論考

Thesis

誰もが参加できる選挙制度 ~選挙制度は違憲状態!?~

内容変更について
 本当なら先月の月例に続いて、「ユニバーサルデザインへ(後編)」を書くはずでしたが、今回、今月末から事務局長として関わることになった「(仮)アジア太平洋バリアフリー研究集会~情報のバリアフリーと選挙・投票について考える~」が、3月15日(土)に開催されますので、告知と参加のお願いを含めてこの内容に変更させていただきます。次月以降に改めて、「ユニバーサルデザインへ(後編)」を書かせていただきます。どうかご理解くださいますようお願いいたします。

◆はじめに

 私は、選挙権を得て10年が経った。私自身は転居後すぐに選挙のために投票できなかったケースを除いてはすべての選挙で投票をしている。しかし、今や大半が選挙に行かない状況になっている。いつごろからだろうか、このような低投票率が問題になったのは? 低投票率の原因は様々に考えられるが、そもそもすべての人(20歳以上)が投票できるような仕組みになっているのだろうか?

 今回、私が「(仮)アジア太平洋バリアフリー研究集会~情報のバリアフリーと選挙・投票について考える~」について事務局長として協力することになった背景には、このような考えがある。

 ※20歳以上なのか、18歳以上なのかという年齢の問題については今回は論じない。20歳以上のすべての有権者が確実に選挙権を行使できるのかについて考えたい。

◆選挙制度は違憲状態!?

1.賠償請求棄却、しかし選挙制度は違憲

 2002年11月28日、東京地裁にて現行の選挙制度が違憲であるとの判断が示された。

 これは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(注1)で全身まひとなり在宅介護を受ける患者3人(うち1人は死亡)が、現行制度においては投票できないゆえに自らの選挙権が侵害されているとして、1人90万円の国家賠償を求めた訴訟の東京地裁の判決を簡潔に表したものである。

 判決では、患者3名(原告)の症状について自分で字が書けないため郵便投票が利用できず、外出することも不可能なので、現行制度下では選挙権行使が不可能と認定するとともに、選挙の機会を奪う場合は、やむを得ない理由が必要と指摘し、▽自筆に限定しなくても不正投票を防げる▽巡回投票制度の導入も可能―などの理由から、代筆を認めないことは「やむを得ない理由」に当たらないとして、現行制度を「憲法15条(普通選挙権)、憲法14条(法の下の平等)などに反する状態」と違憲の判断を行った。

 すなわち、司法は、現行の選挙制度は、投票する側にとって誰もが参加できる制度ではないと判断したのである。

(注1)筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは

 運動神経が冒されて筋肉が萎縮していく進行性の神経難病です。病気が進むにしたがって、手や足をはじめ体の自由がきかなくなり、次第に話すことも食べることも、呼吸することさえも困難になってきますが、感覚、自律神経と頭脳は何ら冒されることはありません。進行は個人差がありますが、発病して3~5年で寝たきりになり、人工呼吸器を装着しなければ呼吸することができなくなります。残念ながら、原因も治療法もわかっていません。患者は全国で6180人ほどと言われています。(日本ALS協会HPの説明より引用)

(注2)棄却

 民事訴訟においては、申立て(訴えなど)の内容に理由がないとしてこれを排斥することを意味する。

2.なぜ問題なのか? なぜ投票できなかったのか?~公職選挙法を読んでみる~

現行の公職選挙法から、なぜこのような裁判が行われたかを考えてみたい。

(1)投票の大原則

~選挙当日投票所投票の原則~

 現行の公職選挙法第44条1項では、「選挙人は、選挙当日、自ら投票所に行き、選挙人名簿又はその抄本(中略)の対照を経て、投票をしなければならない」と定めている。

 これを選挙当日投票所の原則という。

 投票をするには、選挙当日に投票所に出向いて投票しなければならないということが選挙の大原則になっている。

 しかし、すべての人が当日に投票所に出向いて投票できるわけではない。投票日に海外旅行に行っている場合や、不慮の事故や病気により入院をしている場合等々、どうしてもできない場合がある。そのような場合には以下のような例外を定めている。

  • 代理投票制度
  • 一般的な不在者投票制度
  • 郵便投票制度
    ※このほかに在外投票制度や船員の投票制度もあるが今回は割愛する。

(2)例外その1 

~代理投票制度~

 同法第48条1項に「身体の故障又は文盲により、自ら当該選挙の公職の候補者の氏名(中略)を記載することができない選挙人は(中略)投票管理者に申請し、代理投票をさせることができる」と定められている。

