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おもてなしの心のありがたさ

 11月13日から3日間、京都の裏千家にて茶道研修をさせていただいた。感想文を書くにあたり、まずは鵬雲斎お家元、業躰の中島宗基先生、町田宗芳先生、白波瀬宗幸先生、町田宗隆先生、御講義くださった筒井紘一文庫長、谷端昭夫事務長、(財)今日庵の村上利行秘書部長、山田行圓秘書次長、下川理氏、そして入塾以来8ヶ月に渡り、御指導くださった紺谷みつゑ先生、加藤陽子先生に心から感謝申し上げたい。私の様な下手な初心者が、宗家の大切な場所を拝見させていただき、学ぶ機会をいただいたことには申し訳なささえ感じ、謝意を表すに適当な言葉も見つからない。

 さて我が家には二つ、毎日の習慣があった。一つには神棚と仏壇にお参りすること。もう一つは、毎朝起き掛けにお茶を飲むことである。健康のため、そして祖母と母が茶道を習っていたこともあってのことで、よってお茶の味には親しんできた。しかし、私は生まれもって不器用なこともあり(さらに子どもの頃に大事な抹茶茶碗を相当数壊して叱られた記憶も脳裏にあり)、お手前は大の苦手であった。そのため毎週茶道の時間が来ると憂鬱でしょうがなかった。そうして今回の研修における自分の目標は「人並みに、無難に」という所であった。

 初日薄茶点前のお稽古。同期の東海由紀子さんが関西研修前日まで塾の茶室松心庵で補習・特訓をしてくれた成果が出て、難有りとは言え、何とか切り抜けることが出来た。しかし二日目に遂に大失敗をしてしまう。町田宗芳先生お手前の濃茶をいただき、拝見の際、なつめ棗をうっかりひっくり返してしまい、中の茶葉を畳にこぼしてしまったのである。絶体絶命の心境で、申し訳なさと、自らへの情け無さで途方に暮れていると、町田宗芳先生は「私が中に茶葉を入れて置いたのが悪い。あなたは悪くないのだよ。」とやさしくお声掛けくださった。(無論私が大失敗し、私が悪いのだが)このお言葉で救っていただき、大変にありがたかった。このことは一生忘れ得ない思い出となると思う。

 この特異なエピソードに限らず、お稽古のあらゆる場面で業躰の先生方からは常にきめ細かい御配慮、お心遣いをしてくださっていた。

 また、裏千家を支えている方々からも、祇園で懇親会を開催していただいたことを始め、諸事大変にお世話になった。村上利行秘書部長は、同趣味の同期の三日月大造君、私に休み時間にお声掛けくださり、茶道のお話から古今東西の歴史、人物など様々な興味深いお話をしてくださった。様々な書物についてお教えいただいたが、特に将来政治家を目指す我々にと、城山三郎氏が浜口元首相と井上元蔵相を描いた「男子の本懐」を御推奨くださり、二人とも今、この本を懐中している。

 お茶の道におられる方々は、共通に諸事万事につけ、心にゆとりがあり、常におもてなしのお心を持たれているように感じられた。省みて自分の余裕の無さを感じ、心がけに問題をあることを思い知った。ただ「無難に、無難に」と目先の手順のことしか考えておらず、相手を考える心、もてなす心、主客の心の触れあいといった所には全く思いが及ばなかった。今後、お茶に限らず、万事、自分がもてなす側になった際に、まずは自分が泰然自若とし、余裕をもって、相手のことを考えた心遣いが出来るようになりたいと思った。

 研修の最後にあたる閉校式で、お家元の著書(「お茶をどうぞ-私の履歴書-(日本経済新聞社)」)をいただき、早速帰路に拝読させていただいた。読み進める内、「あぁ、研修前にもっとよく勉強しておけば良かった」という後悔が強くなる一方であった。利休居士を始めとする茶道を創られた方々の真摯な努力・・・まさに先程訪ねさせていただいたお墓に眠る方々の足跡、同じく訪問したばかりの今日庵、大徳寺、裏千家学園のことが書かれている。そして、お会いさせていただいたお家元自身の人柄がわかる様々なお話が出ている。掛け軸にあった「主人公」の言葉の意味、海軍での生活、宗家に生まれた宿命と努力。さらに面倒な袱紗来年以降、宗家研修に行く後輩諸君には、反面教師として、事前によくよく勉強されることを望む。

 本中で一番印象に残ったのは、あとがきに、禅の教えの中にある中国の昔話「壺中日月長(こちゅうにちげつなが)」を書かれていたことであった。これは後漢の時代、ある薬売りの老人が夕刻店終いをすると壺の中に身を隠したのを、市の役人が偶然発見し、自分も壺に入れてもらうと、そこは全くうららかな別天地であったという話である。お家元は、壺の中の世界は、実は御自身が求める安楽の世界、別天地、換言すれば悟りの妙境と言われる。

 今回の宗家研修(さらにその前の週に一度の研修)を通じ、(稽古中同期を長時間の正座に付き合わすなど)失敗、反省、後悔を繰り返した私ではあるが、皆様のお心遣いによって、大変に充実した楽しい時間を過ごさせていただいき、今後茶道を続けていきたいと思うに至った。利休百首冒頭に「その道に入らんと思う心こそわがみながらの師匠なりけり」とある。飛び抜けて下手ではあるが、めげることなく、一歩一歩技術と心を向上させていければと願っている。そしてゆくゆくは、しかっりとした「おもてなしの心」を身に付けたい。

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橘秀徳の活動報告

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Hidenori Tachibana

橘秀徳

第23期

橘 秀徳

たちばな・ひでのり

日本充電インフラ株式会社 代表取締役

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児童福祉施設で現場実習

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