論考

Thesis

サルサバンドと多文化共生社会

関東地方に季節外れの台風が襲った5月末の週末、銀座のとあるクラブで開かれたサルサのライブに顔を出した。この日は台風のせいで悪天候であったにもにもかかわらず、会場はぎっしりと埋まったサルサファンの熱気でいっぱいだった。2000年に、キューバ音楽界の古老たちを記録した、映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」が日本でもヒットしたこともあり、キューバ音楽やサルサが近年注目を集めている。しかし、この日のライブに出演するのは、キューバ出身のバンドではない。沖縄生まれのサルサバンド、カチンバ1551である。

カチンバ1551とは

 カチンバ1551は、1998年に結成した、ボーカル3名、ベース、ピアノ、パーカッション2名、ホーンセクション2名、計9名のオキナワン・サルサバンドだ。すでにアルバムを2枚発表しており、沖縄では人気のあるバンドである。今回のように、本土に出てくることも多くなり、昨年は全国ツアーも挙行した。そのせいか、彼らの知名度は本土でも着実に伸びているようだ。このライブの前日にも横浜でライブがあった。バンドのマネージャーに聞くと、前日のライブでは600人ほどが集まり、予想した以上に客が入ったそうだ。

 人気や知名度があるだけでなく、彼らの実力は、日本のみならず、本場キューバでも高い評価を得ている。キューバの人間国宝級バンド「ロス・ナランホス」の結成75周年祭に日本から唯一招待を受け、キューバ人の前で演奏し、会場を大いに沸かせたということだ。

カチンバの特色

 実力もさることながら、カチンバの特色は、沖縄生まれのサルサバンドということだ。キューバが本場であるサルサを演奏しているが、キューバ出身者はいない。沖縄出身者が最も多いが、本土、ペルー、メキシコと、彼らの出身は様々である。

 歌は主にスペイン語で歌われているが、全ての曲がスペイン語というわけでもない。歌詞の一部には沖縄方言を挿入したり、方言のラップをサルサにかぶせるなど、バンドのルーツである沖縄をちゃんと主張している。このようにスペイン語と沖縄方言が混ざっていても、聞いていて全然違和感がないのがおもしろい。

 また、曲のなかには沖縄民謡、童謡までもサルサのリズムにのせている。まさに、多国籍、多言語、多文化のバンドだと言えよう。

 私の友人で、バンドのリーダーである大城太郎君は、あるインタビューで、「沖縄の伝統である「チャンプルー性」にキューバのテイストを加えて活性化させたい」と述べている。「チャンプルー」とは、いろんな野菜と豆腐を油でさっと炒める沖縄の家庭料理である。この料理のごっちゃまぜになった様子から、沖縄の文化の特徴を表現する言葉として使われる。

 沖縄にはいろいろな国の人間が住んでいる。沖縄は、かつての琉球王国時代から現代に到るまで、様々な外国人を受け入れてきた。琉球王国時代では、中国からの移住者を受け入れていたし、現在では、巨大な米軍基地があるため、軍人、軍属・家族、4万9279人(平成13年末)の外国人が基地内外で生活している。それだけではなく、かつて「移民送り出し県」であった沖縄には、移民者の子や孫が戻ってきており、それぞれ移民先の文化を沖縄に伝えている。

 このように、沖縄には異文化を持つ人間を受け入れる土壌がある。だからこそ、カチンバのような新しい文化を創造するバンドが湧き出るように生まれてくるのであろう。こうした異文化の受け入れから、新しい文化の創造へと発展し、沖縄の文化的価値が高まっていく。このことは、何も音楽やエンターテイメントの世界だけの話ではない。あらゆる面からの異文化の受け入れ、つまり多文化の共生から、新しい文化は創られてゆくのだろう。

私の問題意識

 私の研究テーマは、「多文化共生社会のシステムづくり」である。とりわけ移民、外国人労働者の生活支援を中心に研究していく予定である。

 日本もすでに外国人や外国人労働者が身近な存在となりつつある。法務省入国管理局の発表資料によると、2001年末の外国人登録者数は、177万8462人となり、前年比で9万2018人(5.5%)増加している。1981年末の外国人登録者数が79万2946人であることから、この20年間で100万人近くも増加している。また、我が国の総人口1億2729万人(総務省統計局「平成13年10月1日現在推計人口」)における、外国人登録者の占める割合は1.4%となっている。つまり、人口100人当たり1人が外国人という社会が到来しているのである。

 この数が多いか少ないかということを別にしても、「単一民族、単一言語」の社会はもはや幻想であり、この日本社会が、異文化を持つ人間を受け入れ、彼らと共に生活していくには何が必要なのかを考えていかなければならない。

 そのためにも、まずは国籍や出身で区別されることなく生活できること、そして、それぞれの能力を活かせる環境を整えることが必要であろう。このような多文化共生型が日本の社会のあり方として認識されなければならないであろう。

 そのことは、人道的観点のみならず、日本が、世界のどの地域よりも、住みやすく、また自分の能力を伸ばし、発揮できるような人材立国を作るためにも重要なテーマとなるであろう。そこで、日本人、外国人問わず、世界の優秀な人材を集め、または輩出させる環境づくりを整備する必要があるのではないか。

 このことを目指す上でも、まずは現在直面している外国人労働者の生活支援などの問題に取り組みたい。

 カチンバとはスペイン語で「泉」という意味だ。この「泉」から、これからも楽しい音楽が飛び出るのを楽しみにしている。歌詞の内容がわからなくても、彼らの音楽を聞いていると、楽しくなる。もちろん、ステージで演奏し、踊っているカチンバのメンバーも楽しそうだ。彼らの音楽のように、頭で多国籍、多言語、多文化のことを考えなくても楽しめる社会を目指したい。

 最後に、このレポートをご覧になった方も、是非ともこのカチンバの音楽に触れて、パワーあふれるオキナワン・サルサを楽しんでみてください。
  カチンバ1551のホームページ http://www.kachimba1551.com/


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上里直司の論考

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Tadashi Uesato

上里直司

第23期

上里 直司

うえさと・ただし

沖縄県那覇市議/無所属

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