 これを代理投票制度という。

 投票をする際に氏名が記載できない場合には、代わりのものが投票用紙に代筆して投票を行うのである。
 ただし、この代理投票制度は、本人が投票所に行くことを前提としている。つまり、投票所に行かなければこの制度は使えないのである。

(3)例外その2

~一般的な不在者投票制度(不在者投票制度)~

 同法第49条1項にて「職務若しくは業務又は総務省令で定める用務に従事すること」(1号)、「用務(中略)又は事故のためにその属する投票区の区域外に旅行又は滞在すること」(2号)、「疾病、負傷、妊娠、老衰若しくは身体の障害のため若しくは産褥にあるため歩行が困難であること又は監獄、少年院若しくは婦人補導院に収容されていること」(3号)等の「事由のいずれかに該当すると見込まれるものの投票については、政令に定めるところにより(中略)不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所において行わせることができる」と定められている。

 これを一般的な不在者投票制度(不在者投票制度)という。当日投票が無理な場合にあらかじめ投票を可能とする制度である。ちなみに、不在者投票管理者とは(公職選挙法施行令55条より)、

  • 市町村の選挙管理委員会の委員長
  • 都道府県の選挙管理委員会が指定する病院の院長
  • 同じく指定する老人ホームの長
  • 国立保養所の所長
  • 身体障害者更生援護施設若しくは保護施設の長
  • 労災リハビリテーション作業所の長

等をいう。

 選挙をする場合に、病気や身体の障害のために歩行が困難であっても、都道府県の選挙管理委員会が指定する病院(以下「指定病院」)等において入院する場合には、指定病院等において、選挙当日の前にあらかじめ投票することができ、その際に自筆で候補者名を書けない場合は代理投票もできる(公職選挙法施行令58条4項・56条3項)

 つまりこれは裏を返すと、指定された施設でないかぎりは投票所か、役所等の不在者投票所に行かなければ投票できないことを表しているのである。

(4)例外その3 

~郵便による不在者投票制度(郵便投票制度)~

 同法第49条2項にて「選挙人で身体に重度の障害があるもの(中略)の投票については、前項の規定によるほか、政令で定めるところにより、その現在する場所において投票用紙に投票の記載をし、これを郵送する方法により行わせることができる」と定められている。

 これを郵便による不在者投票制度(郵便投票制度)という。

 一般の不在者投票制度と違い、指定された施設でなくても投票ができる制度であるが、これは「投票用紙に投票の記載をし」とあるように、自筆であることを前提にしているのである。自らが投票用紙に候補者の氏名を書けない場合は使えない制度なのである。

(5)投票できない!!

 これまで公職選挙法や公職選挙法施行令を見てきたが、誰もが参加できる選挙制度ではないことは明白ではないだろうか?疾病や障害等により自筆不可能な程度になっていて在宅介護を受けている場合は、どうなるのだろうか?

 代理投票は、投票所に行かなければ使えない。不在者投票制度も不在者投票所に行くか、指定の施設に入っていなければ使えない。郵便投票制度も自筆できないので使えない。すなわち現行制度では不可能なのである。

 今回の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者のケースは、まさにこれに該当しているのである。

 しかし、これは、ALS患者にだけ当てはまるものであろうか?

 たとえば、指定を受けていない老人ホーム等に入所している高齢者や在宅介護で歩くことも書くこともできなくなってしまった高齢者の場合はどうだろうか?

 現行制度上ではこの場合も投票できないということになるのである。

 他にも、知的障害者や痴呆の高齢者についても投票についてどのように配慮がなされるのかは、公職選挙法やその施行令では提示されていない。

 つまり、高齢社会から超高齢社会へと進んでいくことやノーマライゼーションの観点からも、現行の選挙制度を見直さなければならないときに来ているのである。

 ※ちなみに実は代筆による投票制度は行われていたことがある。ただしそれは昭和26年(1951)の統一地方選挙で、この制度を悪用した選挙違反が多発したために、昭和27年に公職選挙法の法改正が行われて、代筆による投票制度が禁止となった。

3.他の国ではどうなのか?

