論考

Thesis

「循環型社会」の虚妄

21世紀は「環境の世紀」といわれる。「大量生産・大量消費」に魅了された人類が地球上の各地に公害、環境破壊を引き起こし、それが地球環境全体を脅かす事態となったからである。そこで、出てきたのが「循環型社会」である。果たして「循環型社会」は上手く機能しているのか。

「循環型社会」の欺まん

 「成長のための成長は、ガン細胞の増殖と何ら変わるところがない」。これは、地球環境問題の行動派研究者として名高いレスター・ブラウンの言葉である。実際、「経済成長=幸福」という図式がこのまま続けば、地球環境が破滅の道を辿るのは避けられないだろう。だからといって「経済成長=ゼロ」を良しとすることもできない。リサイクルを中心とする「循環型社会」はこのような状況の中から出てきた。現代社会は、石油や鉱物などの有限な資源を大量に、しかも一方的に使用し、大量の廃棄物や二酸化炭素を排出して環境を悪化させている。こうした事態を憂い、少しでも物質を循環させようと始まったのが「リサイクル」である。そうした思想は日本へも波及し、昨年5月にこの概念を盛り込んだ「循環型社会形成推進基本法」が成立した。今年4月には家電リサイクル法も施行された。こうした流れをもとに日本各地にリサイクル・省エネルギー等のNPOが生まれ、市民が高い意識をもって動き始めている。実に素晴らしいことである。しかし、法案成立に至る日本政府の動きは、「手段」としての「リサイクル」の適切さを十分に議論せず、「循環型社会の構築」へと拙速に突き進んだ観が否めない。
 図1を見てほしい。これは、ペットボトルを1回だけ使い焼却した場合と、一度リサイクルに出した場合の過程を表したものである。リサイクルされたボトルは1次分別され、リサイクル工場に運ばれるが、この間に約26円かかる。ボトルを使いきりにした場合の3倍以上である。リサイクルがどの程度環境に影響を与えるのかを示す指標に「リサイクル増幅係数」というものがあるが、リサイクルしたものが新しいものと同じであれば数値は100である。ところがペットボトルの場合、増幅係数は370になる。これは、芝浦工業大学の武田邦彦教授(注1)の出した数値であるが、別な計算では、コスト55円、増幅係数760(『ゴミとリサイクル』寄本勝見著 岩波新書)となっている。いずれにせよ、リサイクルはしない場合の何倍も環境に負荷をかけていることになる。これでは努力して環境破壊しているようなものである。

▲図1「リサイクルしてはいけない」武田邦彦著/青春出版社:出典
 
 このような現象が起きた背景にはある事情が存在する。政府は対策を立てるにあたり、エネルギーや環境の分野から専門家を集めて委員会を設置し、家電リサイクル法を成立させた。しかし、リサイクルは本来、資源材料工学、分離工学等の「工学」に属すものである。当然この分野の専門家の意見を聞くべきである。ところが彼らの真摯な議論を抜きに事が進められてきたため、本来あるべき循環型社会の概念と大きくかけ離れたものができあがった。
 こうした「リサイクル」の実態を知るにおよび、エネルギー政策を主要研究テーマとしてきた私は、先の武田教授とその研究室の協力の下、「真の循環型社会」のあり方を探究している。そこで明らかになった事実を、教授の研究成果をまじえ報告する。

「リサイクル」の矛盾点

 まず、今日のリサイクル概念にある矛盾点をいくつか挙げる。

1.リサイクルの増幅矛盾
 例えば、ペットボトルをリサイクルする場合、ボトルの収集・選別、ラベルの撤去、洗浄、その後は新しいボトルを製造するときとほぼ同じ工程が必要となる(現在、衛生上の理由から再生品はペットボトルとしては使用されない)。通常、新品のペットボトルが我々の手元に届くまでに必要な石油の量は約40グラムである。これが再生品になると最も効率的にリサイクルできたとして、150グラム以上要する。4倍近い石油が必要である。このようなリサイクルの増幅矛盾が起こるのは、主として「薄く広がったものは資源として集めることはできない」という分離工学上の原理による。

