論考

Thesis

政治とカネ、NGOとカネ、そして新通貨へ

新通貨を用いた公共空間の再編

 政治とカネをめぐる問題は、相変わらず世間を騒がせている。また別のところでは、NGOの重要性が叫ばれつつも、十分な活動ができるだけの資金力を持つNGOは少ない。この両者に共通することは、本来カネを稼ぐことを目的としていないにもかかわらず、実際の活動にはカネがかかるということである。この問題を解決するための2つのアプローチを見てみたい。その一つ目は現行経済システム内での解決方法で、公的役割を担うアクターが税金、寄付などの公共空間に投じられた資金を競争的に公平に分配するアプローチである。もう一つは、現行経済システムを超えて、現行のカネを介在しない財の交換システムを創設するアプローチである。

(1)政治活動にはカネがかかる

 政治家とカネの問題は、いつの時代も世を騒がせてきた。しかし、昨今世の中を騒がせている政策秘書給与を巡る問題は、これまでの政治家とカネを巡る問題とは少々異なった種類のものである。つまり、これまでは利権を持った年配の大物政治家とカネの問題であったが、今回のそれは、比較的利権も資金力も無い、まだ若い政治家とカネを巡る問題だということである。

 このことが示すのは、政治という公共性を持った活動をするにはカネがかかるということである。もちろん、不正はよくない。しかし、まじめにやっても政治にはカネがかかる。このことをはっきりと認識し、政治家とカネをめぐる問題に正面から取り組む必要がある。

 政治家の地元事務所は、言ってみれば中小企業の事務所のようなものである。7、8人の秘書=従業員を抱え、駅前などに事務所を構えている。しかし、企業と決定的に違うのは、売上がない点だ。にもかかわらず、企業と同じような賃料を払って事務所を構え、企業と同じように秘書=従業員に給料を支払わなくてはならない。売上のない政治家がどうやってこれをまかなっているかといえば、献金などもあるが、多くの特に若手の政治家は、自分の議員としての給料からも支払っている。こうした固定費だけではなく、政策を何万人もの有権者に伝えるためのチラシやポスターの印刷、郵送、ポスティングなどにかかる費用を考えてみても、お金がかかることはすぐにわかるだろう。

(2)NGO活動にもカネがかかる

 また政治家とカネをめぐる問題よりは新しく、最近出てきた問題として、NGOとカネという問題もある。今のところ、NGOには政治家のような権力も無いし、税金から決まった額が定期的に支給されるわけではないから、NGOとカネを巡るスキャンダルのようなものはあまり聞かれない。しかし、NGO活動という公共性を持った活動をするにはカネがかかるということだけは同じである。本格的に活動しようと思えば事務所も必要だし、フルタイムの職員を置けば人件費もそれなりの金額になる。また基本的にはカネを稼ぐことを第一の目的とはしていない。こういった点は、政治家の場合と同じである。

 NGO活動にはお金がかかるのに、その費用をまかなう手段を備えるのは大変なので、NGO活動はなかなか広まらない。昨年、学校教育過程での「奉仕活動」義務化が話題となったが、日本でNGO活動、あるいはボランティア活動というと、時間とお金に余裕のある人たちが自由時間と私財を投じて滅私奉公するというイメージがあった。NGOの活動に対する理解が最近かなり進んできているとはいえ、現実にはNGO活動で生活していくのはまだまだ厳しいものである。

(3)カネがかかることを認めよう

 政治家の問題、NGOの問題、この二つに共通するのは、

(i)公共的な価値の追求を行っている。

(ii)カネを稼ぐことを目的としていない。

(iii)にもかかわらず、活動を維持するためにはカネが必要である。更に、本格的な活動を追求しようと思えば思うほど、より多くのカネが必要である。

この3点が挙げられよう。

 現行の社会経済システムの中でこの問題を解決しようと思えば、これらの公共的な活動を遂行することにお金がかかることをきちんと認め、その手当てを考えなくてはならない。政治家の活動資金に関して、例えばイギリスでは、政党が選挙にかかる費用をはじめ、諸費用を負担する。そしてなにより、選挙運動を党がしっかりと責任を持って行うため、議員個人が必要以上に選挙を考えて一喜一憂することは無く、国政に集中できる環境が整えられている。これはすなわち、日本の国会議員のように、多額の人件費を割いて地元に大勢の秘書を抱える必要が無いということでもある(佐藤、下斗米、原田、山本、2001年*1 https://www.mskj.or.jp/jukuho/0102jkrep21.html )。日本でも企業献金を廃止し、政党中心の政治を実現するために、政党助成金の制度が導入された。しかし、依然若手の政治家、特に野党の政治家は自分の議員歳費を持ち出したり、政策秘書、公設秘書から寄付を受けて事務所を運営せざるを得ない状況である(もちろん、制度の違法な利用は許されるものではない)。また、NGOの活動に関して言えば、NGOに対する補助金や、一歩進んでNGOへの寄付に対する税制控除などが挙げられる。

