論考

Thesis

月例報告

1.初めに

 前回の月例報告で高齢者福祉政策を考える際、高齢者の「社会参加」をベースにした政 策が大切だと主張した。さらにその具体策の一つとして、高齢者の雇用政策を通して、高 齢者自身の社会参加を促進していき、そして生き甲斐の創出に結びつけていく視点が必要 ではないかとも述べた。
 今月も先月に引き続き、もう一つの具体策を論じてもみたい。

2.もう一つの高齢者の社会参加政策

 それは、学校教育カリキュラムの一部を地域に開放・委託することである。もっと詳し く述べると、カリキュラムの一つである「クラブ活動」を教師に代わって、学区内に住ん でいる高齢者の方々に担当してもらうことである。
 教師は教科指導、教科研究、学級経営、さらにはPTA活動にクラブ活動、中学校とな れば部活指導とその業務が多岐にわたる。しかも、今、教育現場で一番問題になっている 「不登校」や「いじめ」の問題にも対応もしていかなければならない。加えて生徒との信 頼関係の構築もしていかなければならない。
 これらすべてを教師が、完全にこなしていくことが本当に可能なのかどうかを考えた場 合、不可能に近いのではないかと思う。つまり、現場の教師だけの力に頼ったのでは無理 があると言えるのではないか。
 「クラブ活動」の時間を学区内地域に住む「高齢者」の方々に担当してもらうことは、 教師の業務の一部軽減に繋がることになる。教師はその余った時間を、例えば教科研究に充てたり、あるいは不登校児童の家庭を訪問したりするなどに充てることが出来る。
 少なくとも業務を軽減することは、業務を遂行する上で多少の”ゆとり”をもたらすこ とが考えられ、ひいては教育の効果が期待できるのではないか。

 一方、「高齢者」にとってはどのような効果が期待できるか。
 すべての「高齢者」が働きたいという思いを持っているとは到底考えられない。しかし 前回述べた「人間は年齢に関係なく社会と何らかの形で関わっていきたいという思い(社 会参加欲求)を持ち合わせているのではないか」とするならば、高齢者が「クラブ活動」 を通して、これまで培ってきた自分の能力や技術、経験などを発揮する場所が出来れば、 これは一つの社会参加と言えるのではないか。そのなかで、生き甲斐や生きる喜びを感じ ることも十分あり得るのではないだろうか。

 具体的な内容としては、小学校の「クラブ活動」のみを学区内に住む「高齢者」に委託 して指導してもらう。なぜ小学校かと言うと、中学生になると思春期の時期になるため、 人間関係を築くのが難しくなるからである。その点、小学生の方が中学生に比べ、あまり 抵抗なく人を受け入れやすいため、スムーズに人間関係を築きやすいのではないかと考え るからである。

  「クラブ活動」の時間帯は、毎週金曜日の最終時間目に実施する。これは、次に控えて いる教科があると、生徒の方は気になってソワソワしたりして全神経を集中して取り組む こと出来なくなるのを防ぐためと、仮に時間を超過しても次の時間がなければ特に支障を 来さないためである。

 「クラブ活動」指導を希望する高齢者は、教育委員会もしくは学校に届け出をする。審 査基準は特に設けない。仮にある地域(学区)で100人の高齢者が、届け出をしたと想 定した場合、少なくとも現在のクラブ活動よりも多くの活動科目が生まれるのではないか。またそれは、生徒側にとっては、たくさん活動科目があった方が喜ばしいのではないか 。ただし、高齢者の方が担当した場合、例えば詩吟や俳句、書道といった体を使わない文 化系クラブがほとんどになってしまうことを念頭に置く必要がある。

 高齢者が教師に代わってクラブ活動を担当するのであるから、1回当たりにするか、1 カ月当たりにするかは別にして、当然きちんと報酬を払うようにする。
 そうすることは、高齢者の活動参加を刺激することにもなる。また、「どこにも行き場 が少ない高齢者が救いの場を病院へ求め、病院自体がサロン代わりに使われいる現状があ る」とある大学教授が指摘していたが、これも少しは解消されるのではないか。

 さらに、高齢者がクラブ活動を通して、生活にメリハリが出てくれば、それは病気の予 防にもなり健康の増進にも繋がる。この取り組みが浸透したならば、高齢化社会の懸念材 料の一つである老人医療費の削減に多少とも貢献出来ると思う。

 戦後、家族の形態が三世代同居から二世代同居、つまり核家族化に進行して定着した今 日ほど、子どもと親の交流と併せて、子どもと祖父母の交流が必要なのではないだろうか 。つまり異世代の交流は益々必要になってくるのではないか。
 「核家族化に代表される親子関係や家族関係の希薄さも、不登校やいじめ問題一つの要 因にもなっている」と関係者は指摘しているが、学校教育の場を使って異世代の交流を図 ることは、人間関係の希薄さの是正にも有効性があると思う。

 「クラブ活動」が、子どもにとっては、高齢者が親とはひと味もふた味も違った包容力 のある接し方になって、親には言えないことを話せたり、甘えられたりする場になり、片 や高齢者にとっては、子どもから自分たちとは違う新鮮な感性や行動に刺激され、生きる 張り合いを感じたり、教える喜びの場になったりするのではないか。

 高齢者の社会参加政策として、雇用政策と併せて学校のクラブ活動の活用を考えてみてはどうであろうか。
 要は本気になって取り組むかどうかの姿勢が大切だと思う。その気になれば、私が提言 したことはすぐ出来ると思う。
 塾主は、「今やらなければ、いつできる。わしがやらねば、だれがやる」と言っている 。

Back

草間吉夫の論考

Thesis

Yoshio Kusama

草間吉夫

第16期

草間 吉夫

くさま・よしお

東北福祉大学 特任教授

Mission

福祉。専門は児童福祉。

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門