論考

Thesis

航空自由競争と地方空港

 島根県益田市にある県営石見(いわみ)空港が岐路に立たされている。石見空港は今から9年前の平成5年7月2日に県東部の出雲空港、離島である隠岐空港に続いて県下3番目の空港として開港した。当初はエアーニッポンが東京、大阪それぞれから一便ずつを就航させた。開港後は利用率も好調で、平成9年7月からは東京線が二便に増便された。しかしながら、長引く不景気などの影響からか東京線増便後の平成10年度をピークに利用客数は伸び悩み、大阪線に至っては存続の危機に瀕している状況である。平成13年11月からはそれまでのエアバスA-320(166人乗り)からボーイング737-500(126人乗り)へ小型化が図られた。平成13年度の大阪線の旅客数は47,680人、利用率は43.8%、前年比で107.9%の伸びを示している。しかしながら、依然として厳しい状況が続いている。大阪線は利用状況を考慮しながら、運行するかどうかの協議を地元自治体とエアーニッポンの間で半年毎に行っている状態である。

 東京線の平成13年度の旅客数は113,632人、利用率は52.3%、前年比で110.6%の伸びを示した。大阪、東京両路線の高い伸び率は地元の利用運動の成果である。このような中で、今年7月にエアーニッポンの親会社である全日本空輸(ANA、以下ANAと表す)は東京―石見線の一便減便を打ち出し、島根県と益田市に伝えてきた。日本航空(JAL、以下JALと表す)と日本エアシステム(JAS、以下JASと表す)の経営統合による競争激化に備え、そのための東京国際空港(羽田空港、以下羽田空港と表す)の発着枠を収益性の高い札幌線に振り替えるためである。

 東京―札幌線の平成13年度の旅客数は9,367,334人で国内第一位を誇り、国内線総旅客数の約10%を占めている。第二位の東京―福岡線を110万人上回り、国内航空の大幹線であることが窺える。同時に世界で最も旅客数の多い路線でもある。便数を見てみると、JAL―13、ANA―14、JAS―12、エアドゥ―6の合計で45便が就航している。これはJAL、ANA、JASの3社で東海道新幹線に対抗するために創設した東京―大阪路線の「シャトル便」の合計34便よりもはるかに多い。

 しかしながら、平成13年度の利用率は67.7%でしかない。つまり東京―札幌線に提供されている座席数は約1,380万席の内、約450万席は「空」ということになる。ANAだけの実績を見ても、旅客数3,509,980人、利用率69.1%である。確かにJAL+JASで合計25便になり、ANAとの便数の差は歴然としている。これでは競争に不利と考えても無理はないであろう。しかし、企業でも、自治体でも合併なり統合した場合には無駄を見直すところであり、新JALグループが25便を維持するとは考えにくい。これ以上増やしたところで、乱売合戦になり収益性は低下するのではないだろうか。事実、札幌線にエアドゥが参入したときにはその前後の大手三社の運賃は軒並み下がっている。

 国土交通省は島根県などの二便維持の陳情に対して、自由競争の中で介入は難しいとの態度を取っているが、そもそも石見線が二便に増便された際の経緯を振り返ってみたい。平成9年3月、当時の運輸省は羽田空港新C滑走路の完成に伴い増加する新規発着枠40便(往復)の内、6便を政策枠として決定した。少数路線の拡充や新規開設空港を配慮し、配分先を指定したものである。前年度まで70%以上の利用率が続いた石見線はその枠に組み入れられたのである。それを今になって収益性のみを求めるということが許されてよいのだろうか。昨年9月の米国での同時多発テロ事件以降、航空会社の収益が大幅に落ち込んだのは事実である。米国最大手のユナイテッド航空でさえ倒産の危機に直面している。
 しかし、航空会社は民間会社であると同時に公共交通を担っている。収益性だけで判断してよいはずがないのではなかろうか。石見線が全く採算が取れない、札幌線の座席が足りない、羽田空港に空きが十分にある、ということであれば仕方がないであろう。今回ANAは利用率に関わらず減便する意向であり、それでは、地元は何を努力してもダメだということになる。

 私は、石見空港は離島扱いで考えるべきだと思う。石見空港は島根県の最西端の益田市にあり、島根県西部と山口県北東部を利用圏域としている。圏域人口が20万人しかおらず、人口の減少、高齢化の問題を抱え、経済状況も厳しい地域である。石見空港開港前は「陸の孤島」と内から外から言われていたものだった。今でも新幹線で乗り継ぐと東京までは約7時間、大阪にも4時間以上かかる。このような状況の中で開港した石見空港はこの地域にとって大変重要なものである。

 羽田―伊豆大島にはエアーニッポンの子会社「エアーニッポンネットワーク」が日に3便就航している。平成13年度の旅客数は87,914人、利用率は73.1%である。石見線に比べ2万5千人少ない旅客数の大島線が3便維持されているのは距離が全く違うので一概に比較できないが、「離島」という側面が大きいように思う。私は先に述べた条件からすると石見空港も離島に近い配慮をすべき場所と考える。単独で採算が取れなければ、補助金など方法はいくらでも考えられるのである。今回、最終的にどのような判断がされるかは今後の展開を見守りたいが、自由競争ですべてが片付けられていいはずがないのである。

参考文献

平成14年度石見空港利用拡大促進協議会総会資料
全日本空輸ホームページ
数字でみる航空2002 航空振興財団
平成13年度国土交通白書 国土交通省

Back

福原慎太郎の論考

Thesis

Shintaro Fukuhara

福原慎太郎

第22期

福原 慎太郎

ふくはら・しんたろう

株式会社成基 志共育事業担当マネージャー

Mission

「地域主権国家・日本」の実現 ~人と地域が輝く「自治体経営」~

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門