論考

Thesis

我々にとってオキナワとは何か

「沖縄は日本に併合されるでは琉球という小さな王国で、古くから武器のない“守礼の邦 ”としてしられていた。」

 7月10日最高裁大法廷で結審した沖縄米軍基地「代理署名訴訟」の上告審で自ら意見陳 述に立った大田昌秀沖縄県知事は、歴史にまで遡り沖縄の受けてきた苦しみを15人の最 高裁判事たちに切々と訴えた。
 首相が知事を訴えるという今回の「沖縄・代理署名訴訟」の発端は、沖縄県内の一部の地 主が米軍基地が強制使用に必要な土地・物件調書への署名を拒否したことであった。続いてこれら地主に代わりこれまで署名してきた那覇市、沖縄市、読谷村が35件分の代理署 名を拒否した。

 地方自治法は自治体が管理する国の事務(機関委任事務)について知事ら が職務執行を怠った場合に担当の大臣が執行を勧告、命令し、拒否された時に、裁判所に 提訴して司法判断を仰ぐことができると規定されている。今回の裁判は大田知事が那覇、沖縄、読谷など市町村の代わりに代理署名を拒否し、機関委任事務の執行を拒んだため昨 年12月に村山首相(当時)が国に提訴したものである。

 裁判は、基地に悩む現状を人権と憲法の問題として訴える沖縄県側と職務執行命令の手続 き上の適否だけが裁判所の審査の対象であると主張する国側とは最初から議論が全くかみ 合っていない。
 「基地の中に沖縄がある。」大田知事が公判の中でそう表現した沖縄県民の基地公害への 不満は、昨年の米軍将兵による少女暴行事件を契機に爆発した。

 沖縄は太平洋戦争末期の激戦で人口の3分の1を失ったが、戦後も1972年までの27 年間米軍の統治を受け続けた。復帰した現在でも日本の国土の0.6%にすぎない沖縄県に、在日米軍施設の約75%が集中し、この狭い県土に於ける過密さから基地に起因する事件・事故、基地公害に県民は苦しんでいる。

 今回訪れた普天間基地などの近くにも住宅地が広がり、そばには小学校まであるが、一日 中米軍戦闘機の離着陸とその轟音が絶えない異常な環境の中で勉強する子供たちを見てい ると、「日米安保は日本全体の問題なのに、何故沖縄だけが負担を負わなければいけない のか。」という沖縄県民の声無き声が聞こえてくるようである。

 今回の沖縄の基地問題は私たちに多くの問題を提議していると那覇市議会議員の屋良栄作 氏(27)は言う。
 「基地問題は公害に苦しむ住民の問題という捉え方ならば、それは地方自治の問題であり 、人権侵害という観点ではあきらかに憲法問題である。」

 また、基地問題に取り組んできた新進党沖縄県連の副会長・白保第一氏はこれを文化の問 題ととらえる。
 「内地人(沖縄以外の日本人のこと)にとって米軍基地は安全保障上の重要拠点という意 外の意味を持たないが、沖縄は中山王朝以来、武器の携帯を禁止してきたという「非武の 文化」が県民の間に根強く残っている。だから精神的アレルギーも基地に対して他県より もあるのだ。」

 誤解してはいけないのは、沖縄の人々は決して日米安保体制そのものに反対しているわけ ではないとゆうことである。
 彼等が代理署名や、米兵の暴行事件に対する講義集会や、地位協定見直しを叫ぶ、その講 義の声の行間には、「オキナワを忘れるな」「オキナワだけに苦しみを押し付けるな」と いう叫びが存在するのである。

 首都圏に住む私たちは、あたかも水や空気の様に感じる国家の安全という、いわば日本全 体の利益をオキナワの苦悩の上に享受していないだろうか。

 それは、その根っこの部分において、原発という危険の上に電力を供給させられつづける 新潟県巻町の住民もいだいているであろう気持ちと共通するのではないだろうか。
 その疑問の向こうに「国」や「都市」の犠牲になりつづける「地方」の姿が透けて見える 。

 普天間基地のとなりの小学校で育った子供たちは、どの子も比較的に声が大きく、「半音 」が聞き分けられなくなっているという調査結果がある。
 一日の大半、少年時代の大半を戦闘機の爆音の中で生きる。これも日本の「地方」の姿で ある。

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平島廣志の論考

Thesis

Koji Hirashima

松下政経塾 本館

第15期

平島 廣志

ひらしま・こうじ

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