論考

Thesis

市町村合併から考える「地方自治」

 現在、全国各地で「市町村合併」の議論が沸き起こっています。政府は現在の3000余りある市町村を1000程度にすることを目標に合併を推進しています。では、なぜ市町村合併の話が出てきたのでしょうか。下図の通り、この37年間で市町村の数は174しか減少していません。日本の市町村は明治以来、大きく2度の大合併期を経て現在に至っています。下図にあるような「明治の大合併」「昭和の大合併」と言われるものです。しかし、これらの合併が国の強い意向によって進められたことから、長い間しこりが残り、未だに尾を引いている地域もあります。

市町村数の変遷と明治・昭和の大合併の特徴
総務省ホームページより抜粋
年月市町村計備考1888(明治21)年-(71,314)71,314 「明治の大合併」
 近代的地方自治制度である「市制町村制」の施行に伴い、行政上の目的(教育、徴税、土木、救済、戸籍の事務処理)に合った規模と自治体としての町村の単位(江戸時代から引き継がれた自然集落)との隔たりをなくすために、約300~500戸を標準規模として全国的に行われた町村合併。結果として、町村数は約5分の1に。1889(明治22)年39(15,820)15,859市制町村制施行(明22. 4. 1 )
(明21. 4. 17  法律第 1号)1947(昭和22)年 8月2101,7848,51110,505地方自治法施行
(昭22. 5. 3  法律第67号)「昭和の大合併」
 戦後、新制中学校の設置管理、市町村消防や自治体警察の創設の事務、社会福祉、保健衛生関係の新しい事務が市町村の事務とされ、行政事務の能率的処理のためには規模の合理化が必要とされた。昭和28年の町村合併促進法(第3条「町村はおおむね、8000人以上の住民を有するのを標準」)及びこれに続く昭和31年の新市町村建設促進法により、「町村数を約3分の1に減少することを目途」とする町村合併促進基本計画(昭28. 10. 30 閣議決定)の達成を図ったもの。約8000人という数字は、新制中学校1校を効率的に設置管理していくために必要と考えられた人口。昭和28年から昭和36年までに、市町村数はほぼ3分の1に。1956(昭和 31)年 9月4981,9031,5743,975町村合併促進法失効
(昭31. 9. 30 )1965(昭和 40)年 4月5602,0058273,392市町村の合併の特例に関する法律施行
(昭40. 3. 29  法律第 6号)1995(平成7)年 4月6631,9945773,234市町村の合併の特例に関する法律の一部を改正する法律施行
(平 7. 3. 29  法律第50号)2002(平成14)年 4月6751,9815623,218地方自治法等の一部を改正する法律
(平14. 3. 30  法律第4号)

 今回の市町村合併は、約700兆円の借金を抱える国と地方の財政危機、地方分権時代に備えた「受け皿」の整備などが背景にあります。私はこの合併論議は自分達の住む地域のことや、「あるべき地方自治の姿」を考えるよい機会だと思います。兵庫県篠山市のように将来を見据えて早々と合併をした自治体もありますが、現段階では国が示した方針に何とか乗り遅れまいという思いで推進されているものが多いように感じます。将来日本が少子高齢化社会を迎えることは避けて通れません。合併をする、しないにかかわらず、地域の将来のことを考えながら議論を深め、結論を出す必要があるのではないでしょうか。そして、合併をするのであれば合併特例債などの特典がある2005年3月までにする方が多くのメリットを享受できるはずです。そういう意味では残された時間は多くはありません。

 平成13年10月31日、福島県東南部の茨城県に程近い東白川郡矢祭町議会は「市町村合併をしない矢祭町宣言」の決議を採択しました。
http://www.town.yamatsuri.fukushima.jp/sengen.pdf
この宣言では、「昭和の大合併」における反省と国の押し付けへの反対を堂々と表明されています。私は地域に住む方々が真剣に議論した結果でこのような宣言をされたことは素晴らしいことだと思います。市町村合併をするべきでないということではありません。対象自治体の市町村長や各議会の議員の方々が自分の保身のために合併反対をすることはあってはならないことです。また、感情論的に「保身のための反対派だ」のようなレッテルを貼り、本来の議論ができないことが無意味なことは言うまでもありません。

 地方自治とはつまるところ「住民自治」に行き着くのだと思います。「自治」とは「自ら治める」と書くものです。そこでは、「補完性の原理」の確立が求められるのです。つまり、日常生活の身の回りで発生する問題は、まずは個人や家庭が解決し、個人や家庭で解決できない問題は自治会など地域コミュニティで処理する。それも不可能な問題については市町村行政が受け持つというものです。そういうことを考えると、「自分達の地域をどうするか」という視点が最も重要になるはずです。そのために、私たちに一番身近な基礎自治体である市町村がどうあるべきかという視点で市町村合併を考えなければなりません。

 また、市町村に対してはこれまでの「末端行政」という発想から「先端行政」に意識を変えなければいけません。それは、首長(市町村長)や議員、職員はもちろんのこと、私たち住民がもっとも求められると思うのです。住民が「主役」と言葉で言うことは簡単です。しかし、「主役」であるためには私たち自身がより一層の「主体性」と「責任」を持つ必要があると思います。

「補完性の原理」が確立すると、市町村のあり方を議論していく内に、都道府県のあり方も当然視野に入ってくるようになるでしょう。さらに進むと日本という「国」のあり方を考えることになるはずです。「市町村合併」や「地方自治」のあり方を議論することは、最終的にはこの国を構造から変えながら、より良くできる手段でもあります。そういう意味でも今回の市町村合併を私たちの身近な問題として捉え、議論を深めていくことが必要です。

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福原慎太郎の論考

Thesis

Shintaro Fukuhara

福原慎太郎

第22期

福原 慎太郎

ふくはら・しんたろう

株式会社成基 志共育事業担当マネージャー

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「地域主権国家・日本」の実現 ~人と地域が輝く「自治体経営」~

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