論考

Thesis

北朝鮮

北朝鮮を間近に臨む中国辺境の都市 丹東を訪問した。中国・遼寧省と北朝鮮・平安北道を分ける鴨緑江の河口に位置する。丹東は中国で最大の辺境都市で、総面積1.49万平方キロ、全市人口234.9万、その内市街地区人口は65万人を数える。丹東は対岸の北朝鮮の都市 新義州と共に、中国と北朝鮮の貿易の中継地点として発展した都市である。

 かつて日本統治時代に日本が造った鴨緑江を跨ぐ橋が、現在も重要な鉄橋として中朝間の鉄道交通を支えている。丹東の産業は黄海バス車両や洗濯機、テレビを中心とした機械工業が盛んである。かつては北朝鮮産の鉄鋼を載せた汽車がこの鉄橋を渡って丹東の工場に来た時代もあったという。しかし、現在はこの両国の辺境貿易は在北朝鮮の華僑が丹東にある華僑商店(北朝鮮への輸出を専門とした卸業者)で衣服、雑貨を仕入れて、北朝鮮に持ち込むぐらいだという。実際、国境を渡る列車も、平日で1~2便、日曜で2~3便と以前にくらべ相当少なくなったという。北朝鮮からの輸入はほとんど無いという。確かに丹東市内で北朝鮮産のものは1つたりとも目にすることはできなかった(逆に韓国産の衣服が豊富に出回っていた)。

 昨年の夏(北朝鮮で起こった洪水)以降、一般の中国人ですら北朝鮮へ入国することが困難になった(北京では、6月のツアーからストップしている)。専ら、北朝鮮の食糧事情が悪いため、中国政府が中国人の北朝鮮への入国を許可していないことが原因のようである。丹東にある中国国際旅行社でも6月以降の北朝鮮ツアーを取り止めている。そのためか、北朝鮮を臨む丹東の鴨緑江公園には、北朝鮮を一目見ようという中国人観光客が、シーズンでもない(この季節の丹東は日中でもマイナス5度)のに、多く訪れていた。河幅は約3~4百メートル。双眼鏡を使えば、楽に対岸の北朝鮮の様子を知ることができる。私は50元(約7百円)払って、船をチャーターし、対岸の北朝鮮に近付いてみた。地元の中国人に言わせれば、対岸に手が届くくらい接近しても問題はないと言うものの、実際、拳銃を肩に担いだ北朝鮮の国境警備兵の表情が見えるくらいのところに近付いた時には、さすがに背中がぞっとした。兵隊の他、幾人かの北朝鮮の船荷労働者が船の上ないし陸上で働いていた。外見上は、中国の農村の人と身なりは同じであった。極端に飢餓状況にある風には感じられなかった。しかし、対岸の丹東とくらべ極端に人気が無かった。船荷も5、6個の牧草を固めたブロック以外には無かった。北朝鮮側の橋のたもとにある遊園地には1っ子1人いなく、観覧車も止まっていた。

 さて一方、中国側の丹東は国務院から沿海経済開放都市に指定され、北朝鮮を臨む岸辺付近を商貿観光開発区として開発を進めていた。開発が始まったばかりで、まだ建設途中だったが、中国の企業、韓国の企業が中心となって投資を進めていた。この丹東はぼっ海海峡に面しており、日本企業の投資が進む大連から約200キロの距離にある。また、中国第4の都市沈陽からは飛行機で約30分、列車で約4時間の距離、また海峡を挟んで青島、威海、煙台など山東省の開放都市と面している。つまり、環ぼっ海経済圏の一翼を担う位置に位置している。今後、発展が大いに期待される地域である。こうした丹東に対して、僅かに2本の煙突から煙を吐き出す様子の対岸の北朝鮮・新義州の元気のなさが印象的だった。

 北朝鮮政務院決定第74号によれば、丹東とは逆の日本海側の中国・吉林省に面した地域、羅津・先鋒・清津などを自由経済貿易地帯(EFTZ)として指定している。国連開発計画(UNDP)が豆満江(吉林省と北朝鮮の国境を流れる河)流域開発プロジェクトを正式に決定したのは、1991年10月、ピョンヤン会議においてであったが、93年にはいってこの事業をEFTZにリンクさせて推進しつつ、同プロジェクトに積極的にかかわっている(「朝鮮研究」94年11月号)そうだ。このプロジェクトは中国側からすれば、特に吉林省とすれば外海にでる唯一の場所なので、その意気込みは省を挙げてのものがある。しかし、ロシアの動きがあまりにも鈍いという風に伝えられており、全体としてあまり進んでいない。

 今回、訪問した丹東に面した北朝鮮の新義州は、丹東とともに環ぼっ海経済圏に位置しており、成長著しい中国東北華北沿岸都市と近い距離にある。また、北朝鮮の首都ピョンヤンとも列車で3時間の距離である(北朝鮮にとってはこの点が最もネックなのかもしれないが)。すでに港湾や空港、鉄道も整備されている。北朝鮮は、改革開放政策にまだ不慣れな吉林省やロシアよりも、大連の開発などですでに改革開放を経験している遼寧省と組んでこの新義州を自由経済貿易地帯として開発してみてはどうだろうか。

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高橋幸也の論考

Thesis

Koya Takahashi

高橋幸也

第15期

高橋 幸也

たかはし・こうや

Executive Vice President, Panasonic Energy of North America

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企業経営、管理会計、ファイナンス、国際経済

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