論考

Thesis

ヨハネスブルグ体験記

去る8月26日から9月4日まで、南アフリカ共和国のヨハネスブルグで行われたサミットにブース出展者として参加することができた。地球環境の破壊がより鮮明に感じられる恐るべきこの時代に、92年のリオ宣言を踏まえた具体的アクションプランを策定する会議とあって歴史的な意義は非常に大きかったはずである。しかし結果的には先進国・途上国の対立など各国の思惑の絡んだ非常に政治的な会議となり、有効な方策はほとんど決定しなかった妥協の産物となった。

 われわれ人類をはじめ途方もない種の生命が生活を営むこの地球の存続を世界のリーダーが話し合うべきサミットであるが、経済至上国アメリカの不参加なども手伝って話題性の割には成果の乏しい会議であった。結論的にいって、先月の月例にも記したように、政治という舞台ではもはや妥協しか生まれないのではないか、との個人的意見を持っている。

 近現代を支配している科学技術・科学思考が至る所にまで地球への脅威となっているにもかかわらず、根本的な発想の転換なく経済開発を維持しながら環境を保持しようとの人間の思い上がりはもはや止められそうもない、との思いを強くした。経済とは地球がなくなれば存在し得ないものなのに。永遠の地球の存在を前提として、経済と自然環境を対立項として、人間を地球の専制君主として、先進国を途上国の搾取者として。こうした現代人が常識として刷り込まれている価値観を、奇麗事ではなく建前ではなく、本音で問題意識をもっている政治家が世界に存在しないんだな、と気づいたのは一つの収穫であったが。

 それだけに、古代から自然との共生概念を実際の生活に生かしてきた日本をはじめアジアの国々の使命を感じた。最近は「日本のアイデンティティー」を議論することが一つの必要要素となっているからか、こういうことを口に出す政治家はいる。確かにいる。しかしそれを実感をもって、日本が何たるかを経験を通じて身に付けて、それを社会生活の中にシステムとして導入できる政治家は今ほとんどいない。電力でいえば太陽光など自然エネルギー、ゴミ問題では堆肥化システム、水で言えば無薬品浄化、など開発されている技術はもう存在する。あとは日本が世界に先駆けて「環境立国」を表明し、国家予算を集中的に投資して実用化を図るだけの話である。その際の石油利権、原子力発電利権、処理場利権、など命を張ってつぶし、国を正しい方向に持っていくだけの話である。それが世の中は、環境「ビジネス」として金儲けにはしる人、「日本は自然崇拝の民族である」と言葉でだけ言う人。ああ、何たること。

 私は滞在中、あらゆる場面で矛盾を目撃した。たとえば、私は、ウブントゥ村(会議場とは別の展示会場となった場所)の日本パビリオンで、J-ARTが担当した太陽光発電、水質浄化装置、有機廃棄物堆肥化プラント、の展示ブースをプロデュースしていた。広大な敷地内のパビリオンでは、飲食・土産など多くの露店も出展しさながらお祭りの雰囲気を演出していた。環境サミットであるので、ごみの分別収集を徹底させようと6種類に分けられたごみ箱が敷地内のいたるところに置かれていた。しかし、参加者の行動は全く環境への関心・配慮に欠けるものであり、アルミのごみ箱に紙くずが詰められ、紙のゴミ箱に空き瓶が捨ててあるなど、分別どころではなかった。こうした建前・本音は一般参加者においてもそうなのである。一体何が環境サミットだと憤慨した。

 また、企業ブースでは、パンフレットをはじめペーパー資料が山のように積んであり、ある日本の自動車メーカーでは道行く人にこれでもかとパンフレットを配りまくっていた。トイレ、ごみ箱、通路にはそのメーカーのパンフレットが散乱しており、一体この何が環境会議、環境配慮型企業、であろうかと、企業の倫理を含めて悲しさを感じた。エコ・カー等と技術の開発も必要であるが、同時にモラルの重要性を改めて認識した。環境問題は技術開発だけでは解決できない。人間のモラルが最大の問題である。

 パビリオンを見学しに来た日本の政治家は、ご家族連れの遠足団体であった。真剣に環境問題を憂い、徹底した問題意識を持ち、必死になって各ブースの技術を勉強しようとの姿勢のある政治家は橋本元首相をはじめ数人だけであった。環境大臣を含め、日本の政治家の問題意識の低さには驚きを禁じえなかった。各国首脳が必死に技術に関して質問し、技術援助の可能性を探り、私に詰め寄ってくる、その姿が日本にはなかった。世界の環境を真剣に憂い、貢献する技術を血眼で探し、実用化させていこうとする使命感はまったく感じられなかった。

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二之湯武史の論考

Thesis

Takeshi Ninoyu

松下政経塾 本館

第21期

二之湯 武史

にのゆ・たけし

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