論考

Thesis

誰もが投票できる選挙を目指して! ~みんなが利用できる選挙公報を~

「投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動」を進めていく過程で、有権者が候補者を選ぶという場面においても問題がないのだろうかという疑問をもつようになった。

 今回は、この候補者を選ぶという観点から、今の選挙制度の問題を書いていきたい。

投票所バリアチェック10,000ヶ所全国運動
HP http://www.b-free-web.com/check1.htm

◆選挙公報について

 選挙で投票をする前に、投票する候補者を選ばなければいけない。有権者が候補者を選ぶには、一体どうやって選ぶのだろうか?選挙前においては、候補者の政策や主張を書いたビラ、候補者のホームページ等々があるだろう。選挙中においては、掲示板に貼られている候補者のポスター、新聞広告やハガキのほかに各地の選挙管理委員会(以降、選管)が発行する「選挙公報」というものがある。投票日近くになると新聞の折込等で配布される候補者の名前・経歴・主張等を書いたものである。

 今回、この「選挙公報」に関する問題について書く。

1.公職選挙法において

 選挙公報とは、公職選挙法第167~172条において定められたものである。その内容を要約すると以下のとおりである。

<選挙公報の発行について>

  • 衆議院議員(小選挙区)、参議院議員(選挙区)、都道府県知事の選挙において発行
  • 都道府県の選挙管理委員会が選挙ごとに一回発行
  • 候補者の氏名、経歴、政見等を記載
    ※衆議院議員と参議院議員選挙については写真を掲載
<選挙公報の配布について>

  • 都道府県の選挙管理委員会の定めるところにより市町村の選挙管理委員会が配布
  • 選挙人名簿に登録されたものの属する各世帯に配布
  • 選挙の期日前二日までに配布
 各世帯に配布することが困難であると認められるときは、選挙公報の配布を補完する措置を講ずることにより、選挙人が選挙公報を容易に入手できるように努めなければならない。(第170条の2項)

 公職選挙法においては、国会議員の選挙と都道府県知事の選挙における選挙公報を規定しているが、その他の選挙(都道府県議会議員、市町村議会議員、市町村長)においては、各自治体が制定する条例で選挙公報を発行することができる(公職選挙法172条の2)ことになっている。

2.条例において ~神戸市選挙公報発行条例~

 たとえば、神戸においては、公職選挙法(昭和25年法律第100号)第172条の2の規定により、「神戸市選挙公報発行条例」が制定されている。

 神戸市においては、この条例に基づいて、市議会議員・市長選挙の候補者の選挙公報を、神戸市の選挙管理委員会が発行し、配布している。

 条例の内容は、公職選挙法で定められている内容と変わりなく、候補者の氏名・経歴・政見等を記載し、選挙の期日前2日までに配布されることになっている。

 地方議員選挙や市町村長選挙においても、各自治体が条例を制定することによって、選挙公報を配布することになっているのである。

※神戸市以外でも、名称は違えども、同じ内容の条例が制定されている。

3.選挙公報の役目

 選挙で投票をするということは、有権者自身が複数の候補者の中から1人の候補者を選ぶということである。

 候補者を選ぶという行為を行うには、その大前提として候補者を知ることである。どの政党に属しているのかや、どの政党が応援しているのかというのも重要な要素であるかもしれない。しかし、本来的に候補者を選ぶという意味では、候補者がどんな人であり、何をしようとしているのかを知ることが大切である。

 複数の候補者から1人を選ぶためには、複数の候補者を比較することが必要である。

 選挙公報は、各候補者の経歴や考えや掲げる政策が掲載されている。

 たとえば、私の地元である神戸市灘区の兵庫県会議員選挙(定数2・候補者4)においては、4人の候補者の氏名・経歴・政見等が1枚の選挙公報にまとめられており、候補者の比較をすることが可能である。

 選挙期間中にすべての候補者の演説を聞くとは限らないので、演説だけで候補者を比較できるとは限らない。

 選挙公報は、すべての候補者を知ることができるので、有権者が候補者を選ぶ上で非常に大きな役割を果たしているといっても過言ではないだろう。

4.選挙公報の問題

(1)すべての人が利用できるのか?

