論考

Thesis

「歴史街道」計画の推進を通して

関西には我が国の国宝・重要文化財の約6割が集積している。「歴史街道」計画は、伊勢―飛鳥―奈良―京都―大阪―神戸の史跡等を時系列的に結ぶ「メインルート」を中心に、関西一円の歴史都市がネットワークを組み、(1)歴史文化を活かした地域づくり、(2)観光振興、(3)海外への日本文化紹介――を進めていこうというものである。

 私は政経塾在塾中の86年から、この計画推進に関わってきた。「歴史街道推進協議会」の発足にこぎつけたのは91年。68団体の参画でスタートした。現在では165団体(10省庁、8府県、74市町村、10経済団体・各種団体、63民間企業)と約1万人の個人会員からなる組織に成長した。

 各地域・団体と「協議会」が共通の青写真をもって、知恵・機能・ノウハウを交流する。役割を分担し無駄を排して、推進中の事業のいくつかはすでに花開いてきている。

 まず、地域づくりの分野では、各地域が「歴史街道」のコンセプトにちなんだ「まちづくりテーマ」を設定。「源氏物語のまち」(京都府宇治市)「花と歌劇のまち」(兵庫県宝塚市)など「テーマ」を最大限に活用した都市整備(歴史街道モデル事業)に、36市町村が取り組んでいる。「そこにしかないまちづくり」をキーワードに、市町村、県、国、民間などが知恵を出し、役割を分担して事業化するユニークな試みである。

 同様に観光振興の面でも、「協議会」や民間セクターが出版、テレビ番組の放映、チラシ類の作製などPR面を担当し、各地域が広域案内所「歴史街道iセンター)や案内表示、ボランティアガイドの整備、新しい祭やイベントづくりを担当するというように役割分担している。テレビ番組は月―金の毎日、チラシ類は年間で200万部程度、iセンターは現時点で13箇所がオープンしている。

 海外広報の分野は、主に民間企業の「共同メセナ」事業として展開している。阪神淡路大震災からの復興状況報告をまじえた「歴史街道フォーラム」を、15都市(ソウル、台北、香港、バンコク、シドニー、サンフランシスコ、ロサンゼルス、シカゴ、ボストン、ニューヨーク、トロント、サンパウロ、パリ、フランクフルト、ジュネーブ)で開催した。文化発信は、広い意味での安全保障政策の一つだと、私は考えている。

 世界における日本の地位、国と地方、あるいは行政と民間の関係のあり方が、今日ほど問われ、新しい「モデル」が求められている時代はないだろう。国際化のうねりの中で、地方が「分権」の責に耐え得る存在であることを示していきたい。合言葉は「分権の波、関西から」である。

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井戸智樹の論考

Thesis

Tomoki Ido

井戸智樹

第3期

井戸 智樹

いど・ともき

(一社)世界文化遺産地域連携会議 お世話役

Mission

1世界遺産 2広域連携 3海外への文化広報 4歴史文化を活かした地域づくり

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