論考

Thesis

身近に活かす補助金(上)

長引く不況下、天から下りてくるカネがあるなら、欲しくない事業主はいないはず。税金を払うだけでなく利用する方法がある。「補助金」の受給である。今月と来月の2回にわたり、補助金の種類や利用法について述べる。

昨年秋に発覚した特別養護老人ホームに対する補助金をめぐっての厚生省汚職事件は、まだ記憶に新しい。行政改革が争点の一つだった総選挙から1カ月と経たない出来事だっただけに、大きくマスコミで取り上げられた。
 民間、この場合は社会福祉法人に対する補助金がどのような仕組みで交付されるか、そもそもどのような経緯でこの補助金ができたかなど、事件の背景となった補助金そのものについても丁寧に説明していたので、改めてその政策との関わりを認識させられた方も多いと思う。

 平成7年度の一般会計予算額は70兆9,871億円に対し補助金予算額が18兆7,050億円(26%)、特に厚生省に限って見れば、省全体の予算額14兆115億円に対し補助金予算額は7兆9、056億円(56%)と群を抜いている。
 もちろん、この汚職事件に見られるような補助金の交付決定方法、利用の仕方は本来の趣旨とはまったく違うものである。しかし補助金の趣旨、支給申請の手順を正しく踏めば、民間でも利用できるものが厚生省だけでなく、各省庁に少なからずある。近頃は政府や自治体の補助金活用に着目した多種類の本が書店に平積みにされている。これを見れば、積極的に利用する、あるいはしようとしている企業が増えていることもお分かりいただけると思う。
 補助金は行政の意向に素早く呼応した形で決定され、支給方法が決められる。事業の種類を問わず民間企業が利用できる、労働省の助成金・給付金(正確には雇用保険で賄う雇用三事業として行われるもので、補助金適正化法で定義される広義の補助金とは異なるが、混乱を避けるため本稿ではまとめて、以下「補助金」という)を例に紹介しよう。

 中曽根元首相がサミットで世界に約束した労働時間1,800時間の達成目標は、平成9年4月1日から完全施行された労働基準法第32条により、全ての事業所において所定労働時間週40時間を遵守しなければならなくなったことで、一つの区切りを見る。 この間、労働基準法が改正され、政府は時短を促進するために時短奨励金(通称。正確には「中小企業労働時間短縮促進特別奨励金」)を制定。労働基準法では平成9年3月31日までは猶予期間だったので、少しでも早く企業が時短を実現できるよう促進するために補助金を支給した。
 結果は、平成7年度までは完全施行に間があるため企業の反応も鈍かったが、平成8年度になると、夏ごろから予算枠一杯になりそうな気配を見せていた。それでも中小企業の約4割は週40時間を達成できず、経済界からの強い要請もあって、政府は中小企業労働時間制度改善助成金を平成9年度から支給することをこの3月に決定した。

 さらに、最近制定された法律とそれに対応する補助金を紹介しよう。育児休業法(同「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)が平成3年に制定、平成7年には育児だけでなく家族の介護のための休業も含めて労働者が休暇を確保できるよう改正された。
 この法律の主旨は、平成11年4月から、事業主は、労働者が満1歳に満たない子を養育するためにする休業や、同居の家族を介護するためにする休業を申し出たときは拒むことができなくなるというもの。そこで、全面義務化への移行措置としてできたのが、育児・介護費用助成金、育児・介護等退職者再雇用促進給付金、育児・介護休業者職場復帰プログラム実施奨励金等である。

 労働省の補助金はこの他に大きく分けて、高齢者や障害者等の雇用を促進するもの、適正な労働条件を確保するもの、労働者の能力開発に対し補助するもの、産業構造の変化や経済環境の変化に対応して雇用の安定を図るものなどがある。業種・地域によって異なる支給対象範囲は、その都度、経済・社会環境に応じて修正されている。受給する目的で補助金の支給内容・支給対象だけを見ていても、労働行政がいま何に力を入れているかが見えて興味深い。
 これら労働省の補助金は雇用保険の適用事業であることが前提条件となっているが、要件さえ合えば書類の提出だけでどんな企業でも受給できる。特に中小企業は補助率が高い。その額は多いものでは数千万円にもなる。知っている企業は、知らない企業にそれだけ差をつけているということになる。

 労働省の次に民間企業が利用しやすいのが、中小企業庁・通産省の補助金である。技術開発に関するもの、商業・商店街の振興に関するもの、伝統工芸の保存・育成に関するもの、情報化に対応するものなど種類も豊富だ。その他の省庁にも、業種や支給対象は限定されるものの、少なからずある。
 ただし労働省の補助金と性質がやや異なるのは、労働省の補助金は、それを行うことで労働者の福祉の増進・雇用の安定を図る、つまり補助金の対象となる事業自体(たとえば時短を行うなど)は企業にとっては直接のメリットがないのに対し、他省庁の補助金は「ある事業に対して補助する」パターンである。その事業が営業上のメリットをもたらすもの、言ってみれば「事業支援型」とでもいえよう。(明確に分けることはできないが、これに対し労働省の補助金は、より「行政目的実現型」の色合いが強い。)
 次回は、これら補助金の積極的な使い方を通して、行政が変わる可能性についても考えてみる。


(すずきかなこ 1988年松下政経塾入塾。現在、社労士ネットワーク事務局勤務。)

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鈴木香奈子の論考

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Kanako Suzuki

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第9期

鈴木 香奈子

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