2.リサイクルの持続性矛盾
 我々が使う資源は、森林や水力発電等の太陽エネルギーで日々作られる「再生型資源」と、石油、石炭等の限りがある「遺産型資源」の二つに大別できる。この点から見ると、例えば紙のリサイクルはおかしなことになる。紙は「再生型資源」である木や植物から作られるが、使い終わった紙をリサイクルするときに動力源として石油のような「遺産型資源」を使う。つまり、紙のリサイクルは「持続性のある資源を繰り返し使うために、持続性のない資源を消費する」という矛盾した行為なのである。しかも、紙の原材料となる森林はわずか(ここ15年間で3%)ではあるが増えている(紙を消費するのはほとんどが先進国で、その原材料は先進国の森林で十分に賄えている。その反面、木を燃料にしたり、焼き畑農業をする途上国では、森林は減少している)。

3.毒物が混入する矛盾
 現在のリサイクルには、物の中の混合物を取り除くシステムがない。その意味で自然の循環系と違い、「浄化系に欠けたリサイクル」といえる。例えば、ガラス類は砕かれて「カレット」と呼ばれる小さなガラスのかけらとなって再利用されるが、ガラスは飲料用、ブラウン管、窓ガラス、ステンドグラス、蛍光灯、表示板、センサーと様々な種類がある。中には有毒物質を含むものもある。これらを全て分別してリサイクルするのは不可能であり、またリサイクル深度(=製品がどの程度リサイクルされるかの割合)が深くなると、有害物質が紛れ込む危険が高くなる。同様に、「くず鉄」のリサイクルでも最近スクラップ鉄の中に絶対に入ってはいけない銅が混入し、鉄のリサイクルを困難にしている。また、マンガン、水銀等の毒性の高いものが含まれている電池等もゴミの中へ混じってきている。実際、東京都の可燃ゴミの焼却灰を分析すると、鉛やカドニウム、ヒ素など、強い毒性を持つ元素がかなり抽出される。

4.リサイクルの劣化矛盾
 「使用したものは劣化する」という材料工学の原理はおよそどの材料にも当てはまる「真理」である。それゆえ「もったいないから、また同じ用途の新製品に使用しよう」ということはほとんど期待できない。プラスチックやゴムは劣化しやすくリサイクルに適さない。劣化しにくいといわれる金属も使用する間に「疲労」して変質する。事実、過去の多くの飛行機事故は機体に使われた金属材料の疲労が原因であると考えられている。一般に金属が使用されるのは、その強度を上げるためであるから、そこへ少しでも疲労したものを持ってくるのは目的に反している。

5.リサイクルの需給矛盾
 そこで、劣化した材料を再使用する際には、より下位の用途に用いることになる。例えばテレビの材料を公園のベンチに利用したり、冷蔵庫の材料をバケツにしたりなどである。しかし、このような利用の仕方では日本中の公園がベンチで埋まってしまい、需給バランスに問題が生じる。建築物廃材は最たるもので、これを全てリサイクルしようとすれば、10年で日本の平野は埋まってしまう計算となる。

6.国際分業を否定する矛盾
 廃棄物による環境防止を阻止するために1989年UNEP(国連環境計画)によってバーゼル条約が採択された。これは簡単に言えば、有毒物を含むゴミを国外へ出すことを禁じたものである。テレビのブラウン管やハンダの鉛、電子機器表示用のヒ素などが該当する。そのため、パソコンのように有毒物質を含む製品は、中古品として使う目的であっても国外に出すことはできない。しかし、国内でリサイクルしようにも国内では部品の組み立てしかやっていないので、引き取り手がない。現在、世界各国はその特徴に則って国際分業で経済を成り立たせている。その中で、各国が自国内で使用する全ての製品の工場を国内に持たなければならないというのは不可能である。

7.環境主義の両価性矛盾
 増産、販売の一方的増大を続けながら名刺に再生紙を使い「わが社は環境に配慮しています」というのは、甘いものを食べながらダイエットに精を出すのと同じで、正に「両価性」の矛盾に陥っている。

