論考

Thesis

21世紀に向けた食糧安全保障

1.21世紀に向けた食糧安全保障

 世界の穀物市場に、異変が起こり始めている。
 米農務省によると、95年から96年度にかけての世界の穀物消費量は、17億4千5 百万トンで、生産量(16億7千9百万トン)を3年連続上回っている。世界の穀物在庫 は激減の一途をたどり、年間需要に対する在庫の割合は13.1%で(48日分)食糧危機といわれた70年代前半を下回っている。

 その結果、世界の穀物相場を決めるシカゴ市場では、ドウモロコシや小麦が高騰してい る。現時点でさえ穀物需要に生産が追い付かない上、今後は地球的規模での環境悪化、  中国、アジアなどの需要増大により、21世紀は「慢性的な食糧不足」が続くものと思われる。最悪の場合は、「飢餓の世紀」に突入する可能性も決して否定は出来ない。

 今年11月に開催される「食糧サミット」に向けた議論の中では、「食糧の安定的供給 のためには自由貿易を徹底させ、障壁を撤廃すべきだ」という議論と、「いや、各国はも っと自給に努力すべきだ」という議論が大きく対立している。前者は輸出国が中心となり 、後者はアジア諸国が主張しているものである。

 最近話題のラビ、バトラ氏は「自由貿易は環境を破壊する。地球環境を殺してしまう」 との警告を発している。貿易の量が増えると、輸送の量が増える。世界中でエネルギーの 使用が増え、汚染が増えるというのである。

 自由貿易は、最大の経済利益をもたらすものとして推進されてきた訳であるが、194 8年のガット設立当時の世界と、WTOが発足した1995年の世界の事情は、大きく違 ってきている。

 ガットの分析によると、自由貿易の推進によって途上国の1人当たりの国民総生産が5 000ドルを超えると、環境に有害なガス排出量が所得水準の増加に反比例して減少する という事である。しかしながら、世界人口の8割を占める途上国と旧ソ連、東欧は1人当 たりの国民総生産が90~3000ドル以下であり、これらの地域が5000ドルを越す まで経済成長することは、地球の環境を破壊しつくす事にもなる。

 自由貿易体制と、食糧、人口、環境保全問題とのジレンマをどう克服していくのか。
 日本も関税化とミニマムアクセスによって、コメの貿易自由化が義務づけられるように なった。国産米よりも安い価格の米や、中国.フィリピンからの野菜などが、大量に日本の市場に入っている。その中で、水資源の再生循環機能を果たし、生態系.環境保全に重要な役割を果たしている日本の水田を守りながら、エコノミーとエコロジーの調和をはか っていく事が重要である。さらには人口増加と人々の食生活の変化の著しいアジアの食糧安全保障を考えた上で、日本の「食糧戦略」を考えなければならない。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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