 現在は、官僚機構が公的空間をほぼ独占している状態である。カネの面から表すと、税金という形で公的空間に投じられ得る余剰をほぼすべて集め、これをほぼ独占的に使っている。しかし、公的活動をしているのは官僚機構だけではないし、公共財を提供するために公的空間に投じられるものは、税金だけではない。政治家やNGOも社会貢献活動をしているし、社会的な活動をするNGOなどに対する寄付は、税金と似たようなものである。違うのは強制的に集められたカネか自発的に投じられたカネかという点と、政府に使い方を委ねるかNGOに使い方を委ねるかという点だけである。公的空間で社会貢献事業をする主体にカネを委託するという点において変わりはない。

 政治やNGO活動といった社会的な活動にカネがかかるという問題に正面から取り組み、解決策を考えていくならば、公的空間に対する税金も寄付金も含めた投資総額を、公的活動を担う各主体間で競争的に獲得する時代が今後訪れるであろう。

(4)カネで表せない社会貢献の評価

 ここまで、政治やNGOといった社会貢献活動を行う主体とカネの問題を現在の社会経済システムの中で解決する道筋をたどってきた。つまり、各アクターがサービスの内容と質を競争し、その結果として公的空間に投じられる資金を公正に分配するということである。しかし、もう一つの解決策がある。すなわち、現在の社会経済システムを超えてしまうことである。

 例えば、心ある政治家、真剣なNGOのもとには、ボランティアで働こうという人たちが大勢集まってくる。こうした活動は、税金を払って国家に社会貢献事業の実施を任せるのではなく、いわば直接自分で選択して社会貢献活動をしているのだといえるだろう。こうしたタイプの活動こそ、これからの社会に適している。こうした直接の社会貢献活動をもって税金の納付に代えることで、政治家やNGOがカネを必要とする場面を少なくするという方法がそれである。場合によっては、ひとりひとりの社会貢献活動に対して証書を発行し、これをもって税金の一部または全部を納められるようにするという方法が考えられる。この方法の利点は、以下の3つである。

(i)政治活動を維持するのに必要な部分をカネを介在させないで回すことにより、カネの論理で動く企業などから多くの献金を集める必要がなくなる。

(ii)市民が自主的に社会貢献活動をするインセンティヴを与えれば、それだけで市民の公共意識が高まる。

(iii)今後ますます重要性が増してくる環境や介護・福祉といった分野は、生活に密着したものである。ここでは国が税金という形でカネを一箇所に集めて大規模事業を行うメリットは比較的少ない。道路建設、空港建設、ダム建設といった大規模事業には集権的な方法が有効であるが、環境や福祉といった生活密着事業には分権的な方法のほうが有効である。

(5)証書の交換

 社会貢献活動に対して与えられた証書は、他の財と交換されても良い。例えば、政治家の政策スタッフとして土壌汚染対策法の成立に尽力したことで得られた証書を、祖父母の介護サービスの対価として支払い、介護サービスをした人が税として国に納めるといったようなことも考えられる。また例えばビジネスで忙しい人が、積極的にNGO活動をして証書に余裕のある人から証書をカネで買い取って納めてもいいだろう。これは、ビジネスで成功した人から社会に貢献した人への所得移転となる。カネの面でも、正しいことをした人が報われることになるわけである。証書をカネで買うことで社会貢献活動から免れることへの批判もあろうが、現在でも特に何かしなかったからといってペナルティがあるわけでもなく、カネを出すのも広い意味での社会貢献活動である。

 こうした交換を認めれば、現在のカネと何ら変わるところはなくなってくるのではという指摘もあるだろう。しかし、決定的な違いは、現在のカネは常に欠乏しているのに対し、社会貢献活動によって生み出される証書は十分にあるということである。すなわち、例えばAさんがあるNGOで介護サービスに従事する場合を考えてみよう。Aさんに対して現行のカネを支払う場合、「先立つもの」とはよく言ったもので、事前に資金手当てがいる。しかし、NGOが十分にカネを持っているということは少ないだろう。しかし、この証書の場合はNGO自体が発行主体になるので、足りなくなるということは無い。そしてこの証書に対してマイナスの利子率を設定すれば、証書を財産として保有するようなこともなく、交換がスムーズに行われる。多くの場合、交換はサービス同士であろうから、次の社会貢献活動が促される。最後には一部が税収として国庫に納められるとしても、国がAさんの介護サービスをしてもらうためにNGOに補助金を出す場合と比べてより大きな効果が生み出されているわけである。

 これまで政治家やNGOといった、カネを稼ぐことを第一義としない活動と現行のカネの問題をみてきた。そもそも、カネを稼ぐことを第一義としない活動は、マネーシステムの中にぴったりとはまるほうが不自然である。現行の競争システムはそれはそれでよいところもあるが、現行経済システムを超えて新しい循環システムをつくることが、今後ますます必要度を増してくるであろう。

(注1)佐藤広典、下斗米一明、原田大、山本満理子、2001年、「政治家輩出プロセスに変革を!」、松下政経塾塾報2001年2月号  https://www.mskj.or.jp/report/1497.html 参照。

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原田大の論考

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第21期

原田 大

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