現行の「リサイクル」の矛盾点を解消するための対策

以上、リサイクルの抱える矛盾点を指摘した。では一体どうすれば良いのか。次の対策案を提案したい。

1.ゴミを一括焼却し、人工鉱山を造る
 一般にプラスチックは燃やすとダイオキシンが出るといわれる。しかし、ダイオキシンが発生するのは「燃やすものの量が多く冷えていて、しかも火の勢いが小さい」場合で、純酸素の中で2000℃で焼却すればダイオキシンは出ないと報告されている。これは非常に優れた方法である。紙やプラスチック、ゴムなどの工学上リサイクルに適さない物質は一括焼却して電力を得るのが最も良い。
 それでは金属やガラスはどうであろうか。結論をいえば、これもゴミとして他の物と一緒に燃やし、その熱から電力を取り出して後、灰として取り出すのが最も良い(特に、分別をせずその他のゴミと一括焼却すれば、金属は原理的に100%回収できる)。なぜなら、第一に分別をすると循環量が膨大になり、リサイクルのために益々エネルギーを消費するからである。第二に我々が使用している工業製品の多くはもはや金属やガラスだけでできているわけではなく、ほとんどのものがプラスチック等の可燃物との混合物だからである。このような物をいちいち分別するのはほぼ不可能である。金属とガラスの循環には、廃棄物を分別せず全て焼却し、その熱で電力を作り、残りの灰を「人工鉱山」として国内に貯蔵する方法が現時点で考えられる最良の方法である。こうしておけば将来の資源の枯渇にも備えることができる。
 このようにいうと、「焼却すれば二酸化炭素が出るからこそリサイクルがあるのではないか」という人がいる。これはリサイクルを単なる物資に対する作用という面からしかみておらず、一方焼却のほうは物質とエネルギーの両方から見ているという立場の違いによる。前述した通り、リサイクル率を上げようとすればするほど多大なエネルギーを消費する。例えば、ペットボトルのリサイクル率が30%だとする。これは物質だけのリサイクル率に過ぎない。これを「物質とエネルギー」の合計で見ると、リサイクルする毎に3.7倍のエネルギーや物質を使うので、リサイクル率はマイナス81%となる。リサイクルすればするほど物質が消耗し、ゴミが増えていくのである。

2.設計寿命が長いものを使用する
 寿命の長い丈夫な設計の製品を長期間使用すれば、それだけ資源に余裕が生まれることになる。するとそれでは企業が困るではないかという人がいる。それはこれまでの経済成長の概念を持つことからくる誤りである。21世紀は間違いなく「物質が貴重な世紀」となる。できるだけ少ない物で生活できる国が高い国際競争力を持つ。もう「大量生産・大量消費」のパラダイムから抜け出すべきである。

3.日本の気候風土の利用
 およそ日本ほど生活するに適した気候の国も珍しい。もともと日本の気候では厳冬期を除いて冷暖房は必要ない。日本にいて、何も厳しい自然に抗すべく考案された欧州風の住宅を建てる必要はない。これからは、リサイクルと同じくらい熱心に「自然の気候をそのまま利用する環境作り」に精を出すべきであろう。
 最後に、循環型社会の模範といわれる西ヨーロッパの現状について触れておきたい。ヨーロッパが理想的なリサイクル社会だというのは誤りである。リサイクル率が高いのはドイツの一部にすぎない。例えば、西ヨーロッパ全体で使用されるプラスチック2400万トンのうち、リサイクルされるのはわずか数%。50%弱が集中埋め立て、30%が分散埋め立て、20%が焼却されている。その意味で典型的なワン・ウェイ社会である。欧州の一部を見て盲目的に追随するのはやめたい。
 1997年危機に見舞われたアジア経済は、マクロ指標でみるとすでに危機以前の最高水準を上回った。これからはこういったアジア諸国を含めた数十億の人々がグローバル化の流れに組み込まれ、経済成長を遂げんといっせいに動き出すことになるだろう。そのとき何が起こるか、容易に想像できる。地球の資源のキャパシティーをはるかに超えた人口と、それらの人々による生産の拡大、エネルギーの消費………。これを解決するには従来の「大量生産・大量消費」という経済成長の概念そのものを改める外にない。日本は卓越した科学技術で世界環境を真にリードするだけでなく、その上で人類に意識の変化を求めるべく警鐘を鳴らし続けるべきである。
 

(注1)資源材料工学・分離工学の権威。日本エネルギー学会賞、工学教育賞などを受賞している。その主張をわかりやすく伝えるものとして『リサイクルしてはいけない』(青春出版社 2000年刊)がある。

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奥健一郎の論考

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Kenichiro Oku

奥健一郎

第20期

奥 健一郎

おく・けんいちろう

一般社団法人ハートリボン協会理事

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