Thesis
石川県金沢市は、今も加賀百万石の歴史と文化をその町並みに留め、市民、行政ともにその保存に積極的である。昭和43年には全国に先駆け「金沢市伝統環境保存条例」を制定し、市制百周年の平成元年には「金沢市における伝統環境の保存および美しい景観の形成に関する条例」を定め、総合的な都市景観づくりに努めている。
さらに平成6年には、市民や有識者等の呼びかけで「こまちなみ」を金沢の貴重な財産として守り、地域を生活や経済活動の場として住み易くしていこうと「こまちなみ保存条例」を定めた。保存が必要な町並みを「こまちなみ保存区域」とし、町の特徴に応じて保存基準を設け、建造物の改築や修景に市が補助を行うというものである。補助の内容は、建築物の新築・改築費の70%(200万円以内)、設計料の30%(30万円以内)、塀や門、防災整備、保存団体の活動費など多岐にわたっている。
この条例制定後、初めての活動年度となった昨年は、里見町と旧新町の2地域が対象地区に指定された。今年は大野町と旧観音町が予定されている。そして、私はこの大野町の保存再生計画の調査研究に携わっているが、調査に参加して「町並みの保存・再生」には実に多くの問題点があることに気付いた。
たとえば大野町は、湊町として廻船業や醤油醸造業が栄えた地域で、現在でも多くの町家や醤油蔵が残っているが、そのほとんどが生活環境の変化や老朽化から改築を必要としている。実際、建て替えや改築を終えた建物の多くは、居室増や駐車場設置など生活環境の改善を目的としたものである。ところが、大野町は都市計画で準防火地域に当たり、建築基準法によって外壁や軒裏、開口部等を木造にできない、そのうえ既存の建築物は軒が道路にはみ出す違反建築物であったりと、現在の建物の位置や意匠、材料での保存・再生は不可能にちかいというのが実状である。
Koji Omori
第11期
おおもり・こうじ
ステイツマンシップ・ラボ 代表
Mission
ステイツマンシップ教育、建築・都市計画、環境