論考

Thesis

新しい行政・民間関係

日本版PPP(Public Private Partnership)について

 松下政経塾を卒塾後、活動を予定しているNPO法人で幾つかのプロジェクトの立ち上げを予定している。昨年の年末あたりから事業の立ち上げ準備に入り、いよいよ大詰めの段階である。今月は私が実践活動の中から得た、行政と民間とのパートナーシップについて報告したい。

 近代国家は、19世紀末あたりからその体制を高度に専門的に整えはじめ、第二次大戦後特に先進国を中心に福祉国家の路線を歩み始めた。全ての国民から税金を集め、行政機構を中央、地方に整備し、公共サービスの提供を行なうというシステムである。国民は行政サービスの対価として税金を納める。経済社会が複雑化するにつれて、行政がカバーする領域も自然に大きくなり、またその専門性も深まることとなった。

 一方で、高度化した社会の中には行政では提供し得ない、また満たすことの出来ないニーズが見られるようになった。市民、国民の行政に対するニーズは多様化し、また行政も柔軟性を持って対応することが出来ないため、こうしたギャップは次第に大きくなり、現在では無視することが出来ない状況となっている。

 そこで考え出された概念がPPPである。特に90年代後半のイギリスで注目されたPPPは、行政サービスの提供主体を行政とする20世紀福祉国家の常識を前提とせず、もっと多様なアクターの中サービス提供者の存在を見る。その判断基準としては、いかに社会に存在するニーズを満たすか、高いサービスの質を確保できるか、いかに効率よくサービスを提供できるか、である。

 一つ目に、社会に存在する多様なニーズに対して柔軟に対応することは、硬直化した現在の行政にとって非常に難しい課題である。二つ目に、高い質のサービスを提供することであるが、競争のない行政にとって不断の努力によってサービスの向上に努めるモチベーションは本質的に不足しており、これまた大きな問題である。最後に、効率性の追求であるが、コスト削減への努力が求められない行政の論理からは生まれてくる発想ではなく大変な難題である。

 ここ数年大きな注目を集めているNPO(非営利団体)は、こうした社会背景から生まれてきたものである。ある特定の分野において、行政サービスの公共性を確保しつつ、サービスの質や効率性と言った観点からは行政を上回るアクター足りうるのがNPOであると言うのである。イギリスにおいては、この非行政組織が社会に定着し、公共サービスの提供主体として大きな役割を占めているのである。

 私が今回立ち上げるNPOもまさに、こうした観点から考えている。市民、国民の立場から、より効率的で質の高いサービス提供者に対して税金を支払い、そのサービスを受け取るという選択の幅が得られることとなるのである。誰もが、行政がすることが当然と考えてきた分野におけるサービス提供も、実は他のアクターでも十分提供可能であり、かつ質の高い効率的な事業を行なえるのである。

 恐らくこれから数年間は、こうした社会の潮流に対して行政側の猛反発が続くであろう。戦後の拡大成長の中で肥大化した行政組織を縮小させて行く改革を行政自身が担えるとは到底思えないからである。非常に大きな権力を有している現代国家の行政組織には、もはや国民のニーズを把握しきれない、効率的な提供が出来ない、といった根源的な課題が発生しており、21世紀の社会体制のデザインの中でその役割を縮小せざるをえないことはもはや自明の理である。

 しかし、一方でその代替として責任あるNPOが存在しているか、と言えばまだまだ現状はそこまで達していない。市民参加を謳っている地方自治体は多いものの、本当に信頼関係を構築してNPOとの共同作業を行なえるまでには至っていない。私が京都で行なう活動は、21世紀社会の中での新しい枠組みにトライするという意味において、新しい社会のモデルとなり得る可能性を秘めている。様々な障害を克服し、既存の硬直化した社会の構造改革に取り組む所存である。

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二之湯武史の論考

Thesis

Takeshi Ninoyu

松下政経塾 本館

第21期

二之湯 武史

にのゆ・たけし

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