論考

Thesis

今そこにある危機

この夏ほど代表的な日本企業の無責任、官僚的な体質を思い知らされたことも無かったのではないか。OB会の会長である仲野豊塾員(1期生)が、日本社会の危機について思いを語る。

信じられないずさんな実態が次から次と出てきたのが、雪印の製品管理。加えて社長の「私だって寝ていないんだ!」発言は、危機管理にまったく無能な「なるべきでなかった人」の悲喜劇をみせつけた。だが、多くの人は「雪印だけではないだろう」と思ったであろう。同業他社で、また、三菱自工などで連鎖的に問題が噴出したからだ。ここにこそ本当の日本の危機がある。私事だがこんな事もあった。鍵を郵送したところ、封が破れ、紛失したというのだ。郵便番号の読取り機で封が破損するケースは、しばしばあるようだ。印鑑が壊れたり、紛失するケースさえあるという。10日程して見付かったのだが、メモのような謝罪と報告があるだけだった。不満な私は、実態と善後策を問おうと、郵便局長宛てに回答を求める手紙を書いたが、3週間以上経っても何ら反応がない。

 夏に記者職から事務部門へ異動となったが、経費をみるうち、驚くような記者もいた。わずか数百メートルの移動にタクシーを使ったり、上野から大宮へ行くのに新幹線を使ったりするのだ。急ぎと理由付けしても当然経理にチェックされるのだが、そのような庶民感覚、常識からかけはなれた記者がいること自体が、「時代の危機」の現れではないだろうか。
 小学校にしても、誘拐や事故防止のためとはいえ、家族が迎えに行かない限り、体調が悪くなっても早退は認めないケースがあるという。責任回避を優先させた自己本位な態度といえよう。隣接の中学では、明らかに授業時間なのに複数の髪を染めた少年が、校門周辺にたむろしていた。
 優秀とされた官僚が、その責任回避により壊れるケースは、警察が代表的だが今も、もぐら叩きのように問題噴出は続く。
 嫌なことや情報を避け、責任から逃げることが当たり前、すべての基準は自分の好み、実に嫌な時代だ。しかし、だからこそ責任を正面から受け止め、また、本当に庶民の気持ちを理解することができる真のリーダーが求められている時代といえるのではなかろうか。

 塾も200人近い人材を輩出し、国会議員も20人を数えるに至った。ここから本当の正念場といえる。前述の雪印社長は平時には、優秀な社内官僚だったことだろう。しかし、危機はそれを許さなかった。スピードの時代は容赦なく、えせエリートの仮面をはぎ取る。政治家も、どこに落とし穴が潜んでいるか分からない。私のようなサラリーマンでも異動、出向は当たり前、会社の存続すら先の見えない時代なのだ。
 20年以上も塾を見ていると、世の中は不公平と思う時もある。必ずしも努力と成果は一致しないからだ。しかし、さらにそれを突き抜けると、やはり本物のパワーを持つ人材はのし上がってくる。選挙の好結果はそのことも証明したと思う。先の見えぬ危機の時代に抗して、塾にはよくもこれだけの人材が集まり、成果を上げてきた。しかし、日本、世界の改革にはさらなる力が必要であり、同志の協力が必要となる。
 人材は、いないようだが、見えぬところに隠れている。出身者の連帯と共に、志を同じくする多くの人との連携を高めること、そこに塾と日本、そして世界の未来があると思う。

Back

仲野豊の論考

Thesis

Yutaka Nakano

仲野豊

第1期

仲野 豊

なかの・ゆたか

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門