論考

Thesis

京都会議参加報告

昨年12月1日から10日まで開かれた京都会議では、日本のNGOが様々な活動を展開した。その活動に参加する中で見えてきた、今後の市民運動のめざすべき方向性について考える。

1997年12月10日。私は朝一番の新幹線で京都へ向かった。地球温暖化防止京都会議(気候変動枠組条約第三回締約国会議)の最終日である。12月1日から始まっていた京都会議は、日本、米国、欧州連合(EU)が、温暖化ガス削減をめぐり最終日での決着をめざして閣僚級の折衝に入っていた。米国は2008年から2012年までの平均排出量を当初の削減率ゼロから90年比で5%以上削減する案を提示し、大きく譲歩した。日本も2.5%という当初案から米国案をやや下回る4~5%の削減案を示した。EUは当初の15%削減案を取り下げ、もう一段の上積みを日米に迫っていた。

 私は、今回の京都会議には、その開催が決った時点から大いに注目し、気候フォーラム(227の団体から構成される京都会議に向けて地球温暖化対策に取り組む市民の為のネットワーク)のメンバーとして関わってきた。気候フォーラムは、96年12月の発足以来、500人を超えるボランティアの支援を受けてニュースレターの発行、イベントの開催、署名活動など活発な活動を展開している。京都会議の開催中は『Kiko』という通信を毎日発行していた。『Kiko』は、世界の250の環境NGOの集まりであるCAN(気候行動ネットワーク)が会議場で発行する『eco』の姉妹紙で、『eco』の内容や気候フォーラム独自の情報を掲載している。

 午前9時、会議の期間中CANや気候フォーラムの事務局が置かれている京都市内の某ホテルに向かった。会議に参加(私はオブザーバーとして会議場の中に入ることが出来た)する前に、様々な情報を収集するためである。そこで私は知人に出会った。ある環境NGOの事務局を務めている女性である。偶然だが、その前夜見たテレビの京都会議の特集番組の中で彼女がコメントしていた。そのことに触れるとかなり憤っている様子だった。番組の中で、日本の環境NGOはまだまだ力不足で「運動家であっても専門家ではない」とコメントされていた。最後には、日本の行政が「情報を開示しない」ことに問題があるとしながらも、日本の環境NGOは「エネルギーの専門家ではないので政策立案能力に欠ける」と結論づけられていた。私自身もこのコメントに疑問をもった。確かにそういう側面もあるが、日本の環境NGOは確実に力をつけ、最近では環境政策やエネルギー政策の専門家と共にデータの解析や政策の提言まで行っている。これらの活動は高く評価されるべきである。
 午前10時、会議場に着くとまた別な知人に出会った。聞けば、「今後ともこの問題に取り組み、温暖化を防ぐ最初のステップとして水没の危機にある小島嶼国連合の提案である、まずは先進国が二酸化炭素を90年レベルから20%削減することを実現すべく、 市民運動を展開する」という主旨の宣言文に署名を集め、夜に記者発表すると言う。
 午前11時から予定されていた全体委員会は大幅に遅れ、なかなか開会されそうになかった。私は署名活動の手伝いをすることにした。僅か一日で600人の署名が集まった。特に途上国の人はNGOも政府代表団のメンバーも例外なく署名してくれた。中には自然保護局の大臣もいた。欧米の環境NGO、日本のNGOもたくさんの人が署名した。夜の記者会見には日本の新聞やテレビ局が10社ほど集まった。しかし外国のメディアはたくさん案内を出したにも関わらず、全く姿を見せなかった。その理由を私は、会場に居あわせたデンマークに留学経験をもつエネルギーの専門家に尋ねてみた。すると「20%の削減は社会システムの抜本的な改革を必要とするが、それを多くの日本人は受け入れられない。その中で自分たちに何が出来るかを提案せず、数値だけ主張しても意味がない。たぶん外国のメディアは現実的な提案や政府へのロビー活動、市民への広報活動を欠いた日本のNGOを幼稚だと見たのだろう」という返事が返ってきた。

 11日午後1時過ぎ、先進国の削減目標を盛り込んだ議定書が本会議でようやく正式に採択された。遅れに遅れたその議定書の内容は、主要国の削減率を90年の排出レベルに比べ、2008年から2012年の平均で日本6%、米国7%、EU8%とするというものだった。先進国全体では5.2%の削減となる。

 会議から帰った私は「温暖化って本当に大変なんですか?」「今回の会議で生活はどうなるんですか。車乗れなくなると嫌だな」という声をたくさん聞いた。このような状況の中で日本が6%の削減を達成するのは相当な困難を伴う。私は京都会議に参加するまで日本政府の消極的な対応を批判し、EUの15%を支持していた。しかし現実に2008年までに出来ることは限られている。今回の京都会議で見えてきたこと。それは、理想論を唱えるだけではなく、利害関心の異なる人をも納得させるデータや政策、ビジョンを提示することの重要性である。そして、お互いの議論を通して、いかに合意形成にまで持って行くか。それが出来るのが真の意味での専門家であり、日本の市民運動のめざすべき方向性ではないだろうか。

 会議場では、世界各国のNGOがコンピュータを使ってリアルタイムにデータを解析し、戦略会議を開き、政府代表団との折衝を繰り返していた。このように世界のトップレベルのNGOの動きを間近に見たことは、今回の京都会議で得た最大の収穫であったと思う。


(ふじさわひろみ 1969年生まれ。現在、エネルギー・環境政策をテーマに、日本の自治体、ドイツ、デンマーク、スウェーデンなどで研究中。)

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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