 このようなケースの場合、他国においては以下のような方法で対応している。

  <スウェーデン>
 自宅での代理人投票の場合、署名する際や投票用紙を投票用封筒に入れ封を閉じる際、代理人が手を添えて投票しようとする本人の補助することを認めている。

  <デンマーク>
 自宅・病院施設等で投票ができ、投票に立ち会う「投票用紙受取人」が代筆などの援助をすることができる。また、家や施設には、投票回収者2名が投票箱を運んでいって投票することが認められている。

  <オーストラリア>
 代筆による郵便投票制度があり、本人により選任されたものが本人の指示にしたがい投票用紙に代筆することができる、郵便投票の際に証人を立ち会わせることによって投票の公正さを担保している。

  <カナダ>
 在宅における代理投票を行うことができる。この場合は指定された選挙係員が本人の宅を訪問し、本人が選定した立会人の前で代理投票を行う。

◆「アジア太平洋バリアフリー研究集会
        ~情報のバリアフリーと選挙・投票について考える~」

 今年4月以降、統一地方選挙となる。日本全国で選挙が行われる。この選挙を機に投票からこれからの選挙制度のあり方を考え直そう。

1.投票のバリアフリー

 これは、大きく分けると今まで展開してきた投票制度の問題と、投票所自体の問題の2つに分けられる。

 投票所自体の問題とは、投票所という場所が、すべての人にとってアクセス可能であるかどうかといったことや、投票に際してすべてのひとのために配慮がなされているかといったことである。

 この問題について論じ合うとともに、フォーラム後の選挙において全国の投票所のバリアフリーチェックを行い、現状の調査とともにその改善要求をする予定である。

 バリアフリーチェックとしては

  • 館内の案内板の有無
  • 投票所へのアクセス(スロープの有無等)
  • 車椅子の貸し出しや車椅子用の記載台
  • 点字の候補者名簿や点字器
  • 拡大ルーペや老眼鏡
  • 介助員の配置
  • 手話通役者の配置
  • 車椅子用トイレの有無
  • 車椅子専用駐車場の有無
  • ガイドヘルパー制度

等々を考えている。

2.選挙情報のバリアフリー

 投票するということは、候補者の中から誰かを選ぶことである。正しく選択するためには候補者の公約が分からなければならない。

 たとえば、選挙公報は音声テープ化が認められていない。点字の読めない(ましてや字が見えない)視覚障害者(注)にとっては、どうやって選挙公報の情報を入手することができるのだろうか?

 こういったことを含めて、候補者や選挙管理委員会から提供される情報が果たしてすべての人にとって理解できるものなのかを一度チェックしてみようというものである。

 (注)ちなみに2001年の厚生労働省の調べによると、視覚障害者の74.3%が60歳以上でその多くは、高齢による疾患(白内障や糖尿病等)が原因で視力を失っている。つまり点字の読めない視覚障害者はかなりいるのである。

3.最後に

 この集会は、2002年3月15日(土)14:00から吹田市文化会館メインシアターの大ホールで行います。参加費は1,000円です。ぜひ、この集会で日本の選挙制度について考えてみませんか?

 そしてその後の投票所のバリアフリーチェック活動を通して、日本の選挙制度(特に投票所)のバリアを確認してみませんか?

 投票所のバリアフリーチェックは、全国のできるかぎり多くの投票所を対象に行いたいと思っております。バリアが大変多いと判明した場合には、この集計結果を総務省に提出して投票所のバリアフリーについての意見具申をする予定です。したがって、できるだけ多くの投票所のチェックシートが必要ということになります。

 このチェックシートは、ウェブ上で公開する予定です。チェックシートの集計結果も公表する予定です。チェックシートについては完成し、ウェブ上で公開次第、22期生のメールマガジン「MAGAZINE TAO」にてお知らせいたします。

 個人的に興味があるという方には私にメールをいただければ、追ってメールにてお知らせいたします。遠方で参加できない場合について内容を知りたいという場合にもメールをいただければ、イベント終了次第折り返しメールさせていただきます。

 私は、この集会の事務局長として、日本の現行の選挙制度に一石を投じるべく日夜、国内を奔走しています。

 「いちど、自ら投票する立場として、投票の面から選挙制度について考えてみませんか?これからの日本にふさわしい選挙(投票)制度を...」

◆参考・引用資料

  • 毎日新聞(2002年11月28日付)引用
  • 公職選挙法
  • 公職選挙法施行令
  • 平成14年11月28日 東京地方裁判所 平成12年(ワ)第502号 損害賠償請求事件判決
  • 日本ALS協会HP http://www.jade.dti.ne.jp/~jalsa/
  • (仮)アジア太平洋バリアフリー研究集会

 

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海老名健太朗の論考

Thesis

Kentaro Ebina

松下政経塾 本館

第22期

海老名 健太朗

えびな・けんたろう

大栄建設工業株式会社 新規事業準備室 室長

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