論考

Thesis

忘れられた弾道ミサイルの脅威

ブッシュ政権は、発足当初から米国益重視路線を鮮明に打ち出し、京都議定書、CTBT(包括的核実験禁止条約)、生物兵器禁止条約などから次々と離脱した。このような外交姿勢をユニラテラリズムと批判する声が後を絶たない。昨年12月には、ミサイル防衛計画の障害となるABM条約から脱退することをロシア側に通告した。これに対しても一方的条約破棄と捉え、軍縮体制崩壊や米露関係の変化が懸念されている。

 ABM条約脱退の通告からミサイル防衛計画は、急速に進展している。1月上旬には、国防総省の弾道ミサイル防衛局(BMDO)をミサイル防衛庁(MDA)へと格上げを行った。下旬には、海上発射型のミサイル迎撃システムの実験を実施した。海上での迎撃システムの開発・実験は、ABM条約に抵触する。正確に論じれば、今回の実験は条約の範囲内で行われた。しかし、6月に正式に条約から脱退すれば、海上や宇宙空間などの今まで条約によって制限されていた実験が本格的に実施されることは想像に難くない。

 この海上発射型の実験が行われる直前、インドが核搭載可能な弾道ミサイルの発射実験を実施した。インドとパキスタンが緊迫した情勢下であるにも拘らず、米国はこれを静観した。自国の実験を前に他国のミサイル実験を批判する事が出来なかったのであろう。これも一つのユニラテラリズムの表れかもしれない。

 しかし、ミサイル防衛計画はブッシュ大統領の選挙公約であり、有権者に対して選挙公約を誠実に実行しようとする政治家の姿勢をユニラテラリズムの一言で断じるのは、如何なものか。問題は、米国のユニラテラリズムではなく、存在する弾道ミサイルの脅威である。

 弾道ミサイルの拡散は確実に進んでいる。ラムズフェルド国防長官は、現在28カ国が、それらを保有していると言及している。我々は、それらミサイルの脅威から身を守るための防衛手段を有していない。そして、その脅威は、既に現実のものとなっている。1980年以来、弾道ミサイルは6つの戦争や地域紛争で使用されている。例えば、1991年の湾岸戦争や1999-2000年のロシアによるチェチェンにおける軍事行動の際に使用されている。ミサイルの脅威は確実に成長している、と米国のミサイル防衛庁は警鐘を鳴らしている。

 では、日本にミサイル防衛は必要であろうか。5年前に北朝鮮がテポドン1号を発射し、日本列島を横断し太平洋に着弾したことは記憶に新しい。それが事故だったのか、故意だったのか、議論の分かれるところではあるが、それは重要ではない。ことの真相がどうであれ、日本にミサイルが着弾する可能性、その脅威が今尚存在していると言うことが重要である。北朝鮮がテポドン2号の発射実験を行い、その際に事故が起きたら。我々はその想定され得る脅威に対して有効な防衛手段を有してない。次に行われるだろう実験で事故が起きない、と誰が言い切れるだろうか。

 1998年7月15日、ラムズフェルドが委員長を務めた米国に対する弾道ミサイルの脅威を評価する委員会が、いわゆるラムズフェルド報告書を公表した。同報告書は、北朝鮮が弾道ミサイルの開発、配備に注力していると、その脅威を指摘した。その約一ヵ月後の8月31日、北朝鮮がテポドン1号を発射し、弾頭が日本列島を横断し太平洋に着弾した。

 今年1月、CIAが、興味深い報告書を公表した。「2015年までの外国のミサイル開発と弾道ミサイルの脅威」と題したその報告書では、中国は3つの移動式戦略ミサイルを新規開発中である、と指摘した。その直後、中国は1月下旬に陸上発射の新型戦略ミサイル「東風31」の各個誘導多核弾頭(MIRV)化のための飛行実験を行った。更に、新型の潜水艦発射長距離弾道ミサイル(SLBM)「巨浪2」(推定射程5000-6000キロ)の発射実験準備に入ったとも伝えられている。更に、この同報告書では、北朝鮮は多段階式テポドン2号の飛行実験の準備を整えている可能性があり、北朝鮮はミサイルを開発し続ける、とその脅威も指摘している。北朝鮮が、その実験を行う可能性は否定できない。

 ミサイル防衛は、決して対岸の話では無い。既に日本は、弾道ミサイルの脅威に曝されている。万が一、何らの通告も無く他国が日本の領土を侵犯するミサイルを発射したならば、日本はそれを迎撃することでその非礼に応えるべきである。

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山本朋広の論考

Thesis

Tomohiro Yamamoto

山本朋広

第21期

山本 朋広

やまもと・ともひろ

衆議院議員/南関東ブロック比例(神奈川4区)/自民党

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外交、安保政策

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