論考

Thesis

社会的起業家(ソーシャル・アントレプレナー)の時代

地域とは、市民が当事者意識をもって認識し、活動しうる範囲だ。自らシンクタンクを創設した薦田宏俊塾員は、地域において自立した市民一人ひとりが互いに手を携えて創造に挑戦しつづける「社会的起業家(ソーシャル・アントレプレナー)」を提案する。

私は昨年10月に「ヒストリア総合研究所」を立ち上げました。ここで「都市国家」的な地方自治の確立に向けて、環境・エネルギー、都市計画、産業活性化の視点から、都市経営を考えたいと思っています。
 日本人は近隣の人たちと助け合い、自らの手で村やまちの生活を維持し、生活共同体としての地域社会をつくりあげ、西欧人が賛嘆するような美しい田園を築き上げてきました。しかし近代工業社会では、地域サービスを公共に委ね、行政に依存するライフスタイルが当たり前になりました。その結果、行政は肥大化し、財政赤字は拡大を続け、国や地方自治体は行き詰まってしまいました。国と地方の借金は600 兆円にも達し、もはや行政サービスは限界にきています。
 にもかかわらず、ほとんどの市民は地域社会や国の財政が崩壊しかかっていることに無関心です。行政の実態が市民からは見えにくいのも原因の一つですが、より深刻な問題は、依存心が大きいこと、つまり自立の精神が欠けていることだと思います。学級崩壊にしてもダイオキシンにしても環境にしても、自分が住んでいる地域社会の大問題であり、国家や地球の大問題であるという意識がありません。他人ごとのように見ているだけです。

 私たちは、常にコミュニティの一員であり、地域で起きるすべての問題の当事者です。地域社会を愛しているならば、そうした問題の解決に向けて立ち上がるべきです。NGOやNPOを含んだ連携力が世の中を変える力になると思います。
 わが国が、世界に通用する普遍性を持った21世紀の新しい文化・文明を生み出すためには、フリーハンドで動き回り、これらの市民の連携を図ることができる「ソーシャル・アントレプレナー」(社会的起業家)が不可欠です。古くは、ギリシャの都市国家やドイツの自由都市同盟などを支えた人たち、近くは、シュバイツアー博士、マザー・テレサといった人たちが例として挙げられます。このソーシャル・アントレプレナーを擁する国家は、個人、企業、地域の総合力を持つことになるでしょう。

 今、わが国は、時代遅れの古い規制を撤廃し、硬直化した制度を改革し、市場原理に基づいた社会システムへと「ビッグバン的大改革」が進んでいます。しかし、中央対地方、集権対分権、都市間競争などいろいろな対立軸や利害関係が錯綜していて、すべてにおいてコンセンサス(合意)は取れません。その地域の事情もあれば、地域によって価値観も違いがあるのは当然です。しかし、これらの壁を突破しなければ、「地域主権の確立」や「誇りある国家づくり」はできません。
 今こそ、グローバルな視野の中で、真にコミュニティや生活に立脚した、持続可能な「政策」の実行が求められています。単に政策提言をするだけでなく、それを事業化し、システムをつくり、効率的な運営を行っていくことが求められます。私もソーシャル・アントレプレナーたらんと欲し、「ヒストリア総合研究所」を立ち上げました。地方自治の確立に向けて、都市経営に微力を尽くしたいと考えます。

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薦田宏俊の論考

Thesis

Hirotoshi Komoda

薦田宏俊

第6期

薦田 宏俊

こもだ・ひろとし

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