時を日々得ることによって、人間は人間になりうるのではないかと思う。長い歴史の上の自分、世界と自分との関係、宇宙に広がる世界や自然との一体感を持つこと。自分を知り、相手を知ること。茶道とは、こんなに奥が深いものであるのか。無限に広がる宇宙のようである。

　これからも、裏千家茶道とのご縁を大切に、今後は地域のお教室を訪ねてお稽古をさせて頂くなどして、茶の道を歩みながら人間を探求していきたいと決意している。

以　上