 この候補者を選ぶのに重要な資料の一つである「選挙公報」だが、実はこれは有権者すべてが利用できるものではない。

 有権者にもいろいろな人がいる。視覚に障害を持った人にとって、特に全盲の人にとっては、今の選挙公報ではまったく読めないものである。

 すべての選挙公報で、難しい漢字にふりがながふってあるわけではない。

※候補者によってはふりがなを振っている選挙公報もある。また、候補者名だけにふりがなを振っている選挙公報もある。

 いろいろな人に対応できるように、点訳の選挙公報・音訳の選挙公報・ふりがな付の選挙公報というのが用意されているわけではない。

 芦屋市で芦屋市選挙管理委員会に、芦屋において選挙公報を点訳や音訳しているのかという質問をすると、芦屋ではしていないとの回答であった。

(2)編集するのは候補者の責任!?

 投票所の問題や選挙公報に疑問を持ち出したとき、大阪で郵便投票の問題に取り組んでいる弁護士に出会った。

 この弁護士は前から選挙公報の問題にも取り組んでいた。この弁護士から教えてもらったことだが、「選挙公報」の編集権は候補者にあるということだった。

 この弁護士も選挙管理委員会に選挙公報の点訳について問い合わせたことがあり、そのときに選挙管理委員会から、点訳等ができないことについて、編集権は候補者にあるから勝手に点訳等はできないということだった。

 編集権が候補者にあるのなら、選挙管理委員会が最低でも候補者に音訳や点訳を求めるか、それを選挙管理委員会側で行うことの了承を候補者に求めるべきではないだろうか?

 選挙管理委員会の役割は、公正な選挙運動だけでなく、すべての人が選挙に参加できるようにすることでもあるはずだ。

◆まとめ

~ユニバーサルデザインに基づいた選挙公報を!~

 選挙権は、憲法で保障されている権利である。

 すべての人にその権利が保障されているという状態は、以下の三つの状態を指すのではないだろうか。

  • 自らの意思で候補者を選ぶことができる
  • 自らの意思で投票するか、しないかを選ぶことができる
  • 投票に際して、無理なく投票できる
 候補者を選ぶためには、候補者の情報が必要である。選挙期間中においては、「選挙公報」は選挙管理委員会が提供し、すべての候補者を一度に知ることのできる貴重な情報源である。

 すべての人が、自らの意思で候補者を選ぶことができるようにするためには、「選挙公報」がユニバーサルデザインに基づいたもの、つまり、誰もが利用できる「選挙公報」にならなければいけないのである。

 ユニバーサルな「選挙公報」という意味では、現在のスタイルだけでなく、点訳や音訳、ふりがな付といった「選挙公報」があるべきだろう。

 たとえ「選挙公報」の編集権が候補者にあるといっても、その様式を決めているのは選挙管理委員会である。したがって、その様式に音訳や点訳原稿を求めるべきだろう?

 この場合の「選挙公報」の配布は、点訳なら点字図書館で配布や、行政窓口での配布、各障害者団体を通じての配布等で行えばいいのではないかと思われる。

 ひとりでも多くの人が候補者を選ぶことができるように、ユニバーサルデザインに基づいた、みんなが利用することのできる「選挙公報」を考えるときがきているのである。

 すべてのひとが参加できる選挙の実現のために...

◆参考資料

  • 公職選挙法
  • 神戸市選挙公報発行条例
  • 神戸市議会議員選挙公報(灘区選挙区)
  • 兵庫県議会議員選挙公報(神戸市灘区選挙区)
  • 芦屋市選挙管理委員会
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海老名健太朗の論考

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Kentaro Ebina

松下政経塾 本館

第22期

海老名 健太朗

えびな・けんたろう

大栄建設工業株式会社 新規事業準備室 室長

Mission

「ノーマライゼーション社会の実現」

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