論考

Thesis

日韓国民交流年記念事業「The Savior II」を終えて

去る10月15,16日の2日間、韓国ソウルの国立劇場大ホールにおいて、私が活動をしている「J-ART」が「The Savior II」というエンターテイメント・ショーを行った。長い間日本文化を規制してきた韓国において、国立劇場では日本人単独の初公演とあって注目度は非常に高かった。

 文化事業と言うと、能・歌舞伎・茶道、というようなステレオタイプのものが主流を占めるが、J-ARTのプロデューサー表博耀(おもてひろあき)氏が作り出す世界は、日本古来の精神性・芸術性というものを生かしながら現代人にも受けるエンターテイメントとして表現されている。「イマジネーション・ステージ」と呼ばれる彼のオリジナルの表現方法は、音楽・オペラ・ミュージカル・演劇・アート・ダンスの要素を取り込みながら、そのいずれのジャンルにも属さない。人間の創造力を掻き立てる仕掛けが十分に配されている。

 また、彼の描く世界は、戦後日本のエンターテイメント界で支配的であった「洋物を日本風にアレンジする」というスタンスとは一線を画する。そのコンテンツのオリジナルはあくまでも日本に求め、それを感動的な作品に仕上げていくのである。日本人の自然観・死生観・芸術観をメッセージとして織り込まなければ、日本が発信する文化交流の事業としては成立し得ない。表氏はこうした活動を10数年間にわたって海外で行ってきた実績を持つ。

 常々彼は「日本には本当の文化戦略は存在しない」と言う。私も昨年の月例報告で書いたことがあるが、文化戦略とは海外の人々に対して、日本文化の素晴らしさをPRし、魅了させることであるのに、日本にはこうした意図が全くないのである。

 特に欧米の国は、自国の文化に強い誇りと自信を持ち、それを世界のスタンダードにすることで多くの利益を得てきた。アメリカのハリウッド映画は、アメリカの大衆消費文化を映画というメディアによって世界中に広報し世界のライフスタイルを大きく変化させてきた。ヨーロッパもまた然りである。特にフランス・イタリアといった国は、世界を魅了させることにより、観光・ブランド産業・食品といった分野で大きな利益を得ている。

 翻って日本はと言うと、戦後の敗戦のショックから自国の文化を見失い、誇りをなくし、今や記憶喪失の状態にある。生活文化の中にも、芸術文化の中にも、世界に誇るべき多くの資産がありながらそれを見出すこともままならず、逆に欧米の文化戦略のもっとも大きなお得意さんになってしまっている。

 今回の韓国公演で強く意識したのは「日本発のエンターテイメント」である。アメリカのブロードウェイ、フランスのオペラ座、イタリアのスカラ座、スペインのフラメンゴ、オーストリアのウィーンフィルなど、欧米の国家は世界中で通用するエンターテイメントを持っており、世界中をツアーしている。こうした資産は国家のブランドイメージを考えるうえで非常に重要である。そして現在の日本にこうした資産があるかというと、答えは厳しいであろう。

 今回一応の成功を見たが、クオリティーはまだまだ向上の余地がある。私の活動の根本である「日本文化」をいかに現代人を魅了するようにアレンジしていくか。J-ARTの挑戦は続く。

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二之湯武史の論考

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Takeshi Ninoyu

松下政経塾 本館

第21期

二之湯 武史

にのゆ・たけし

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